バンドが伸びちゃった…どうして?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
ウェスタンブロット(WB)で,縦に伸びたバンドに出会った経験はありませんか?
高分子側にぼや~んとした状態のバンドです.
SDS-PAGE のゲルから転写しているので,基本はサイズごとに分離されるはずです.
それでは,なぜ縦に伸びるのでしょうか?
本記事では,その「ぼや~んとした」バンドのトラブルシューティングについてご紹介します.
サマリー・「バンドが高分子側がスメアになっている」と表現します.
・「テーリング(tailing)している」とも言います.
・考えられる原因が複数あります.
本日の課題
あなたは,以下の実験結果をどのように解釈しますか?
そして,どのようなトラブルシューティングが必要だと思いますか?
図3 WBによるタンパク質vv*の検出 S:サイズマーカー レーン1-6:サンプル(培養細胞のライセート) レーン7:ポジティブコントロール(vv発現細胞のライセート) レーン8:ネガティブコントロール(vvが非発現細胞のライセート) 1次抗体:抗vvマウスモノクローナル抗体 2次抗体:抗マウス‐HRP標識抗体 検出方法:化学発光法(Chemiluminescence)
*目的タンパク質zzのサイズは,80 kDa である.
バンドが伸びた理由
前回同様に,以下の流れは割愛しますね.
・サイズマーカーの確認 ・ポジティブコントロールの確認 ・ネガティブコントロールの確認 ・ポジティブコントロールのバンドとサンプルのバンドの比較
確認したい方は,以下の記事をご確認ください.
本題
さて、本日のお題である「ぼや~んと伸びたバンド」です.
サンプル1と3でバンドが伸びていますね~
コレ,正確には「バンドが高分子側がスメアになっている」とか「テーリング(tailing)している」といいます.
原因は?
さて,バンドの高分子側がスメアになるのは何故でしょうか?
実は,考えられる理由が8つもあります(笑).
1. 抗体濃度が高すぎる 2. SDS-PAGE中の発熱 3. 速すぎる転写時間 4. 転写時にゲルとメンブレンの密着が不十分 5. 泳動したタンパク質量が過剰 6. 不純物の混入 7. 還元処理が不十分 8. タンパク質の修飾
それでは,1つずつ確認していきましょう!
抗体濃度が高すぎる
使用している抗体が至適濃度を超えている場合,抗体の非特異的な結合により余計なバンドが出現します.
余計なバンドが目的のバンドの周辺に多い場合,今回のように見えることがあります.
サンプルの内容にもよりますが,これが原因なら他のレーンでも同様の現象が起きるはずですね.
SDS-PAGE中の発熱
発熱によりゲルが過熱するとのタンパク質の分解能が低下します.
また発熱が続くことでタンパク質自体が分解してしまいます.
発熱の原因として一般的なのは,定電流設定で電気泳動をしている場合です.
定電流で泳動する時は,冷蔵室など冷えている所へ装置一式を移動しましょう.
ただ,これが原因のときは,スメアが出現する方向はバンドの低分子側になります.
「タンパク質自体が分解している=低分子のタンパク質がたくさんできている」と考えることができますよね.
速すぎる転写時間
転写時間が短すぎると転写が不完全となります.
タンパク質の分子量に応じて転写時間も変動します.
分子量が大きいほど必要な転写時間は長くなります.
でも,これが原因なら他のレーンでも同様の現象が起きるはずですね.
転写時にゲルとメンブレンの密着が不十分
詳細は,以下の記事の通りです.
これが原因のときは,80 kDa 以外の位置(今回ならサイズマーカー)にも不鮮明なバンドが出る可能性が高いです.
泳動したタンパク質量が過剰
泳動したタンパク質量が多すぎると,ポリアクリルアミドゲルで分離能を超えてしまうため,図のようになります.
不純物の混入
細胞ライセートの場合はゲノムDNA,免沈サンプルの場合はビーズが不純物の代表例です.
これらの不純物は,泳動を妨げるのでスメアの原因になります.
還元処理が不十分
タンパク質分子間のジスルフィド結合が残っている分子とそうではない分子が混在したサンプルは,スメアの原因になります.
この場合,還元剤の濃度・処理温度・処理時間を検討して,スメアが出ない条件を探る必要があります.
タンパク質の修飾
タンパク質の翻訳後修飾(糖鎖など)は,スメアの原因となります.
糖鎖などは,天然の不純物と考えることができますね.
グリコシダーゼ処理など,翻訳後修飾を取り除く処理を検討しても良いでしょう.
考えられる原因が多すぎますね(笑).でも,落ち着いてください.1, 3 - 4の場合は他のレーンでも同様の現象が起きるはずだし,2はスメアの出現方が逆ですよ.
残るは5-8ですが,これらは単独で原因となる場合もあれば,重複している場合もあります.今回の内容だけでは情報不足で絞り込むことはできません.
トラブルシューティング
私は,提案するトラブルシューティングは,以下の通りです.
①泳動したタンパク質量を確認
泳動したタンパク質量が過剰ではないことを確認します.
サンプル1と3のライセート調整に使用した細胞数を確認してください.
細胞数が多かった場合,細胞数を減らしてもう一度検証しましょう.
2.0×106 ~ 1.0×107 cells/mLとなるように細胞ライセートを調整します.それを10 - 15 μL(総タンパク質として10 - 30 μgに相当する量)を使用します.
②不純物の有無を確認
サンプル中の不純物の有無を確認します.
今回は細胞のライセートなので,ゲノムDNAの混入が無いかを確認しましょう.
サンプルバッファーを加えたときに粘性が出現するかどうかでゲノムDNAの混入を確認します.
③タンパク質の翻訳後修飾に関する情報収集
同時に文献検索で,タンパク質vvの翻訳後修飾に関する情報も集めましょう.
サンプルの詳細はわかりませんが,細胞の由来が異なる場合,翻訳後修飾がある細胞と無い細胞があるかもしれません.
④還元処理条件を検討
最後に還元処理条件を検討します.
還元剤の濃度を上げたり,処理温度を低くして処理時間を延長したりします.
あとがき
今回の課題は,考えられる要因が複数存在しました.
実験のトラブルシューティングの大半は,今回のように複数ある要因を絞り込む作業を必要とします(慣れてくるとこの作業が楽しくなります!).
そして,「どれが最もらしい要因」かを判断できるようになる一番の近道は,全部試してみることです.
まさに「経験が物を言う世界」ですね.
とは言え,本当に全部やってたら,お金と時間が幾らあっても足りませんね(笑).
だから,私はココを作りました!
考えられる理由(知識)とそれをスクリーニングする力(判断力)を少しでも身に着けてもらえたら,私は嬉しいです.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします!
2019年11月8日 フール