
プラスミドマップの見方が分かりません.
本記事の内容・プラスミドマップの見方
・プラスミドマップの作り方

こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
皆さんは,プラスミドがどのような要素から構成されているかを気にしたことありますか?
マルチクローニングサイト(MCS)と薬剤耐性遺伝子しかみていない人が大半だと思います.

私も最初はそうでした(笑).
事実,遺伝子組換え実験するだけなら,それだけを知っていれば何とかはなります(笑).
でも,遺伝子組換え実験の申請書を書くようになると話は別です.
使用するプラスミドが,どのような要素から構成されているかを書き,さらにプラスミドマップまで添付しなければなりません.

プラスミドマップと睨めっこしながら,申請書を書く時間は,かなり苦痛ですよ(笑).
そこで,本記事では,プラスミドマップの見方と作り方をまとめました.
本記事を読み終えると,プラスミドマップの見方と作り方が分かるようになり,遺伝子組換え実験がより一層楽しくなりますよ!
サマリー・プラスミドマップは,プラスミド販売メーカーが提供
・プラスミドマップは,塩基数・レプリコンの種類・MCS・プロモーター等の情報を記載
・プラスミドの配列が分かれば,自分でプラスミドマップを作成可能
プラスミドマップと付記情報
プラスミドを構成する要素は,全てプラスミドマップに記載されています.
そして,大半のプラスミドマップは,プラスミド販売メーカーが用意してくれています.
例えば,私がよく使うpCR®Blunt II-TOPO®ベクターのマップは,以下の通りです.
(※著作権等の関係で,実物を載せることは出来ないので,自作したモノを載せています.)
また,プラスミドの構成要素とその位置について列記された情報がある場合もあります.
位置は,複製開始点を起点としています.
例えば,pCR®Blunt II-TOPO®ベクターの付記情報は,以下の通りです.
(※著作権等の関係で,実物を載せることは出来ないので,自作をしたモノを載せています.)
プラスミドマップと付記情報から分かること
プラスミドマップと付記情報から,以下の内容が分かります.
① プラスミド名 ② 塩基数 ③ レプリコンの種類 ④ 制限酵素サイト(MCS) ⑤ プロモーターの種類 ⑥ 薬剤耐性遺伝子 ⑦ 遺伝子の向き ⑥ 薬剤耐性遺伝子 ⑧ その他(プライマー情報・タグ情報・蛍光タンパク質の情報など)
① ② ④ ⑥は,確認する人が多いと思います.
実験に必要な情報ですからね.
でも,③ ⑤ ⑦ ⑧にも重要な情報は詰まっていますよ.
レプリコンの種類
レプリコンは,プラスミドの複製様式やコピー数を決める配列です.
例えば,pUCベクターが持つレプリコンは,colE1の変異型です.

このレプリコンの特徴は,高コピー(500-700コピー)型であることです.
だから,DNAの大量複製やタンパク質の大量発現の目的でよく使われます.
このように,レプリコン情報を知っていると,実験系に適したプラスミドを選びやすいですね!
プロモーターの種類
プロモーターは,遺伝子の上流にある,その遺伝子の転写を制御する配列です.
例えば,in vitro 転写実験用なら,T7やSP6プロモーターを備えているものが多いですね.

実験内容に応じて,適切なプロモーターを持つプラスミドを選ぶようにしましょう!
特にタンパク質発現系では,プロモーターは実験の目的や導入対象に応じて使い分ける必要があります.
一方,サブクローニングが目的の場合,プロモーター情報は,そこまで重要ではありません.
遺伝子の向き
遺伝子を支配するプロモーターの向きに合わせて,遺伝子の向きが決定されます.
この情報は,発現ベクターに目的遺伝子をクローニングする際に重要となります.

博士課程に在籍していた頃,「タンパク質の発現ができません」という後輩がたくさんいました.
その理由が不明な場合もありましたが,大半は,プロモーターとは逆向きに遺伝子をクローニングしていたからでした(笑).

