RNAの品質チェック【A260/280だけでは不十分】

先生から「RNAの品質は?」って聞かれました.どういう意味ですか?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
皆さんは,RNAの品質をどのように評価していますか?
ナノドロップなどで吸光度(A260/280,A260/230)を測定している方が大半だと思います.
でも実は,ナノドロップだけでは不十分なんです.
ナノドロップは,サンプル中のRNAの純度を確かめる方法としては有用です.
例えば,フェノールなどの抽出試薬の残存を知ることができます.
でも,それはRNA自体の質を担保するものではありません!
この記事では,RNAの品質チェックのやり方をまとめました.
RT-qPCRなどRNAを使った実験を行う前に,ぜひ本記事をお読みください!
サマリー・ナノドロップはRNAの純度を確かめる方法です.
・ナノドロップではRNAの品質を確認することはできません.
・28S rRNAの存在量と18S rRNAの存在量でRNAの品質を評価します.
ナノドロップから分かること
ナノドロップは,サンプル中のRNAの純度を確かめる方法です.
波形を見ることで,フェノールなどの抽出試薬の残存やタンパク質の混入の有無を知ることができます.
詳しくは以下の記事でまとめていますので,ぜひご覧ください.
https://bioresearch-troubleshooting.info/nanodrop_data/
RNAの品質
ココで言う「RNAの品質」とは,「ある一定程度の長さのRNAが維持されているかどうか」を指します.
RNAは,環境中・生体内のリボヌクレアーゼによって簡単に分解されてしまいます.
また,RNA分子自体のブラウン運動もRNA切断を引き起こします.
RT-qPCRやRNA-seqの実験では「ある一定程度の長さのRNAが維持されている」ことが重要ですよね!
標的遺伝子が分解・切断されていたら,測定できませんから.
ナノドロップの限界
実験系によっては「RNAの品質」が大切となってくるのですが,ナノドロップではRNAの品質を確認することはできません.
ナノドロップなどで測定した吸光度は「260 nm における核酸塩基の吸光係数」なので,塩基の組成で決まります.
ざっくり言うと,100塩基10分子のRNAと10塩基100分子のRNAの違いを見分けることはできません.
RNAの品質をチェックする方法
ココからはRNAの品質をチェックする方法をまとめます.
古典的な方法と最新の方法の2種類を簡単にご紹介しますね!
古典的な方法
ホルムアルデヒド含有アガロースゲルを使った電気泳動を行い,28S rRNAと18S rRNAを目視で確認する方法です.
RNAの品質が良いサンプルであれば,28S rRNAと18S rRNAの2つのバンドを確認することができます(レーン1,2).
各種ソフトウェアで各々のバンド強度(intensity)を定量し,28S rRNAの存在量と18S rRNAの存在量が 2:1 となるのが理想です(レーン1).
ただ,個人的には28S rRNAの存在量と18S rRNAの存在量が 1:1 でも許容範囲です(レーン2)
一方で,RNAの品質が悪いサンプルではバンドが確認できず,スメア状になります(レーン3,4).
この方法の難点は2つです.
- ゲルの調整が面倒
- 泳動用に余分なRNAが必要(200~300 ng)
ゲルの調整に関しては,ホルムアルデヒドを含有した製品も市販されています.
予算に余裕があるラボでは,使用を検討して時間を節約するのもアリですね!
また,RNA電気泳動用の非変性アガロースゲルも市販されています.
労災の観点からホルムアルデヒドを使用できない職場では,非変性アガロースゲルの使用も検討してみましょう!
最新の方法
バイオアナライザなどのキットを使用する方法です.
キット化されているので再現性も高いですし,サンプルの使用量も少ないので貴重なサンプルの時には有用です.
難点は高価なことですね.
もっと勉強したい方へ
・FLEIGE, Simone; PFAFFL, Michael W. RNA integrity and the effect on the real-time qRT-PCR performance. Molecular aspects of medicine, 2006, 27.2-3: 126-139.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2021年5月8日 フール