緩衝液に添加する界面活性剤の役割【超まとめ】

緩衝液に加える界面活性剤の役割
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緩衝液に添加する界面活性剤の役割【超まとめ】

 

界面活性剤

Tween 20 や TritonX-100 が緩衝液に入っているよね?

なんで界面活性剤を加えるの?

本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.

 

こんにちは.

博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.

緩衝液には,いろいろな成分が含まれていますね.

PBS-T または TBS-T の “T” は,Tween 20(界面活性剤)のことです.

TE, TAE, TBEの “E” は,EDTA(キレート剤)のことです.

試薬名には反映されませんが,還元剤・金属・BSA などを加えることもあります.

緩衝液に加える試薬や成分の役割は何でしょうか?

もちろん,「おまじない」ではありませんよ(笑).

これから数回に分けて,緩衝液に加える試薬や成分の役割についてまとめていきます.

本記事では,緩衝液に加える界面活性剤の役割をまとめています.

 

サマリー・界面活性剤の基本的な作用は,脂質を溶かすことです.

・界面活性剤には,非イオン性・イオン性・両イオン性があります.

・用途に応じて,使用する界面活性剤の種類を変える必要があります.

緩衝液に添加する界面活性剤の役割

界面活性剤には,脂質を溶かす性質があります.

よって,実験系ではリン脂質を主成分とする細胞膜や核膜を壊す目的で添加することが多いです.

界面活性剤の強さおよび濃度によっては,タンパク質そのものを変性させることも可能です.

それを応用したのが SDS-PAGE です.

界面活性剤の種類

界面活性剤には,非イオン性・イオン性・両イオン性があります.

上記分類に沿って,私が実験でよく使用する界面活性剤をご紹介します.

非イオン性の界面活性剤

・Tween 20(C58H114O26,1228 g/mol)

・Tween 80(C64H124O26,1310 g/mol)

・Triton X-100(C34H62O11,646.9 g/mol)

・Nonidet P-40(C32H58O10,602.8 g/mol)*1

*1略称の NP-40 という呼び方が有名ですね.ちなみに,NP-40 は危険物に指定されています.

イオン性の界面活性剤

・ドデシル硫酸ナトリウム(CH3(CH2)11OSO3Na, 288.4 g/mol)*2

・デオキシコール酸ナトリウム(C24H39NaO4, 414.55 g/mol)

*2略称は,SDS です.

両イオン性の界面活性剤

・CHAPS(C32H58N2O7S, 614.88 g/mol)*3

*3正式名は,3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホン酸です.長いので略称にしました.

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界面活性剤の使い分け

実験では,使用する界面活性剤の種類を用途に応じて変える必要があります.

簡単ではありますが,使い分けのポイントをまとめました.

非イオン性界面活性剤

タンパク質-脂質間の相互作用および脂質間の相互作用断ちます

しかし,タンパク質の内部およびタンパク質間の相互作用断ちません

よって,多くのタンパク質は,変性することなく活性型で可溶化されます.

タンパク質の分離も可能です.

また,種類によって界面活性剤の強さ親水性が異なります.

水への溶けやすさ:Tween 20 > Tween 80 > Triton X-100 > NP-40
界面活性剤の強さ:NP-40 > Triton X-100 > Tween 20 > Tween 80

Tween 20 は,ELISA ウェスタンブロットなどの洗浄液に加えることが多いです.

それは,抗体の非特異な結合を最小にすることで、非特異反応を減らす(バックグラウンドを低下させる)からです.

また,免疫染色の透過作業のときに,細胞膜の構造を壊さずに抗体が通れる程度の隙間を作りたい場合には Tween 20 を使います.

そして,膜(特に核膜)の構造を壊したい場合には Triton X-100 を使用します.

NP-40 は,免疫沈降法で使用する細胞溶解液(セルライセート)に加えることが多いです.

タンパク質同定や濃度測定では課題あり

非イオン性界面活性剤は,構造中にフェニル環を持っているので UV 光を吸収してしまいます.

よって,280 nmでのタンパク質同定や濃度測定はできません

また,透析による除去もできません

イオン性界面活性剤

強力な界面活性剤で,ほとんど全てのタンパク質を変性させます*4

タンパク質の内部およびタンパク質の分子間の非共有結合を断つことで,タンパク質の構造と機能の損失させるほどです.

よって,活性型タンパク質またはタンパク質間の相互作用の解析を目的とした実験系では使用できません

実験系では,緩衝液に加えて細胞溶解液(セルライセート)にすることが多いです.

*4デオキシコール酸ナトリウムは,SDS よりは穏やかな界面活性剤と言われています.

両イオン性の界面活性剤

界面活性作用は,非イオン性界面活性剤よりも強いですが,タンパク質の内部およびタンパク質間の相互作用は断ちません.

非イオン性界面活性剤との違いは,透析による除去が可能なこと UV 光の吸収は弱いことです.

実験系では,等電点電気泳動や 2-DE のサンプル調整のときに使用することが多いです.

界面活性剤を含む緩衝液リスト

私が良く使う洗浄液・細胞溶解液・透過液の組成をご紹介します.

洗浄液

・PBS-T:0.05% Tween 20 添加 PBS

・TBS-T:0.05% Tween 20 添加 TBS

私は,洗浄液をアレンジすることがあります.

例えば,次のような感じです.

  • Tween 20 の濃度を 0.1% まで上げる
  • NaClの濃度を 200 – 300 mM に上げる
  • 最終濃度が 0.01% となるように SDS を加える

細胞溶解液

・TNE250 バッファー

10 mM Tris-HCl(pH8.0), 1mM EDTA, 250 mM NaCl, 0.25% NP-40

・TNE150 バッファー

10 mM Tris-HCl(pH8.0), 1mM EDTA, 150 mM NaCl, 0.25% NP-40

・RIPA バッファー

50 mM Tris-HCl(pH7.6), 150 mM NaCl, 1% NP-40, 0.5% デオキシコール酸ナトリウム, 0.1% SDS

・RIPA バッファー(SDS 不含)

50 mM Tris-HCl(pH7.6), 150 mM NaCl, 1% NP-40, 0.5% デオキシコール酸ナトリウム

・SDS サンプルバッファー

125 mM Tris-HCl(pH6.8), 4% SDS, 10% スクロース, 0.01% ブロモフェノールブルー

・TNE-CHAPS バッファー

10~25 mM Tris-HCl(pH 7.6), 150 mM NaCl, 5 mM EDTA, 1% CHAPS

・アルカリ溶解液Ⅱ*5

200 mM NaOH, 1% SDS

*5二番目に使うので, “Ⅱ” としました.

透過液

・核膜透過液

0.5% Triton X-100 添加 PBS または TBS

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【まとめ】緩衝液に添加する界面活性剤の役割

界面活性剤は,脂質を溶かす性質を持っています.

だから,実験系ではリン脂質を主成分とする細胞膜や核膜を壊す目的で添加することが多いです.

界面活性剤の強さおよび濃度によって,タンパク質そのものを変性させることも可能です.

SDS-PAGE は,界面活性剤の性質を応用した実験例ですね!

私はあまり化学が好きではないのですが,生物学の観点から化学を考えると,やっぱり化学って大切なんだと思う今日この頃です.

この記事を書きながら,「界面活性剤って,とても奥が深い」と改めて感じました!

最後までお付き合いいただきありがとうございました.

次回もよろしくお願いいたします.

2020年1月1日 フール

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