
どうして,CO2インキュベーター内のトレイに水を入れるの?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.

こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
今回も,細胞培養用のインキュベーターの話をします.
CO2インキュベーター内には,水を入れたトレイが存在します.
その役割は何だと思いますか?

培地は液体だから,水分は要らないと思います!
このように思った方,ぜひ本記事をお読みください.
サマリー・トレイの水は,インキュベーター内の湿度を保つことで,培地の濃縮を防ぐ役割があります.
生理的条件に近い状態で培養するために
CO2インキュベーターは,細胞をより生理的条件に近い状態で培養するための装置です.
では,ここでいう「生理的条件」とはなんでしょうか?
それは,以下の3つです.
① CO2濃度 ② 温度 ③ 湿度
① CO2濃度
インキュベーター内のCO2の役割は,以下の記事でまとめています.

② 温度
生体内では,様々な酵素反応は起きています.
そして,酵素反応は,生命の維持に関わる重要な役割を担っています.
酵素反応の重要性は,培養細胞でも同じです.
20-25℃程度の低温で働く酵素もありますが,多くの酵素は37℃前後でその活性が最大になります.
だから,インキュベーター内の温度を37℃に設定するのです.

でも,例外はあります.
昆虫や魚類の培養細胞を扱う場合や温度感受性変異株を扱う場合は,この限りではありません.
③ 湿度
インキュベーター内の湿度は,大気中のそれと同じです.
そのままでは,培地中の水分が大気中へ逃げていきます(洗濯物が乾くようなもの).
培地中の水分が減ると,培地の成分は濃縮されます.

具体的にどのような影響があるのかは分かりませんが,影響が無いわけないですよね(笑).
さらに水分が減り続けると,培地が乾燥してしまい細胞も死にます.
これを防ぐために,トレイに水を入れて自然蒸発によって高い湿度を保っています.
トレイに入れる水
インキュベーター内のトレイに水を入れる理由は,さきほど書いた通りです.
ココでは,トレイに入れる水について書きます.
トレイに入れる水はどんな水でしょう?
これに関しては,ラボごとにルール(または慣習)があるかもしれません..
水道水を入れているところ,蒸留水をいれているところ,滅菌した蒸留水を入れているところ,超純水を入れているところ等々あると思います.

菌の繁殖を抑え,コンタミネーションが起こらないように制御できていれば,どの水でも良いです.
しかし,できれば水道水や超純水は避け,滅菌水(蒸留水をオートクレーブ滅菌したもの)にしてください.
なお,実験室で使う水にはついては,以下の記事でまとめています.


水道水をオススメしない理由
水道水は,飲み水としては問題ありませんが,不純物が含まれています.
揮発性の物質も含まれているので,それらがインキュベーター内に充満するのは気持ち悪くありませんか?
超純水をオススメしない理由
超純水は,あらゆる物質を溶かす力があり,その性質から超純水をハングリーウォーターと呼ぶ人もいます.
だから,トレイに超純水を入れると,トレイが溶かされ劣化していきます.
メーカーによっては,インキュベーターの説明書に,トレイに超純水を入れないように注意書きしていることもあります.
残ったのは蒸留水
蒸留水にも物質を溶かし込む作用はありますが,超純水ほどではありません.
水道水にふくまれるような不純物も入ってません.
ちょうど良い感じがしませんか?
「滅菌する」or「しない」は賛否あると思います.
私にとってオートクレーブ滅菌は,そんな手間のかかる作業ではないので,いつも滅菌しています.
以上,インキュベーター内のトレイに水を入れる理由でした.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年3月23日 フール