
こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
今回は,奨学金の記事を書きました.

その理由は,私自身が奨学金の返済で辛い思いをしているからです.
大学進学を考えている高校生やその指導をする先生方へのメッセージ的なことも書きました.
少し長くはなりますが,最後までお付き合いいただければ幸いです.
将来の収入を考えずに奨学金を借りたら大変
私は,将来の収入のことを何も考えずに奨学金を借りました.
詳細は,以下の記事でもまとめています.

でも,社会人となって,自分でお金を得るようになってから気づいたことがあります.

あれは無茶な借入だったと.
毎月8万円の返済はマジで大変ですし,辛いです.
だから,これから奨学金を借りようと考えている人が,私と同じ思いをしないように,現実的な話をしていきます.
大学卒業者の平均初任給
厚生労働省が発表した賃金構造基本統計調査結果*1をよると,大学卒業者の平均初任給は210,200円です.
その結果をもう少し細かく見ると,男性の大学卒業者の平均初任給は212,800円で,女性の大学卒業者の平均初任給は206,900円です.
この男女差が何に起因するのかは分かりませんが,男女計・男女別ともに前年を上回っていると報告しています.

本記事では,以後もこの数字(210,200円)を使って話を進めていきます.
もし,具体的な職業ごとの給料が知りたい場合は,「日本の給料&職業図鑑 パーフェクトバイブル」がオススメです. この本には,年代別平均給料,生涯賃金,仕事内容などのリアルなデータが記載されています.
*1令和元年賃金構造基本統計調査結果(初任給)の概況
額面給与と手取り額
大学卒業者の平均初任給は210,200円と書きました.
では,毎月,この額が口座に振り込まれるのでしょうか?

残念ながら違います.
210,200円は額面給与であって,ココから税金や社会保険料が引かれた差引支給額が口座に振り込まれます*2.
一般にそれを手取り額と言います.

では,初任給の手取り額はどのくらいだと思いますか?
詳細は省きますが,今回の場合,額面の約83%*3が手取り額になります.
よって,初任給の手取り額は174,825円です.
*2会社によっては,労働組合費や退職金の積み立て金なども引かれる場合があります.
*3住民税については考慮していません.
卒業後の家計をシミュレーション
ココで,1人暮らしの家計をシミュレーションしてみましょう.
初任給の手取り額を毎月の手取り額と仮定します.

以下の配分で手取り額を分配してみました.
割合 | 金額 | |
収入 | 100% | ¥174,825 |
住居費 | 25% | ¥43,706 |
貯蓄 | 25% | ¥43,706 |
食費・外食費 | 15% | ¥26,224 |
ファッション・美容費 | 10% | ¥17,482 |
交際費 | 6% | ¥10,489 |
教養・娯楽費 | 5% | ¥8,741 |
水道・光熱費 | 4% | ¥6,993 |
通信費 | 4% | ¥6,993 |
交通費 | 2.5% | ¥4,371 |
保険料・医療費 | 2.5% | ¥4,371 |
生活用品 | 1% | ¥1,748 |
合計 | 100% | – |
居住地域によって多少変動するとは思いますが,何にどのくらいのお金がかかっているのかをイメージできたでしょうか?
奨学金貸与・返還シミュレーション
続いて,奨学金の貸与額について考えてみましょう.
奨学金も様々なタイプがあります.
近年は給付型も増えてきましたが,まだまだ貸与型の方がメインだと思います.
本記事では,最も有名な日本学生支援機構奨学金の貸与額についてシミュレーションしてみます*4.
進学先は国公立大学として,奨学金の貸与目的を以下の3つのケースに分けて考えてみます.
① 学費を賄うため
② 学費と家賃を賄うため
③ 学費と家賃と生活費を賄うため
*4奨学金貸与・返還シミュレーションを利用すると、簡単に調べられます.
① 学費を賄うため
国公立大学の学費は約54万円/年です*5.
12か月で割ると,45,000円/月です.
月額5万円の貸与を4年間受ける場合を考えてみましょう*6.
返還回数と毎月の返還額は以下の通りです.
貸与総額 | 返還回数 | 返還にかかる年数 | 毎月の返還額 |
2,400,000円 | 180回 | 15年 | 14,995円 |
前述した分配表に当てはめると,次のようになります.
割合 | ||
収入 | 100% | ¥174,825 |
住居費 | 25.0% | ¥43,706 |
貯蓄 | 16.4% | ¥28,711 |
食費・外食費 | 15.0% | ¥26,224 |
ファッション・美容費 | 10.0% | ¥17,482 |
交際費 | 6.0% | ¥10,489 |
教養・娯楽費 | 5.0% | ¥8,741 |
水道・光熱費 | 4.0% | ¥6,993 |
通信費 | 4.0% | ¥6,993 |
交通費 | 2.5% | ¥4,371 |
保険料・医療費 | 2.5% | ¥4,371 |
生活用品 | 1.0% | ¥1,748 |
奨学金の返済 | 9.0% | ¥14,995 |
合計 | 100% | – |
奨学金返済の分だけ,貯蓄額を減らしています.
もちろん,削る項目は人それぞれなので,どの費用をどのくらい削って,返済額を用意するかは自由です.
ただ,実際に返済することをイメージしてください.

