緩衝液にキレート剤を添加する理由【キレート剤って?】
キレート剤の役割って何ですか?そもそもキレート剤の「キレート」って何ですか?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
今回の「緩衝液に混ぜる」ものは,キレート剤です.
EDTAやEGTAが有名ですね.
キレート剤が入っていることは知っている人は多いですが,その役割まで認識している人は少ないのではないでしょうか?
本記事は,そんな方にオススメです.
サマリー・キレートとは,分子内の複数の原子が1つの金属イオンに配位結合することです.
・酵素の中には,その活性発現に金属イオンを必要とするものがあります.
緩衝液にキレート剤を添加する理由
同一分子内の複数の原子またはイオンが, 1 つの金属イオンに配位結合することをキレートと呼び,そのような化合物をキレート剤といいます.
例えば,エチレンジアミン四酢酸(EDTA)の場合,分子内の 2 つの N と 4 つの O– が金属イオンと配位結合します.
一般に,配位結合した金属イオンは水溶性が高く,その構造も安定しています.
つまり,金属イオンがその他の物質と相互作用しにくい状態になるのです.
酵素の中には,その活性発現に金属イオンを必要とするものがあります.
キレート剤を加えることで,金属イオンと酵素の相互作用が起こりにくい状態を作り,その活性を阻害することができます.
キレート剤に期待する効果
キレート剤は,金属イオンと酵素の相互作用が阻害して,その活性を抑えることができます.
具体的には,次の 2 つの効果を期待してキレート剤を使います.
- プロテアーゼを阻害する効果
- DNA分解酵素を阻害する効果
プロテアーゼ阻害剤としてのキレート剤
サーモリシンやカルボキシペプチダーゼなどは,その活性発現に金属イオンを必要とするプロテアーゼです.
キレート剤は,その阻害剤として機能します.
プロテアーゼ阻害剤に関しては,以下の記事もご覧ください.
DNA分解酵素阻害剤としてのキレート剤
DNA 分解酵素である DNase は,その活性発現に Mg2+ を必要とします.
そして, TE のバッファーの “E” は, EDTA のことです.
DNA の保存で TE バッファーを使う理由は以下の 2 点です.
・ pH を塩基性に保つことで, DNA を脱プロトン化して沈殿するのを防ぐ. ・ EDTA が Mg2+ をキレートすることで, DNase の影響を最小限に抑える.
DNAポリメラーゼもマグネシウムを必要とする
注意しなければならないことは, DNA ポリメラーゼもその活性発現に Mg2+ を必要とすることです.
DNA 溶液中のキレート剤がPCR反応へ持ち込まれると,PCR反応も阻害してしまう可能性がありますよ.
【まとめ】緩衝液中のキレート剤の役割
EDTA や EGTA などのキレート剤は,金属イオンと酵素の相互作用が阻害して,その活性を抑えます.
そして,緩衝液中のキレート剤に期待することは,①プロテアーゼを阻害する効果と②DNA分解酵素を阻害する効果です.
以上,緩衝液に加えるキレート剤の役割でした.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたしします.
2020年1月4日 フール