論文に出てくるウェスタンブロットの見方【Raw dataは登場しない】

WBデータのトリミング
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論文に出てくるウェスタンブロットの見方【Raw dataは登場しない】

 

ウェスタンブロットの結果の見方は分かったけど,論文やプレゼンで出てくる図って,ちょっと違うよね?どうして?

本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.

 

こんにちは.

博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.

以前,ウェスタンブロットの結果の見方【実験データの見方】という記事を書きました.

ウェスタンブロットを初めてやる人(始めたばかりの人)に向けて書いた記事で,ウェスタンブロットの結果の見方の流れを簡単にまとめたものですが,それでは不十分だと気付きました

なぜなら,論文やプレゼン等で出てくるウェスタンブロットの結果はトリミングされているからです.

私が書いた記事は,生データ(Raw data)の見方であって,論文等に出てくるトリミング済みのデータには触れていませんでした.

そこで本記事では,論文に出てくるウェスタンブロットの見方についてまとめました.

ちょっとだけですが,Raw dataの保存・管理の大切さにも触れています.

本記事を読み終えると,論文やプレゼン等に登場するトリミングされたウェスタンブロットのデータの見方が分かるようになりますよ!

 

サマリー・論文やプレゼンのスライドはスペースが限られており,全てのRaw dataを載せることが難しいので,トリミングをしてサイズを小さくしたものが登場します.

・トリミング済みの図では確認できることが少ないので,論文の執筆者らを信用するしかありません.

・Raw dataの保存・管理はとても重要です.

トリミング済みの図とトリミングされる前の図

「論文やプレゼン等で出てくるウェスタンブロットの結果はトリミングされている」と書きました.

初めに,ウェスタンブロットのトリミング済みの図トリミングされる前の図の一例をお示しします.

あなたが論文やプレゼン等で見かけるウェスタンブロットの結果は以下のような物が多いのではないでしょうか?

論文に出てくるウェスタンブロットの結果

見せたいバンドとその前後の一部を切り取り,サイズの位置を加えたまたは該当するバンドの位置に矢印を加えた図が多いですよね.

続いて,この図のトリミングされる前の図(Raw data)をお示しします.

Raw data

デカいですね(笑).

おそらくトリミング済みの図の3-4枚分に相当すると思います.

論文やプレゼンのスライドは,スペースが限られています

全てのRaw dataを載せることが出来れば良いのですが,それは難しいのです.

(最近では,Raw dataをSupplementary figures/Supplementary informationなどの形式で雑誌のサイト上に公開する場合もあります.)

だから,以下のようなトリミングをして,図のサイズを小さくしたものが論文等に登場するのです.

ウェスタンブロットのトリミング

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トリミング済みの図の見方

前置きが長くなりました(笑).

それでは本題です.

トリミング済みの図の見方はどうするのでしょうか?

トリミング済みの図では…

  • サイズマーカーのレーンの確認
  • サイズマーカーとの位置関係の確認
  • 予想外の位置にバンドが見えるかどうかの確認

などが出来ませんよね.

この場合は仕方ないので,論文の執筆者らを信用するしかありません(笑).

執筆者らが,ウェスタンブロットの結果の見方【実験データの見方】という記事に書いたような確認作業を行って問題ないと判断した上で,図をトリミングしたと信じるしかないのです.

性善説ですね(笑).

今回の場合,論文の本文中に”Expression of xxx was successfully detected by Western blot (Fig. 〇)”みたいな記述があると思います.

そしたらFig. 〇へ飛び,図とそのレジェンドを見ます.

レジェンドには次のような記述があると思います.

"Lanes 1-6, total lysates of △△△. Lane 7 is 〇〇〇 and lane 8 is □□□."

本文およびレジェンドの記述と図を照らし合わせて,著者らの結果や主張を受け入れるしかありません.

それでは,本文およびレジェンドの記述と図を照らし合わせても納得がいかない場合はどうすればいいのでしょうか?

私は3つの対応があると考えています.

その論文を読むのを止める

1つ目は,その論文を読む(参考にする)のを止めるです.

本文およびレジェンドの記述と図を照らし合わせて腑に落ちない点がある論文は,読者に不親切な論文またはテキトーな論文だと勝手に判断して読む(参考にする)のを止めます(笑).

世の中には,たくさんの論文があります.

特別な分野ではない限り,同じようなことを調べている報告も多数あるのでしょう.

腑に落ちない点がある論文と向き合って時間を割くのは止めて,似たような別の論文を探す方が良いと思います

著者に問い合わせる

2つ目は,著者に問い合わせるです.

その論文が数少ない先行研究の1つであり,どうしても避けることができない場合は,著者に直接質問するのは良いでしょう!

ただ,返事が返ってくるかどうか分かりません.

私は,学生時代に何回か著者に問い合わせしたことがありますが,返事が返ってきたのは僅かでした.

