“Real time” は “RT”って略しません
RT-PCRの”RT”って,”Real time” ですか?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
先ずは,以下のやりとりをどうぞ.
今日はRT-PCRをしましょう!
準備をしてください.
はーい!
先生,ところで今日は何を定量するんですか?
えっ?
RT-PCRですよね?Real-time PCRだから定量するんですよね?
“RT”は,”Real-time”ではないですよ…
えっ!
“RT-PCR”の”RT”が,「逆転写」ではなく「リアルタイム」の略語として認識されていると知った時は非常に驚きました(笑).
コレはネタになると思い,同僚との飲みでちょっと盛って話したところ,その同僚も最初はそう思っていたと言うから驚きました(笑).
そこで本記事では, “RT-PCR” の “RT” についてまとめました.
サマリー・ “RT-PCR” の “RT” は「リアルタイム」ではなく「逆転写」です.
逆転写PCR
PCR 法は,耐熱性の DNA ポリメラーゼにより DNA を合成・増幅します.
PCR 法では, RNA を合成・増幅することはできません.
それでは, RNA をサンプルとした PCR はどうするのでしょうか?
答えは簡単です. RNA を鋳型とした DNA を合成すれば良いのです.
そして,その合成に必要な酵素が逆転写酵素(Reverse transcriptase)です.
最初は, RNA から DNA を合成する反応(逆転写反応)と PCR 反応は,別々の実験系でした.
技術の進歩に伴い,逆転写反応と PCR 反応を連続して行えるようになってくると,その実験系を逆転写 PCR(Reverse transcription PCR)と呼ぶようになりました.
そして, “Reverse transcription PCR” の略語が “RT-PCR” です.
リアルタイム PCR
「 1 サイクルの PCR 反応で増幅産物が 2 倍に増える」という考え方を基に,サンプル中に存在する標的 DNA 量を定量する目的で開発されたのが「リアルタイム PCR(Real-time PCR)」です.
PCR 反応を続けながら, PCR 産物の生成量を「リアルタイム」でモニタリングできるので,そのように呼ばれています.
定量できるので定量 PCR(quantitative PCR: qPCR)とも呼びます.
でも, “Real-time” を “RT” と省略し “RT-PCR” と呼称することはありません.
理由は,逆転写PCRを “RT-PCR” と呼称することがスタンダードとなっているので,それと混同するからです.
逆転写の qPCR は?
それでは, RNA をサンプルとしたリアルタイム PCR は,どのように呼称するのでしょうか?
私の知る限り, 3 つの呼び方があります.
① Real-time RT-PCR ② RT-qPCR ③ qRT-PCR
どの使い方が一番多いのでしょうか?
気になったのでGoogle scholarで調べてみました!
一番多かったのは, Real-time RT-PCR でした.
次いで, qRT-PCR でした.
RT-qPCR は,最も少なかったです.
レポートや論文では,最も多い “Real-time RT-PCR” を使うのが無難でしょうか?
こればっかりは,組織の慣習に従うが良いかもしれません.
きっと,ラボごとに好き嫌いはあると思います.
ただ,絶対に “Real-time RT-PCR” を “RT RT-PCR” と書かないようにしてください!
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年3月8日 フール