核酸のPAGE【ポリアクリルアミドゲル電気泳動のあれこれ】
核酸のPAGEもあるの?アガロースゲル電気泳動と何が違うんですか?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
本記事は PAGE の各論になります.
総論に関しては前々回の記事を,タンパク質のPAGEに関しては前回の記事をそれぞれご参照ください.
本記事は,核酸の PAGE についてまとめています.
PAGE は,サンプルが核酸の場合でも使えるんですよ.
サマリー・サンプルが1本鎖の核酸の場合,塩基組成の違いを検出できます.
・サンプルが2本鎖の核酸の場合,二本鎖間のミスマッチの有無を検出できます.
核酸のPAGE
尿素やホルムアミドなどの変性剤の有無と核酸が 1 本鎖なのか 2 本鎖なのかが重要です.
核酸の PAGE では,ポリアクリルアミドゲルは必ずしも篩として機能するわけではありません.
変性剤非存在下のPAGE
尿素やホルムアミドなどの変性剤を使わない場合です.
1本鎖の核酸の場合
RNA や 1 本鎖 DNA は,高次構造を形成します.
高次構造の形は,塩基配列によって異なります.
僅かでも塩基配列が異なると,その 1 本鎖核酸が形成する高次構造は変化します.
よって,同じ塩基数の核酸断片であっても,高次構造が変化すると PAGE の移動度が変わります.
これを利用した実験手法が “Single strand conformation polymorphism analyses (SSCP)” です.
特定の遺伝子領域を PCR 法で増幅して行う手法を PCR-SSCP といいます.
科学系刑事ドラマでは,現場に残された遺伝子型を判定するなどのシーンで,PCR-SSCP が行われていることがありますね.
2本鎖の核酸の場合
DNAは二重らせん構造をとっていますが,分子構造は直線状です.
この場合,PAGE の移動度は塩基数に依存します.
でも,断片中にミスマッチがあると話は別です.
二重らせん構造の一部が崩れる(歪む)ので,同じ塩基数のDNA断片であってもPAGE の移動度が変わることがあります.
CRISPR-Cas9 などによる遺伝子編集を行ったとき,DNAの切断後に起こる塩基の挿入(または欠失)を指標に,遺伝子編集の成功または失敗を判定します.
二重らせん構造の一部が崩れるという性質を利用すれば,標的遺伝子における変異を検出することができます.
シークエンス解析までは行わないので,どのような変異が導入されているかは分かりません.
でも,遺伝子編集が誘導されたかどうかを知る手段としては十分だと思います.
変性剤存在下のPAGE
尿素やホルムアミドなどの変性剤は,核酸の高次構造が壊します(二重らせん構造も壊れます).
変性剤に関しては,以下の記事でもまとめています.
高次構造が壊れ,直線状になった状態で PAGE を行うと,分子量に応じて分子の移動度が決まります.
PCRやRT-PCR法がまだ普及していなかった頃,この方法で特定の配列をもつ核酸断片を検出する実験手法が使われていました.
それがサザンブロットとノーザンブロットです.
PAGE vs. アガロースゲル電気泳動
PAGEは,1 kb 未満の核酸の分離に適しています.
一方,アガロースゲル電気泳動は,500 bp ~ 25 kb の核酸の分離に適しています.
また,ポリアクリルアミドゲルの分解能は非常に高いです.
PAGEならば,100 bp 未満の核酸断片の1塩基の違いを区別することも可能なのです.
だから,PAGEでは遺伝子型を判定することも可能なんですよ!
以上,核酸のPAGEとアガロースゲル電気泳動の違いでした.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年2月8日 フール