迷惑メールだと勘違いされたかもしれませんし,私がまだPh.D.ではなかったからかもしれません(英語が下手過ぎて,避けられた可能性もあります 笑).

編集長に問い合わせる

3つ目は,雑誌の編集長に問い合わせるです.

著者と直接連絡が取れない場合は,編集長を介して著者に連絡してもらうというパターンです.

政治的な手法ですね(笑).

博士課程の院生だったころ,指導教官の知り合いに編集長のがいたので,連絡をしてもらったことがあります.

その時はちゃんと著者から連絡をもらえました!

指導教官が編集長と知り合いだったという特殊な要因があったので上手くいったと考えると,これは特別なケースですね.

図のトリミングの悪用例

さきほど「性善説ですね」と書きました.

全ての科学者の本性が基本的に善ならば良いのですが,そうはいかないでしょう(笑).

これから私がこれまでに見たことがあるウェスタンブロットの図のトリミングの悪用例をお示しします.

絶対にマネしちゃダメですよ!!!

予想外の位置に出たバンドを隠す

トリミングしたことで予想外の位置にでたバンドを隠すことが可能になります.

WBのトリミングの悪用例

本来は,予想外の位置に出たバンドに関しても説明をする必要があると思います.

予想外の位置にバンドが出たことが失敗なのかどうかを見極める必要がありますし,それが本当に失敗ならやり直せば良いだけです.

また,予想外の位置にバンドが出た理由が分からない場合は,素直に「分からない」と主張すれば良いだけです.

過剰な明暗の調整

過剰な明暗調節による不適切なトリミング

図の修整機能を利用して,過剰な明暗をつけることは止めましょう!

この場合,本来,見えていたバンドが見えなくなるほどの修整を加えています.

ここまでになると「修整」ではなく「捏造」でしょうね(笑).

短冊状にしたものを並べて1枚のように見せる

WBのメンブレンを短冊状にトリミング

図のトリミング機能を利用して,1枚のメンブレンから見せたい部分だけを取り出して並べ変えたり,複数のメンブレンから見せたい部分だけを取り出して並べたりする人もいました(笑).

でもこれは立派な捏造ですよ!

SDS-PAGEのゲルをカーテンコームを使って作製する場合もあるので,短冊状にすること自体は悪ではありません

問題は見せたい部分だけを取り出して並べ変えることそれを1枚のメンブレンと見せかけることです.

短冊状にするなら以下のようにメンブレンどうしの間隔を確保して1枚ではないことを強調する必要がありますし,その旨をレジェンドにも記述する必要があります.

WBのメンブレンを短冊状にする

“PVDF membrane was sliced into eight strips …”

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Raw dataの保存・管理はとても重要

ウェスタンブロットに限りませんが,実験結果のRaw dataの保存・管理はとても重要です.

論文等の作製で図のトリミングは避けて通れません.

「過度なトリミングはしない」ことを前提にしていますが,中には悪質な場合もあるでしょう.

Raw dataをしっかり保存・管理して,その開示を要求された時に適切な方法で示すことは「過度なトリミングはしていないよ」というアピールにもなります

これに関して,先日,興味深い論文を見つけました.

MIYAKAWA, Tsuyoshi. No raw data, no science: another possible source of the reproducibility crisis. 2020.

藤田保健衛生大学の宮川先生が編集長としてプレレビューした180本の論文の内,データが「画像が綺麗すぎる」とか「エラーバーが短すぎる」と感じた物が41本もありました.

宮川先生は,その41本の投稿に対して,著者にRaw dataの提出を依頼したところ,21本の投稿が取り下げられました.

Raw dataと共に再投稿があったのは20本でした.

内19本は,一部データのしか提出しないとか,Raw dataとの結果が一致しないという理由でリジェクトとしました.

欠点などが見つからず,正式に審査されてアクセプトされた投稿は1本だけでした.

まだ,全文を読んでいませんが,「21本の投稿が取り下げ」ってのが印象的でした.

捏造(捏造に近い操作)をしているのか,Raw dataの管理ができていないのか,特許や後学の研究のために公開できない何かがあるのか…詳細は分かりません.

でも,Raw dataの提供を渋るってのは,ネガティブなイメージを抱きますよね(笑).

Raw dataは突然要求される

昨年の11月頃に,共著者として論文を投稿しました.

でも,3日と経たない内に返事が来たので「リジェクトか…」と思ってメールを開くと次のような内容でした.

We noticed that your article contains western blot experiments. Our editorial office requires the authors to provide the uncropped, untouched, full original images of western blots.

Raw dataの保存は大切ですね!

気になったのは, “uncropped, untouched, full original images of western blots” というくどい表現です.

屁理屈や言い訳を並べて,Raw dataの提出を拒む連中がいるんでしょうね(笑).

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以上,論文に出てくるウェスタンブロットの見方でした.

最後までお付き合いいただきありがとうございました.

次回もよろしくお願いいたします.

2020年9月21日 フール