緩衝液に添加するタンパク質の役割【ブロッキングとは?】
![BSA](https://bioresearch-troubleshooting.info/wp-content/uploads/2021/06/Fuki_komaru_boy2.png)
BSAって何?どうして緩衝液に加えるの?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
緩衝液には,いろいろな成分が含まれていますね.
緩衝液に加える試薬や成分の役割は何でしょうか?
もちろん,「おまじない」ではありませんよ(笑).
本記事では,緩衝液に加えるタンパク質の役割をまとめています.
サマリー・牛血清アルブミンやゼラチン等を緩衝液に添加することがあります.
・緩衝液にタンパク質を加える目的は,大半の場合はブロッキングです.
・牛血清アルブミンには,抽出方法や精製度の違いに起因する分類があります.
緩衝液に添加するタンパク質の役割
緩衝液に添加するタンパク質としては,以下のものが有名です.
- 牛血清アルブミン(Bovine serum albumin: BSA)
- スキムミルク
- ゼラチン
これらを最終濃度が 0.1 – 10% の割合で加えます.
多くの場合,その役割はブロッキングです.
ELISA や WB のブロッキング
タンパク質がプレートやメンブレンに吸着することで,抗体の非特異的な相互作用が起こり得る箇所をコーティングします.
これにより,バックグラウンドを抑えることができます.
酵素の保存容器のブロッキング
酵素がチューブ壁へ吸着することに起因する相対的な濃度減少を抑えることができます.
BSA を加えることで,酵素の代わりに BSA がチューブ壁に吸着するので,酵素が反応液中に留まることを可能にします.
DNA ポリメラーゼや制限酵素の反応系で使用することが多いですね.
フローサイトメトリーでのブロッキング
解析対象の細胞が,プラスチックやガラスの表面に吸着すると細胞数が減少してしまいます.
BSA を加えることで, BSA が細胞の代わりにチューブ壁やガラス壁に吸着するので,細胞数を確保することができます.
その他の用途
私は,細胞溶解液(ライセート)の中に BSA を混ぜることがあります.
それは, BSA がプロテアーゼの囮として機能することを期待するからです.
![](https://bioresearch-troubleshooting.info/wp-content/uploads/2021/06/Fuki_Aouthor.png)
もちろん,プロテアーゼインヒビターも加えてますけどね.
ちゃんと検討したことはありませんが,BSA を入れた方が良い印象があります.
タンパク質を含む緩衝液のリスト
ここで,私が良く使うタンパク質を含む緩衝液を紹介します.
- 3~5% スキムミルク含有 PBS または TBS
- 0.05~5% スキムミルク含有 PBS-T または TBS-T
- BSA10(10 mg/mL BSA in PBS または TBS)*1
- BSA5T(5 mg/mL BSA in PBS-T または TBS-T)*2
- 1~2% フィッシュゼラチン含有 PBS または TBS
*1 1% BSA 含有 PBS または TBS と同じです.
*2 0.5% BSA 含有 PBS-T または TBS-T と同じです.
スキムミルクの特徴
スキムミルクは,標的タンパク質もコーティングしてしまうことがあります.
これをマスキングとかオーバーブロッキングと言います.
検出できるシグナルが低下するので,実験系の感度が低下します.
加えて,スキムミルク中には,カゼイン(リン酸化タンパク質の1つ)やビオチンも多く含まれています.
よって,リン酸系のタンパク質を検出する実験系やビオチン標識抗体を使用する実験系では,スキムミルクの使用は不適です.
BSAの種類
実は,BSA にはいろいろな種類があります.
その違いは,抽出方法や精製度の違いに起因するものです.
「用途に応じて,実験者はそれらを使い分ける必要がある」と言われています.
「言われています」と書いた理由は,私自身が使い分けを必要だと感じた経験があまり無いからです.
ただ,「抽出方法や精製度の違いに起因する様々な商品がある」ということは知っておいても損は無いでしょう.
Fraction Vとは?
コーンの低温エタノール分画法という工業技術があります.
これは,低温下でエタノー ル濃度やpHなどを調整することにより,血漿からグロブリンやアルブミンなどの血漿タンパク質を分離する方法です.
アルブミンは,エタノール処理の 5 番目に抽出されます.
“Fraction V” とは,「5番目の分画」という意味です.
Heat shock fractionとは?
タンパク質を加熱すると凝集して高分子化します.
![](https://bioresearch-troubleshooting.info/wp-content/uploads/2021/06/Fuki_Aouthor.png)
卵をゆでると,卵白アルブミンを凝固してゆで卵になるのが良い例ですね.
詳しくは分かりませんが,熱変性アルブミンは,抗体の非特異的な反応を抑える働きがあるようです.
その観点から,抗原抗体反応の実験系では,”Heat shock fraction” のアルブミンを使うように勧める企業もあります.
脂肪酸フリー
血清アルブミンは,血液中で脂肪酸と結合し,それを各臓器・組織に運搬しています.
この機能が実験系に影響を与えることがあるようです.
培養細胞に脂肪酸を添加する実験系の論文では,脂肪酸フリーの BSA を使ったと強調して書く人もいます.
プロテアーゼフリー
タンパク質の凍結保存の際に, BSA を加えることがあります.
タンパク質の保存のために加えているのですから,プロテアーゼが含まれていては困りますよね.
ちゃんと検証したことはありませんが,この目的に限っては, BSA の使い分けが必要だと考えています.
もっと勉強したい方へ
・一般社団法人 日本血液製剤協会のホームページ
以上,緩衝液に混ぜるタンパク質の役割でした.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年1月2日 フール