
SDとSEって何が違うの?
本記事は,このような疑問にお答えします.

こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
先ずは,以下のやりとりをご覧ください!

Aさん,この前の解析結果で質問があるんですけど,今,良いですか?

良いですよ~

統計のところなんですけど,どうして,標準偏差ではなく標準誤差を算出したんですか?

だって,この実験系は薬理試験だから.

薬理試験だから?

そうそう!薬理試験では,標準誤差を使うことが多いからね!

Aさんは,経験や伝統で統計を使い分けるんですね…
これは,私と同僚(正社員)の会話です.
彼女は,薬学の出身で博士号も持っているのですが…
上述の回答が出てきてビックリしました(笑).
そして,「これを記事にしたら面白い!」とも感じました(笑).
彼女に限らず,研究室や部署で伝統的に行われている統計解析を,指導教官や上司に言われるがまま実施する人は多いです.
本記事では,標準偏差(SD)と標準誤差(SE)の使い分けについてまとめました.
サマリー・母集団または標本のバラつきに興味がある場合は,標準偏差を使います.
・母集団の平均値に興味がある場合は,標準誤差を使います.
・経験や伝統で統計解析を使い分けることは,ありません.
標準偏差(Standard deviation)
標準偏差(SD)は,データのバラつきを表す値です.
例えば,n = 10の実験を1回行ったとします.

得られるのは,10個のデータと1つの平均値です.
この10個のデータがどのくらいバラついているのかを表す値が,SDです.
対象集団によって,3つのSDが存在します.
① 標本標準偏差 ② 不偏標準偏差 ③ 母標準偏差
① 標本標準偏差
標本データのバラつきを示す値です.
ちなみに英語では,”Corrected sample standard deviation” や “Sample standard deviation” と表現されます.
② 不偏標準偏差
母集団データのバラつきを推定する値です.
書籍によっては,コレを標本標準偏差とする本もあります.
おそらく,日本工業規格の資料*でそのように定義されているからだと思います.
ちなみに英語では,”Uncorrected sample standard deviation” や “Sample standard deviation” と表現されます.

お気づきですね.
英語でも “Sample standard deviation” の使い方が統一されていないことがあります.
だから,正しい知識と文脈による判断が必要なんです.
*Z 8101-1:2015 (ISO 3534-1:2006)
③ 母標準偏差
母集団データのバラつきを示す値です.
研究(実験)でコレが分かれば良いのですが,そのためには全数調査(例:国勢調査など)が必要です.
全ての研究(実験)で全数調査は非現実的なので,不偏標準偏差を使って母集団データのバラつきを推定することが多いですね.

ちなみに英語では,”Population standard deviation” と表現されます.
標本標準偏差 vs. 不偏標準偏差
標本のバラつきに興味があるのですか?
母集団のバラつきに興味があるのですか?

あなたの関心があるのはどちらですか?
この答えによって,どちらの標準偏差を使うのかが変わります.
決して,研究室や部署で伝統(習わし)ではありません.
標準誤差(Standard error)
標準誤差(SE)は,平均値のバラつきを表す値です.
例えば,n = 10の実験を10回繰り返したとします.

得られるのは,100個のデータと10個の平均値です.
この10個の平均値がどのくらいバラついているのかを表す値が,SEです.
つまり,「平均値のSD」がSEということになります.
SEは,母集団の平均値が存在する範囲を推定するときに使います.
SEとSEMは違うもの
ちょっと細かい話をします.
「SEは,平均値のバラつきを表す値」と書きました.

でも,これは正確ではありません.
正確には,Standard error of the mean(SEM)が「平均値のバラつきを表す値」です.
すでに多くの分野でSEMをSEと表記する習慣があるので,大きな誤解は生じないでしょう.

ただ,言葉の定義にうるさい人には突っ込まれるかも(笑).
SD vs. SE
母集団のバラつきに興味があるのですか?
母集団の平均値に興味があるのですか?

あなたの関心があるのはどちらですか?
この答えによって,どちらを使うのかが変わります.
決して,研究室や部署で伝統(習わし)ではありません.
薬理試験でSEを使うことが多い理由
薬理学の研究では,以下のような実験デザインが多いと思います.
① 動物を2群に分ける. ② 一方はコントロール群(溶媒投与群),他方は試験薬投与群とする. ③ 試験薬の投与で,パラメータ(例えば,体重や血糖値など)がどう変化するのかを観察する.
この場合,研究者が気にするのは,2群の平均値に差があるかどうかですね!
だから,薬理試験ではSEを使うことが多いのです.
もっと勉強したい方へ

以下の書籍はオススメです!
・SDとSEの使い分けから,検定法の理解に必要な基本知識までを学べます.
・2群の比較,多重比較,分散分析の基本を学べます.
以上,標準偏差(SD)と標準誤差(SE)の使いわけでした.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年4月20日 フール