ウイルス分離の培養試験では対照実験は要らない?

バイオ実験の疑問・リクエストに答えます
この記事は約4分で読めます。

ウイルス分離で対照実験を置かない理由はなんでですか?

本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.

本記事の内容・ウイルス分離試験の概要

・ウイルス分離で対照実験をする理由

・ウイルス分離で対照実験をしない理由

フールは元研究者の獣医師で,夢追い人である.

フールの登場

こんにちは.

元研究者のフールです.

先日,以下のような質問をいただきました.

貴サイトの記事、「コントロール(対照)実験を行う理由【比較対象は何?】」を読みました。

対照実験の重要性が理解できました。

ですが、ウイルス学の世界では、分離培養試験の対照実験をしたことがないと聞きました。

実際、〇〇*に対照実験を依頼すると断られました。

【中略】*

ウイルス学では対照実験をしないのは何故なのでしょうか?
科学としてそれは許されるのでしょうか?

*個人・組織・地域などを特定できる情報を含んでいたため,内容を変更・省略しております.

フールの登場

ご質問ありがとうございます.

私自身もウイルス分離の仕事をしたことがあるので,今回は私の考えを回答いたします.

サマリー・「ウイルス学で対照実験をしない」というルールはない.

・ウイルス分離では対照実験を設定しない場合もある.

スポンサーリンク

ウイルス分離の概要

フールの登場

本題に入る前に,ウイルス分離試験の概要をお話しますね.

ウイルス分離では,ウイルスの存在の有無を細胞変性効果(CPE)で確認することが多いです.

その理由は,ウイルス粒子を直接確認する方法は電子顕微鏡で観察するしかないからです.

フールの登場

実験室に電子顕微鏡があり,さらに,それを利用できる者がいなければダメですね.

また,ウイルス量が十分でないと見ることができません.

フールの登場

ヒトや動物・環境由来のサンプルの場合,ウイルス量が十分に確保できないことも多いです.

そこで,ウイルスの存在を間接的に確認する方法を採用します.

それがCPEを確認する方法です.

フールの登場

CPEは光学顕微鏡で観察できるので,多くの実験室で採用できます!

CPEは,細胞破壊円形化細胞融合ぶどうの房状変性など様々です.

誰が見ても明らかな変化であることが多いですが,使用している細胞とウイルスによっては顕著なCPEを示さない場合もあります.

フールの登場

だから,CPEだけで全てを判断することはありません.

最終的には,培養上清をサンプルとしたPCRを行ったり,感染細胞をサンプルとした蛍光抗体法を行うことでウイルス分離の判定を行います.

でも,サンプル数が非常に多い場合,CPEを指標にスクリーニングをかけます

CPE陽性のサンプルのみを次の試験に回すことで,それにかかる労力やコストを削減することができるからです.

スポンサーリンク

「対照実験をしない」というルールはない

フールの登場

私自身もウイルス分離の仕事をしたことがありますが,対照(コントロール)は設定していました.

CPEがウイルスによるものか,それとも他の原因(コンタミネーションなど)によるものかを判定できた方が良いからです.

だから,「ウイルス学で対照実験をしない」と決まっているわけではありません

でも,「対照実験をしない」ことはあります.

「対照実験をしない」場合はどんな時?

例えば,信頼できる機関がマニュアルを作成・公開している場合です.

使用する細胞・培地・血清・その他の試薬・判定基準まで細かく指定されており,マニュアルを作成する段階で十分に検討されていると考えられるときは,コントロールを置かないことも多いです.

科学的には対照実験をする方が良い

フールの登場

もちろん,科学的には対照実験をするに越したことはありません.

  • 試薬ロットの変更
  • 細胞ロットの変更
  • 作業者の経験・手技不足によるコンタミネーション

これらを考慮すると,コントロールは設定した方が良いと思います.

対照実験をしないという判断も必要

一方で,ウイルス分離が「実験(研究)」ではなく「業務」である場合は,上記のことも考慮した上でコントロールを設定する必要がないと判断することも必要だと考えています.

「業務」ですから,使用する試薬などにかかる経費はできる限り抑える必要がありますし,それにかかる労力について検討しなければなりませんね.

  1. すでに信頼できるプロトコールが確立されている
  2. 各種トラブルシューティングも対応できる
  3. 作業従事者の手技等にも不安がない

このような条件であれば,ウイルス増殖以外の理由でCPEが出る蓋然性は低いと考えて,コントロールの設定にかかる経費や労力を削減しても不思議ではありません.

フールの登場

「科学」という概念で全てを判断できないところが難しいところですね.

スポンサーリンク

私の回答は以上です.

最後までお付き合いいただきありがとうございました.

次回もよろしくお願いいたします.

2022年5月29日 フール