緩衝液に添加する金属とグリセリンの役割

50%グリセリンって何に使うの?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
本記事は,緩衝液に添加する試薬・成分シリーズ最終回です.
最終回は,金属イオン*1とグリセリンです.
*1ココでいう金属は,金属元素だけでなく,アルカリ金属やアルカリ土類金属も含みます.
サマリー・ある種の酵素は,その活性発現に金属イオンを必要とする.
・タンパク質や核酸の保存液にグリセリンを添加することがある.
金属イオンの役割
ある種の酵素は,その活性発現に金属イオンを必要とします.
DNAポリメラーゼ・DNase・制限酵素などが有名ですね.
Mg2+
DNAポリメラーゼやDNaseは,その酵素活性を発現するためにMg2+が必要です*2.
PCRキットの中には,Mg2+の濃度を自由に調整できるように別チューブに分けているキットもあります*3.
*2Mg2+は,dNTPsとも複合体を形成します.よって,Mg2+濃度とdNTPs濃度のバランスも大切です.
*3Mg2+濃度が低いと特異的な増幅反応が得られやすいが増幅効率は悪くなり,Mg2+濃度が高いと増幅効率は高まるが非特異的な増幅反応も起こりやすくなります.
Na+
ある種の制限酵素の活性化を起こします*4.
K+
ある種の制限酵素の活性化を起こします*4.
*42種類の制限酵素を同時に反応させるDouble digestionの際は注意が必要です.先に塩濃度が低いバッファーの制限酵素で第1の酵素反応を行います.そして,第2の制限酵素の条件に合うように,塩濃度を調整し,第2の酵素反応を行います.使用するキットによっては,精製してバッファーを交換する必要があるでしょう.
グリセリンの役割
タンパク質(主に酵素)の保存溶液中には,最終濃度が50%となるようにグリセリンが含まれています.
グリセリンは,水溶液中でタンパク質の高次構造を保つ働きがあります.
ただ詳細な機序については,私も理解していません.
ごめんなさい.
おそらく氷の結晶による物理的な破壊の抑制と水が凍結することで起こる塩濃度やpHの変化からタンパク質を隔離することが重要なのでしょう.
「タンパク質の高次構造を保つ働き」があるので,IP用のライセートバッファーに加える場合があります.
その場合は,5%程度と薄めです.
また,グリセリンは,DNAやRNAの保存液にも添加することがあります.
DNAやRNAを,20%グリセリン添加TEバッファーに溶解して冷凍保存することで,ブラウン運動による切断を最小限に抑えることができます.
以上で,緩衝液に添加する試薬・成分シリーズを終わります.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年1月7日 フール