実験で用意する希釈系列の正しい作り方【溶媒の存在を忘れない】

サンプルの2倍希釈系列を作ったら,「溶媒の量を均等にしてください」って言われました.どういう意味ですか?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.

こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事している元研究者のフールです.
皆さんは,実験で希釈系列を作ることはありますか?
用量依存性の確認やタイター(力価)を測定したりするときに,2倍階段希釈とか10倍階段希釈などの希釈系列を作ります.
最近,希釈系列を作るときに溶媒の存在を忘れている人が多いことに気付きました.
溶媒の存在を無視して希釈系列を作ると,溶媒だけ(例: 0 mg/mL)と比較することができなくなりますよ.
この記事では,希釈系列の正しい作り方をまとめます.
本記事を読み終えると,2倍階段希釈とか10倍階段希釈などの希釈系列作りのミスが減りますよ!
サマリー・希釈系列の作製は,溶液を作ってからで希釈するのではなく,溶媒で希釈してから溶液を作ります.
希釈系列の誤った作り方
例えば,細胞の増殖抑制を誘導する化合物 A があるとします.
A は,ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解しており,100 mM に調整されています.

細胞の増殖を抑制する最小の濃度を調べましょう.
このような検証を行うとき,化合物 A の希釈系列を作って実験を行いますね.
あなたは,どのように希釈系列を作製しますか?
100 μMを最高濃度として,5 倍階段希釈で希釈系列を作ってみましょう.

100 μM 溶液を培地で作製して,それを 1 : 4 で希釈していけば良いんでしょ?

上記のような作り方をしたらダメですよ!

どうしてですか?

溶媒の DMSOの濃度も 5 倍階段希釈になってしまうからです.
この方法では,DMSO も 5 倍階段希釈してしまうので,各濃度におけるバックグラウンドが統一されていません.
コントロールとして置いた DMSO 溶液は0.1%だけなので,DMSO の 含有量が同じである “100 μM in DMEM” しか比較対象になりません.
希釈系列の正しい作り方

希釈系列の正しい作り方を教えてください.

先ずは溶媒の DMSO で 5 倍階段希釈をしましょう.
溶媒の DMSO で 5 倍階段希釈を行って,それを DMEM に加えるようにします.
こうすることで,DMSO の持ち込み量を一定にすることができますね!
溶媒だけ( 0 mg/mL)も同じように希釈するパターン
誤って 100 μM 溶液を培地で作製して,それを 階段希釈していた場合でも,すぐに「失敗」とはなりません.
DMSO 溶液も同様に階段希釈すれば,対処は可能です.
そうすることで各希釈系列で比較することが可能になります.
事前の実験計画が大切
上記のように「溶媒だけ」も同じように希釈するパターンで実験した場合,それ以降も同様の条件で実験を続ける必要があります.
統計の解析方法や実験で使うお金(培地・試薬・プレートの費用)も変わってくるでしょう.
咄嗟のトラブルシューティングとしてはアリだと思いますが,後々面倒になる可能性も考えなければなりませんね.
このような事態にならないように,事前に実験計画をよく練り,それ通りに実行できるよう準備をしましょう!

この記事では,希釈系列の正しい作り方をまとめました.
被験物質の濃度ばかりに気を取られて,溶媒の存在を忘れないようにしてくださいね!
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2021年6月22日 フール