あなたは,このプランを許容できますか?
② 学費と家賃を賄うため
家賃を5万円/月とします.
学費の45,000円/月と合わせて,95,000円/月です.
月額10万円の貸与を4年間受ける場合を考えてみましょう*6.
返還回数と毎月の返還額は以下の通りです.
貸与総額 | 返還回数 | 返還にかかる年数 | 毎月の返還額 |
4,800,000円 | 240回 | 20年 | 23,309円 |
前述した分配表に当てはめると,次のようになります.
割合 | ||
収入 | 100% | ¥174,825 |
住居費 | 25.0% | ¥43,706 |
貯蓄 | 11.7% | ¥20,397 |
食費・外食費 | 15.0% | ¥26,224 |
ファッション・美容費 | 10.0% | ¥17,482 |
交際費 | 6.0% | ¥10,489 |
教養・娯楽費 | 5.0% | ¥8,741 |
水道・光熱費 | 4.0% | ¥6,993 |
通信費 | 4.0% | ¥6,993 |
交通費 | 2.5% | ¥4,371 |
保険料・医療費 | 2.5% | ¥4,371 |
生活用品 | 1.0% | ¥1,748 |
奨学金の返済 | 13.0% | ¥23,309 |
合計 | 100% | – |
奨学金返済の分だけ,貯蓄額を減らしています.
削る項目は人それぞれなので,どの費用をどのくらい削って,返済額を用意するかは自由です.
ただ,実際に返済することをイメージして欲しいです.

あなたは,このプランを許容できますか?
③ 学費と家賃と生活費を賄うため
例外はありますが,第二種奨学金の貸与上限は月額12万円です.
月額12万円の貸与を4年間受ける場合を考えてみましょう*6.
返還回数と毎月の返還額は以下の通りです.
貸与総額 | 返還回数 | 返還にかかる年数 | 毎月の返還額 |
5,760,000円 | 240回 | 20年 | 27,970円 |
前述した分配表に当てはめると,次のようになります.
割合 | ||
収入 | 100% | ¥174,825 |
住居費 | 25.0% | ¥43,706 |
貯蓄 | 9.0% | ¥15,736 |
食費・外食費 | 15.0% | ¥26,224 |
ファッション・美容費 | 10.0% | ¥17,482 |
交際費 | 6.0% | ¥10,489 |
教養・娯楽費 | 5.0% | ¥8,741 |
水道・光熱費 | 4.0% | ¥6,993 |
通信費 | 4.0% | ¥6,993 |
交通費 | 2.5% | ¥4,371 |
保険料・医療費 | 2.5% | ¥4,371 |
生活用品 | 1.0% | ¥1,748 |
奨学金の返済 | 16.0% | ¥27,970 |
合計 | 100% | – |
他のプラン同様に,奨学金返済の分だけ,貯蓄額を減らしています.

あなたは,このプランを許容できますか?
本記事では,進学先を国公立大学の場合だけに限定しました.
これを読まれている方で,私立大学を希望する方は,ぜひ同様に計算してみてください(単純に考えて,私立は学費が2-3倍です).

私と同じ過ちをしないでください(笑).
*5入学金は考慮していません.
*6第二種奨学金を貸与利率を1.5%で,機関保証制度を利用して借りると想定しました.
返還特別免除制度はすでに廃止
私が高校生の時の話です.
担任や進路指導の先生は,次のようなことを言っていました.

特定の職に就けば,返済が一部免除されるよ.先生もそれを利用したよ.
当時の私は,先生や親の言うことを素直に聞く「良い子?」だったので(笑),それを聞き,その全てを信じました.
自分でその真偽を調べることもなければ,「特定の職」が何かすら調べませんでした.
大学に進学して,研究の道に進もうと思った時,再度,疑問に感じました.
「研究者で奨学金は返済できるのだろうか?」と.
大学の先生に相談すると,次のようなこと言われました.

