細菌の培地に加える界面活性剤の役割~Tween20とTween80~
Tween 20 ではなく Tween 80 を使うのはなぜですか?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
本記事の内容・Tween 20 と Tween 80 の違い
・細菌培養で Tween 80 を使う理由
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事している元研究者のフールです.
先日,以下のような質問をいただきました.
実験で小麦フスマで麹菌を培養して、分生子を回収時ハイドロフォービン分離のため胞子懸濁液を加えたのですが、胞子懸濁液に加えた界面活性剤は10%Tween80でした。なぜTween20ではないのか分かりません。また、様々な試料を見ましたが、2つの違いがあまり自分では分かりませんでした。今回フールさんの記事が素人にもわかりやすかったので、恐縮ではございますがお問い合わせいたしました。
ご質問ありがとうございます.
先ずはご質問者に直接回答したかったのですが,送信エラー(MAILER-DAEMON)となってしまいました.
なので,コチラで回答させていただきます.
残念ながら,私自身は真菌を実験や仕事で扱ったことがありません.
だから,正直,理由はわかりません.
ただ,細菌の培養でも界面活性剤を加えることがあり,その理由が参考になるのかもしれないと思いました.
ご質問者の方には参考程度の話となってしまいますが,今回は「細菌の培養で界面活性剤を加える理由」についてまとめます.
サマリー・Tween 類は側鎖の脂肪酸の種類によってナンバリングされています.
・細菌培養では,細菌の炭素源として Tween 80 を加えることがあります.
・細菌培養では,細菌の増殖を促進する目的で Tween 80 を加えることがあります.
Tween 20 と Tween 80
先ずは,Tween 20 と Tween 80 の違いについて簡単にまとめます.
Tween* は,さまざまな種類の脂肪酸を側鎖に持つ非イオン性界面活性剤です.
脂肪酸の種類によって Tween 20/40/60/65/80/85 があります.
例えば、Tween 20 の側鎖は主にラウリン酸(飽和脂肪酸),Tween 80 の側鎖は主にオレイン酸(不飽和脂肪酸)です。
*Tween は商標名なので,資料によっては「ポリソルベート」と書かれることがあります.
培地に界面活性剤を加える理由
抗酸菌・放線菌・乳酸菌・ビフィズス菌・コリネバクテリウム属菌・バクテロイデス属菌などの培養を行うときに,界面活性剤を加えることがあります.
理由は主に2つあります.
1つ目は,培養する細菌がエステラーゼ活性を有している場合です.
脂肪酸を側鎖にもつので,エステラーゼ活性により脂肪酸を遊離します.
細菌はそれを炭素源として利用します.
2つ目は,栄養分の取り込み効率を向上させたい場合です.
Tween 類は,細菌の細胞膜透過性や液体培地中での分散に影響を与えて栄養分の取り込み効率を上げ,増殖を促進します.
どうして Tween 80 なのか?
これにも2つの理由があります.
1つ目は,Tween 80 の側鎖がオレイン酸だからです.
エステラーゼ活性により遊離したオレイン酸は水に難溶性で,特定条件下では白色沈殿物として析出することがあります**.
これにより寒天培地の場合は,コロニー周囲が白濁になります.
この性質を利用した解析法が, Tween 80 加水分解試験と呼ばれるものです.
**例えば,カルシウムイオンと結合など
2つ目は,Tween80は,細菌の細胞膜透過性や液体培地中での分散に影響を与える効果が高いからです.
ちょっとだけ調べたところ,ハイドロフォービンは真菌細胞の表層に蓄積して疎水性の層を作るようなので,Tween 80 は真菌細胞の分散を促進したいのかもしれませんね.
Tween 20 ではダメなのか?
こちらも少し調べてみると,Tween 20 を使用している文献もちらほら確認できました.
これは私の経験則ですが,Tween 20 は低い分子量と高い親水性を持つため,特定の状況下でより扱いやすいんだと思います.
Tween 20 を使った場合と Tween 80 を使った場合で比較した文献があれば良いのですが,私は見つけられませんでした.
きっと実験をする上で比較検討を行われていると思います.
でも,そういった予備検討の結果って報告されないことも多いです.
私の回答は以上です.
これがご質問者の参考になれば幸いです.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2022年2月12日 フール