安全データシート(SDS)の見方【実験で使う薬品の特徴を把握】
試薬に付いてくるSDSって何ですか?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
皆さんは,SDSを見てますか?
ドデシル硫酸ナトリウムの “SDS” ではありませんよ(笑).
安全データシート(Safety data sheet)を意味する “SDS” です.
実験室内は,常に危険と隣り合わせです.
そして,実験で使用する試薬には,危険な物も多数あります.
使用者は,その危険性や有害性について十分に確認したうえで実験する必要があります.
今回は,試薬の危険性や有害性を知らせてくれるSDS の見方をまとめました.
サマリー・試薬の性質や応急措置などを記した物を安全データシート(Safety data sheet [SDS])といいます.
・SDSは,試薬を販売する各メーカーが作成しています.
・実験前に,使用する試薬の SDS を読み,その危険性や有害性を知りましょう.
安全データシート(Safety data sheet [SDS])
安全データシート(SDS*1)は,メーカーが化学物質や製品を出荷する際に,先方に対して,その化学物質に関する情報を提供するための資料です.
化学物質の安全な使用・取扱いをするために,物質名・供給者名・分類・危険有害性・安全対策・緊急時の対応などが記載されています.
法律*2により,政令で定める第一種指定化学物質,第二種指定化学物質およびこれらを含む一定の製品の出荷する時は,先方にこの SDS を提供することが義務化されています.
*1昔は,化学物質等安全データシート(Material safety data sheet [MSDS])と呼ばれていました.
*2特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)
SDS に記載されていること
SDS に記載されていることは,以下の通りです.
① 製品および会社情報 ② 組成および成分情報 ③ 危険有害性の要約 ④ 応急処置 ⑤ 火災時の措置 ⑥ 漏出時の措置 ⑦ 取扱いおよび保管上の注意 ⑧ 暴露防止および保護措置 ⑨ 物理的および化学的性質 ⑩ 安定性および反応性 ⑪ 有害性情報 ⑫ 環境影響情報 ⑬ 廃棄上の注意 ⑭ 輸送上の注意 ⑮ 適用法令 ⑯ その他
なお,項目の記載順序は,各メーカーごとに異なります.
① 製品および会社情報
SDS を提供する会社の名称と住所・担当部署の連絡先が記載されています.
② 組成および成分情報
製品名・化学名・含有量・化学式・分子式・官報公示整理番号・CAS番号が記載されています.
③ 危険有害性の要約
含有する対象化学物質の名称・政令上の号番号・種類・含有率が記載されています.
④ 応急処置
吸引した場合・皮膚付着に付着した場合・眼に入った場合・飲み込んだ場合の応急処置方法が記載されています.
⑤ 火災時の措置
消火方法・消火剤について記載されています.
試薬によっては,使用してはいけない消火剤もあります.
⑥ 漏出時の措置
人体に関する注意事項・環境に対する注意事項・封じ込め方法・浄化の方法について記載されています.
⑦ 取扱いおよび保管上の注意
取扱いや保管方法について記載されています.
安全な容器包装材料に関しても記載されているので,分注して小分けにする時などは参考になります.
⑧ 暴露防止および保護措置
管理温度・許容温度・設備または保護具について記載されています.
保護具の着用は基本ですが,どのような保護具が良いのかまで記載されているので,勉強になります.
⑨ 物理的および化学的性質
外観・融点・沸点・引火点・発火点などについて記載されています.
pH・水に対する溶解性・溶媒に対する溶解性などの情報もあるので,非常に便利です.
⑩ 安定性および反応性
反応性・避けるべき条件について記載されています.
いわゆる「混ぜるな危険」に関する情報ですね.
⑪ 有害性情報
各器官に付着した時の局所効果について記載されています.
生殖毒性や変異原性についても記述があります.
⑫ 環境影響情報
生態毒性や分解性・蓄積性について記載されています.
⑬ 廃棄上の注意
廃棄方法について記載されています.
試薬その物だけでなく,試薬が入れていた容器に関しても記述されています.
⑭ 輸送上の注意
国内輸送および国外輸送の時に注意すべきことが書かれています.
⑮ 適用法令
その試薬の使用や保持・輸送に関わる法律がまとめられています.
⑯ その他
SDS を提供者が必要と認める事項が記載されます.
例えば,参考文献情報や責任の限定に関する内容などです.
SDS の閲覧で注意すること
繰り返しになりますが,SDS は,PRTR 法により政令で定める物質を含む一定の製品の出荷する時に,メーカーが購入者に提供するものです.
ココで注意しなければならないことは,次の 2 点です.
- SDS を 常時発行していない場合もある
- メーカーの SDS と代理店の SDS で内容が異なることがある
SDS を 常時発行していない場合もある
「PRTR 法により政令で定める物質を含む一定の製品の出荷する時」に必要なので,逆に言えば,該当する物質を含まない製品に関しては,SDS を作成していない場合もあります.
職場の書類申請で,使用するキットの SDS の提出が必要なんだけど…
問題は,上記のように,組織内のルールで SDS の提出を求める場合があることです.
対応方法は組織ごとに異なるので,先ずは,職場の上司に相談しましょう.
ただ,私の経験では,メーカーに SDS の作成依頼をかけることはできます!
また,作成依頼は受けないけど,「 SDS を発行していない」旨の文書を出してくれることもあります.
組織の対応が遅く,時間が勿体ないと感じた場合はメーカーに相談するのもアリではないでしょうか?
メーカーの SDS と代理店の SDS で内容が異なることがある
海外メーカーの SDS (英語版)は,日本国内の法令に対応していません.
国内・国外で共通の物質はあるので,その物質に対しては,海外メーカーの SDS でも十分です.
しかし,海外では対象外・国内では対象みたいな物質の場合は厄介です.
だから私は,メーカー代理店の SDS を見るようにしています.
代理店が作成する SDS は,国内法にも対応しているので安心です.
それに,やっぱり日本語の方が見やすいです(笑).
SDS の活用方法
ここでは,私が実践しているSDS の使い方をご紹介します.
SDS のファイリング
自分の実験で使用する試薬の SDS をファイリングして,実験台に置いてあります.
有事の際に,すぐに見ることができるからです.
ほとんどの SDS は,試薬を購入するごとに付いてくるので,その都度,改訂の有無を確認し,改訂がある場合は差し替えています.
SDS の PDF ファイルをPCに保存
メーカーにもよるのかもしれませんが,SDS は PDF ファイル版*3もあります.
こちらは職場のパソコンに保存し,実験で使う試薬の物理・化学的性質を確認するために使用しています.
試薬を希釈する時の溶媒は,水・エタノール・DMSO のどれにするか等々,実験計画を立てる時に重宝する情報がたくさん載っています.
*3近年は,SDS もペーパーレス化に力を入れているようで,紙で配布されることが少なくなった気がします.ただ,代理店などに注文を依頼する場合は,代理店担当者に「 SDS を紙で欲しい」と伝えておくと, 納品時に印刷した SDS を持ってきてくれます(サービス?).
もっと勉強したい方へ
日本ケミカルデータベース株式会社のホームページがオススメです.
以上,安全データシート(Safety data sheet [SDS])の見方・使い方でした.
初めて使用する試薬の場合は,最低でも SDS の危険有害性の要約と応急処置には目を通してから触れるようにして下さいね!
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年2月1日 フール