
遠心分離法の使い分けがよく分かりません.
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
本記事の内容・遠心分離法の分類
・各遠心分離法のメリット&デメリット

こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事している元研究者のフールです.
皆さんは,どのような用途で遠心分離法を使ってますか?

どのような用途?遠心分離は,物質を沈めて分離するだけでしょ?
このように思った方に本記事はオススメですよ!
実は,遠心分離法は4種類に分けられます.
ペレッティング法・浮上分画法・沈降速度法・等密度遠心分離法です.
そして,遠心分離法は「物質を分離する」だけではありません.

「物質を精製する」こともできるんです!
この記事では,4種類の遠心分離法についてまとめました.
本記事を読み終えると,遠心分離法の分類が分かり,実験系に合わせて使い分けることができますよ.
サマリー・ペレッティング法は溶液中の重い粒子を沈降させる方法
・浮上分画法は溶液中の密度が小さい粒子を浮かせて分離する方法
・ペレッティング法や浮上分画法では分離が難しいとき,沈降速度法や等密度遠心分離法を使う
遠心分離法の分類
遠心分離法は,大きく2つに分けられます.
① 分画遠心法 ② 密度勾配遠心法
分画遠心法
分画遠心法には,2つの分離法があります.
a) ペレッティング法 b) 浮上分画法
密度勾配遠心法
密度勾配遠心法にも,2つの分離法があります.
c) 沈降速度法 d) 等密度遠心分離法
1つずつ見ていきましょう!
ペレッティング法
ペレッティング法は,日常的に皆さんが行っている,いわゆる普通の遠心分離法です.

特別な方法ではありません.
図のように,溶液中の重たい粒子を沈降させることができます.
ペレッティング法を行う場合,スウィングローターよりもアングルローターを使うことをオススメします.
メリット
- 必要な目的物を沈降物として回収できる
- 細胞の回収
- プラスミド抽出のために培養した大腸菌の回収
- 不要な物を沈降させて上清から回収できる
- 細胞ライセートの不溶画分の除去
デメリット
- 粒子サイズごとに沈降物を分離することはできない
浮上分画法
浮上分画法は,溶液中の密度が小さい粒子を浮かせて分離する方法です.
生理食塩水などの密度調整液をサンプルに加えて遠心すると,その調整液の上層に密度が小さい粒子が浮上してきます.
密度が小さい粒子だけを回収することもできれば,密度が小さい粒子を除いた沈降物を回収することもできます.

学生のとき,生化学実験で血清中のリポタンパクを分離する実験を行いました.
先ず,生理食塩水(0.9% NaCl溶液)を密度調整液としてVLDLを分離し,下層の沈降物を回収して,別の密度調整液(17% NaCl溶液)を加えてLDLを分離するという内容でした.

当時は何をやっているのか不明でしたが(笑),今は理解していますよ!
メリット
- 粒子サイズごとに沈降物を分離できる
- 血清中のリポタンパク質を分離
デメリット
- 対象とする粒子の沈降係数の差が大きい場合にのみ有効
沈降速度法
沈降速度法は,粒子の沈降係数の違いに基づいて分離する方法です.

先ず,遠心管内に,上部から下部へ密度が大きくなる密度勾配をつくります.
この密度勾配は連続の場合もあれば,段階的(5-10%刻み)の場合もあります.
最上層にサンプル溶液を載せ,これを遠心します.
沈降係数が大きい粒子ほど早く沈降するので,遠心後は,沈降物がバンド状になって分離されています.
密度勾配液としては,ショ糖溶液やグリセロール溶液が使われます.

なお,沈降速度法で遠心する場合は,スウィングロータを使いましょう!
メリット
- 粒子サイズごとに沈降物を分離できる
- 細胞小器官の分離
- ウイルス粒子の精製
デメリット
- 密度勾配の作製が意外と難しい
- 遠心時間が長過ぎると全部沈降してしまう
- 乗せることのできるサンプルの容量が少ない
パーセント濃度
密度溶液のパーセント濃度には注意は必要ですよ!
重量対体積百分率濃度(容量% [w/v])で書く人もいれば,重量百分率濃度(質量% [w/w])で書く人もいます.

数値だけを見て密度溶液を調整すると大変なことになりますよ(笑).
【応用】クッション法
デメリットで「乗せることのできるサンプルの容量が少ない」と書きました.
何度も何度も沈降速度法を実施するのは面倒だし,大変ですよね.
その解決策として,クッション法という応用が存在します.

目的とする粒子の性質(遠心時間や分布する密度)がすでに分かっている必要がありますが…
この方法は,密度勾配を2層に減らせるので,その分だけサンプルの持ち込み量を増やすことができます.
等密度遠心分離法
等密度遠心分離法は,遠心中に自然と形成される密度勾配を利用する方法です.
遠心が平衡状態となると,粒子の密度と等しい媒体の密度部位に粒子が集まります.
密度勾配液としては,塩化セシウム溶液やフィコール・コンレイ液が使われます.
メリット
- 粒子サイズごとに沈降物を分離できる
- プラスミドDNAの濃縮
- PBMC分離
- 密度勾配の作製する必要がない
- スウィングローターとアングルローターのどちらでも可能
デメリット
- 密度勾配を形成する媒体と粒子との間に相性があり,目的に応じて使い分けが必要
もっと勉強したい方へ

ベックマン・コールターのHPがオススメです.
以上,遠心分離法の使い分け【まとめ】でした.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年5月5日 フール