研究者になれば,返済の一部は免除されるよ.
その当時の私も,まだ先生や親の言うことを素直に聞く「良い子?」だったので(笑),その全てを信じました.
再び,その真偽を自分で調べることなく….
その制度(返還特別免除制度)が廃止されていると知ったのは,大学を卒業する2年くらい前です(笑).
高校や大学の先生は,返還特別免除制度が利用できた世代なので,その経験から「返済が一部免除される」と言っていたのです.

焦りました(笑).
大学院への進学は諦めようとも思いましたが,それは手遅れでした.
学ぶことの楽しさに目覚めていた私は,自分の興味・関心の追求を諦めることはできませんでした.
ただ,これ以上は借金を増やさないと決めました.
幸い,大学院の1年目は給付型奨学金をもらうことができ,2年目以降は学振のDC1に採用されたので,借金をすることなくは博士課程を終えることができました.

長々とすみません.
何が言いたいかと言うと,先生や親の言うことを鵜呑みにしてはダメということです.
「良い意味」で物事を疑ってください.
学歴社会だけど「何を学んだのか?」は重要ではない
日本社会では中卒・高卒・大卒の間に賃金の格差があるので,日本は学歴社会と言われています.
でも,学士卒・修士卒・博士卒の間に賃金の格差はほとんどありません.
また,「学歴」が指す内容は人によって変わることは知っておいた方が良いです.

だから,「学歴」という言葉は非常に厄介です.
ここで,いくつかの国語辞典を見ていきましょう!
【学歴】
その人がどんな学校をでたかということ。
例解新国語辞典 第十版 – 三省堂

これは卒業した学校の歴史という意味で「学歴」ですね.
【学歴】
いつ、どんな学校で、何を学び、卒業したかという経歴。
ベネッセ新修国語辞典 第二版

学校の種類と学んだ内容を指す「学歴」ですね.
こちらも卒業が前提になっています.
【学歴】
学校にはいって勉強した経歴。
新選国語辞典 第十版 ワイド版-小学館

こちらは卒業の有無や学校の種類には触れていません.
【学歴】
その人がどんな学校に在学し、何を勉強したかという経歴。
学研現代新国語辞典 改訂第六版

こちらも学校の種類と学んだ内容を指す「学歴」ですが,卒業の有無には触れていません.
色々な「学歴」がありますね.
そして,世間一般で認識されている「学歴」は最初の『その人がどんな学校をでたか』という「卒業した学校の歴史」でしょうね.

日本社会では「学校で何を学んだのか?」を重要視しませんから(笑).
そして,この「学歴」を得るために借金をしてでも大学に行くことが重要とされています.
でも,巷には,奨学金の返済が滞ってしまったという話がゴロゴロ転がっています.

「私は大丈夫」と思わないでください.
奨学金を利用した進学を考える時は,実際の生活(特にお金の流れ)を想像してみてください.
そして,高校の先生たちは,そういったお金の話も生徒にしてあげてください.
知識を得るだけならネットや図書館の利用で十分
現代は,昔ほど学歴(学閥)は重要視されていません.
単に知識を得るだけであれば,ネットや図書館を利用すれば事足りることも多いです.
どうしても大学で学びたいことがある場合,別に現役である(高校からストレートで進学する)必要はないと思います.

就職して進学のためにお金を貯めて,それから大学に行くという選択肢もアリだと思います.
奨学金を借りて,大学に行って,社会人になってから「こんなはずじゃなかった」とならないように,1度考えていただけませんか?
もちろん,本記事で示したような返済プランを自分で確認し,それを許容できるのなら問題は無いのですが.
奨学金の利用は,(未来の)収入と(未来の)収支のバランスを大切に.
全ての行動は自らの選択の結果
博士課程のとき,先輩や指導教官から,次のようなことを言われました.

きっかけは「親に勧められたから」「先生(先輩)に言われたから」かもしれない.ただ,人から指示されて何かをやったとしても,それを最終的に「やる」と決めたのは君だ.その責任は全て君にある.全ての行動は,自らの選択の結果であると自覚しなさい.

理不尽な話ですね.
でも,私が借りた奨学金については,この言葉がピッタリなお説教だと思います(笑).
この指導を受けて以来,私は「それは本当なのか?」「その勧めは自分にも当てはまるのか?」と疑うことを習慣づけました.

未だにできないことも多々ありますけどね(笑).
以上,奨学金と未来の収入のお話でした.
愚痴っぽい書き方になってしまいましたね.

ごめんなさい.
ちなみに,最近は,奨学金のことを説明するYouTuberもいるみたいです.
とても分かりやすく説明しているので,これから借りる予定の人や返還を控えている人は見る価値ありですよ!
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年7月20日 フール