緩衝液に添加する変性剤の役割【意外とよく使う変性剤】(1)
変性剤?何それ?使ったことないんだけど…
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
こんにちは!
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
以下は,私が使用しているRNA抽出キットの説明書に記載されているものです.
If purifying RNA from cell lines rich in RNases, we recommend adding β-mercaptoethanol (β-ME) to Buffer RLT before use.
Dithiothreitol (DTT) can be used instead of β-ME.
Buffer RLT contains guanidine thiocyanate, …, and Buffer RW1 contains a small amount of guanidine thiocyanate.
- β-ME
- DTT
- Guanidine thiocyanate
どれもRNA分解酵素(RNase)を阻害するために添加するタンパク質変性剤ですね.
「説明書に書いてあったから」という理由で,機械的に加えている人も多いと思いますが…
これがキットを利用するデメリットですね.
キットを使うことが当たり前になると,これらの試薬を加える理由を考えることを忘れがちです.
・説明書に書いてあったから.
・先生や先輩に言われたから.
・そういうものだと思ってた.
良くない傾向ですね~(笑).
誰が使っても出来るのがキットですから,それでも良いのでしょう.
でも,研究に従事する者,特に研究者を目指す者が,あたかも「そういうもの」と認識してしまうのは問題だと思います.
そこで,今回と次回で緩衝液に加える「変性剤」をまとめます.
サマリー・タンパク質の変性剤として,還元剤やグアニジン塩酸塩などを使うことがあります.
還元剤
2-メルカプトエタノール(2-ME)とジチオスレイトール(DTT)が有名ですね*1, 2.
タンパク質のジスルフィド結合(S-S結合)を切断することで,タンパク質の立体構造を壊します(正確には,「タンパク質の変性させる」と言います).
界面活性剤と合わせて使用することで,タンパク質の変性を促進します.
そして,プロテアーゼインヒビターとの組み合わせは注意してください.
還元剤が存在するとプロテアーゼインヒビターの活性が阻害されるもの,逆にプロテアーゼインヒビターの活性発現に還元剤が必要なものがあります.
詳細は以下の記事をご覧ください.
*1β-メルカプトエタノール・2-メルカプトエタノール・チオグリコールは,全部同じものです.
*2DTTは,2-MEよりも還元力が強いです.また,2-MEは政令(毒物及び劇物指定令)により毒物に指定されているので,取り扱いが面倒です.よって,最近はDTTを使う研究室が多いのではないでしょうか.
グアニジンチオシアネート・グアニジン塩酸塩
タンパク質の変性剤です.
RNA抽出のときに,RNA分解酵素(RNase)を阻害するために使用します.
還元剤と合わせて使用することで,RNaseを含むあらゆるタンパク質を変性させることができます.
グアニジンがRNA中に残留*3すると,cDNA合成を阻害するので,洗浄工程は丁寧に行いましょう!
*3吸光度によるRNAの純度評価をするときにも問題となります.グアニジンは,230-280 nmの吸光度に影響するので,正確な測定結果が得られません.詳しくは【ナノドロップ】波形データの見方でまとめています.
以上,緩衝液に加える変性剤(1)でした.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします。
2020年1月5日 フール