きっと,ココの情報を見落としていたんでしょうね.
その他
サブクローニング用のベクターには,コロニーPCR用にM13プライマーなどの配列が乗っているものも多いです.
また,タンパク質の発現チェックや精製用にレポーター遺伝子が挿入されているものもあります.

遺伝子組換え実験の申請書では,ココに該当する情報を求められることが多いです.
プラスミドマップには,そういった情報が全て載っています.
プラスミドマップの作り方
ここからは,プラスミドマップの作り方をまとめます.
冒頭で「プラスミドマップまで添付しなければなりません.」と書きました.
大半のプラスミドマップは,プラスミド販売メーカーが用意してくれていますが…プラスミドマップが存在しないものもあります.
また,各研究室で作ったオリジナルプラスミドには,当然,プラスミドマップは存在しません.
そのような場合でも,遺伝子組換え実験の申請書には,プラスミドマップを載せる必要があります.
時間に余裕がある人は手書きでも良いかもしれませんが,私は嫌です(笑).

だから,私はソフトウェアを使います.
SnapGene Viewerというソフトウェアを使えば,だれでも簡単に作ることができますよ!
ただ,配列情報が必要なので,配列情報が手元にない場合は,先ずはシークエンス解析を頑張ってください!
SnapGene Viewer
SnapGeneは,GSL Biotech社の開発した分子生物学用のソフトウェアです.
そして,SnapGene Viewerはその無償版です.
有償版でしか使えない機能もありますが,プラスミドマップを作るだけなら無償版でも可能です.

以下のサイトからダウンロードできます.

SnapGene 製品版
こちらは有償版で,プラスミド作成以外の機能も豊富です.

例えば,制限酵素処理やクローニングのシミュレーションもできます.
日本の販売代理店は数社ありますが,エムデーエフで購入するとSnapGeneステップ・バイ・ステップガイドやチュートリアルなどの日本語のサポート資料が利用できるのでオススメです.
SnapGene Viewerの使い方

早速,プラスミドマップを作ってみましょう!
配列情報は,Cloning vector pTrichoGate-19(GenBank: MN007123.1)を利用します.
SnapGene Viewerを起動
① SnapGene Viewerを起動して,左上の「新規」をクリックします.
配列情報の貼り付け
② 配列情報をコピー&ペーストで貼り付けます.
③ 今回のファイル名は,アクセッション番号にしました.
共通のフィーチャーの編集
④ 左下の「共通のフィーチャーを検出」にチェックが入っていることを確認します.
⑤ “OK” をクリックすると,共通のフィーチャーが表示されます.
不要な情報は,チェックを外しましょう!
暫定のプラスミドマップ
⑥ 「フィーチャーを追加」をクリックすると,暫定のプラスミドマップが作成されます.
これで十分という人は,完成です.

お疲れ様でした!
もう少し手を加えたいという方,最後までお付き合いください!
酵素の選択
⑦ 「酵素(N)」をクリックして,「酵素の選択(C)」を選びます.
⑧ あなたがよく使う酵素を選んで”OK” をクリックすると,反映されます.
プライマーの編集
⑨ プライマーを追加する場合は,「プライマー(P)」をクリックし,「プライマーの追加(A)」を選びます.
フィーチャーの編集
⑩ ORF情報を付けたいなど,別のフィーチャーを加えたい場合は,「フィーチャー(R)」をクリックし,「フィーチャーの追加(A)」を選びます.
⑪ プライマーやフィーチャーの詳細は,下のタブをクリックすると,詳細が表示されます.
フィーチャー情報はとても優秀で,例えば,レプリコンの種類なんかも分かります.
⑫ これらを調整して,必要な情報を載せたら完成です.

お疲れ様でした!
SnapGene Viewer歴は5年
SnapGene Viewerを使うようになって,かれこれ5年近くになります.
SnapGene Viewerを知ってから,遺伝子データの管理が楽しくなりました.
プラスミドに限らず,合成遺伝子などの管理にも使えるので,分子生物学実験のお供に最高ですよ!

以上,プラスミドマップの見方と作り方でした.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年5月4日 フール