
ある処置を実施する前とした後で,処置の効果を検定したいんだけど,2標本の検定ではダメなのかな?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
本記事の内容・Excelで対応のT検定のやり方

こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事している元研究者のフールです.
今週もを実験データの具体的な解析方法の記事を書いていきます.
今回は対応のある検定です.
理論や定義よりも実際にどういう操作をするのかを知りたい!

そんな方に本記事はオススメですよ!
この記事では,大学にいたころに私が経験した薬剤の比較*を例に,処置Aを実施する前とした後で,処置Aの効果を検定したいと思います.
本記事を読み終えると,対応のある検定のやり方が分かるようになりますよ!
*諸事情により実際の数値は使えないので,私が架空の数値を設定しました.
サマリー・処置前と処置後の数値は,どちらも同じ個体から得られているので「対応のある」と判断します.
・「対応のある」数値を「独立している」数値と捉えてはダメです.
薬剤の投与による効果を検定【対応のある検定】

大学にいたころ,私は乳牛に投与するカルシウム剤の効果を検定したことがあります.
乳牛は出産後に低カルシウム血症(低Ca血症)になりやすい動物です.
低Ca血症は起立不能を引き起こし,最悪の場合は乳牛の処分も検討するので,農家さんに与える経済的損失はとても大きいんです.
治療に使うカルシウム剤は,製薬会社が販売しているので,有効と判断できるデータはあります.
でも…

そのデータは,私の診ている乳牛にも当てはまるのか?
こんな疑問を感じることがありました.
そこで低Ca血症の治療で使われるカルシウム剤の投与は,血中カルシウム濃度をどのくらい改善するのかを調べてみました.
検定の手順
- 設問:カルシウム剤投与の前後で,血中カルシウム濃度の違いを調べる.
- 帰無仮説:投与前後で,血中カルシウム濃度の違いは無い.
- 対立仮説:投与前後で,血中カルシウム濃度の違いは有る.
- データを集める.
- 統計量を算出する.
- 帰無仮説が正しい確率pを算出する.
- 確率pと有意水準αを比べる.
- 結論を考える.

以下は,集めたデータ*です.
ID | 投与前(mg/100 mL) | 投与後(mg/100 mL) |
1 | 4.8 | 8.2 |
2 | 6.2 | 10.2 |
3 | 6.0 | 9.9 |
4 | 5.2 | 9.4 |
5 | 4.7 | 8.2 |
6 | 5.5 | 8.9 |
7 | 6.9 | 10.2 |
8 | 7.1 | 8.8 |
9 | 5.6 | 9.6 |
10 | 6.8 | 11.2 |
11 | 6.5 | 10.3 |
12 | 6.4 | 11.2 |
13 | 6.2 | 10.5 |
14 | 4.8 | 8.4 |
15 | 4.9 | 8.2 |
*実際の数値は使えないので,架空の数値を私が設定しました.
検定を行う前に考えること

いきなり検定を実施してはダメでしたね!
検定の前に考えることがありました!
- データは間隔変数か?
- データは正規分布していると仮定できるか?
- データ間に対応はあるのか?
データの特徴
今回の測定値は濃度(mg/100 mL)で,大小や差に意味があるデータです.
よって,今回のデータは間隔変数です.
正規分布の仮定
データが正規分布しているかどうかを確認する方法はいろいろあります.
詳細は以下の記事でまとめていますので,ご覧ください.
https://bioresearch-troubleshooting.info/normal-distribution/
今回は尖度・歪度で判断しました.
投与前・投与後ともに尖度・歪度が-1.5~1.5の範囲でしたので,正規分布していると仮定しました.
データ間の対応
同じ乳牛で,カルシウム剤の投与前と投与後のデータがあるので対応があります.
もし別々の群で,カルシウム剤の投与群と非投与群に分けられたなら,対応はありません.

この違いは,とても重要ですよ!
それでは考えたことを整理しましょう!
Studentの T検定 |
Welchの T検定 |
対応のある T検定 |
Mann–Whitneyの U検定 |
Wilcoxonの 符号順位検定 |
|
データの特徴 | 間隔変数 | 間隔変数 | 間隔変数 | 間隔変数 順序変数 |
間隔変数 順序変数 |
データ間の対応 | 無し | 無し | 有り | 無し | 有り |
正規分布の仮定 | 出来る | 出来る | 出来る | 出来ない | 出来ない |
等分散の仮定 | 出来る | できない | – | – | – |

以上より,今回実施する検定は対応のあるT検定になります!
対応のあるT検定
さて,いよいよ本題!

カルシウム剤の投与前後に統計学的な差はあるのでしょうか?
それを対応のあるT検定により確認します.
やり方は簡単ですよ!
ExcelでT.TEST関数を使うだけです.
確率pは,有意水準α(α=0.05)よりも小さいので帰無仮説を棄却して,対立仮説を採用できます!
つまり,「投与前後で血中カルシウム濃度の違いは有る」ってことです.

以上より,カルシウム剤の投与前後に有意な差があることがわかりました!
今回は,架空の数値ではありますが,実験データを使った検定のやり方をまとめてみました.
対応のあるT検定と対応のないT検定を混同しないように注意して下さいね!
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2021年1月29日 フール