バンドの検出はできたけど,バンドが滲んでた.どうして?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
皆さんは,ウェスタンブロット(WB) で不思議なバンドを出したことがありませんか?
・バンドに虫食いがある ・バンドにムラがある ・バンドが滲んでいる
これらは,WB の一連の流れを習得して慣れてきたころ,言い方を変えると「私はもうできる」と調子に乗り始めた頃に出くわすことが多いエラーです(笑).
今回は,この3つのエラーに遭遇した時のトラブルシューティングについてご紹介します.
サマリー・ゲル,メンブレンの密着が不十分なとき,不思議なバンドは登場します.
・セミドライ式で起こりやすいです.
・トラブルシューティングは,気泡を完全に排除することです.
本日の課題
あなたは,以下の実験結果をどのように解釈しますか?
そして,どのようなトラブルシューティングが必要だと思いますか?
図2 WBによるタンパク質yy*の検出 S:サイズマーカー レーン1-6:サンプル(培養細胞のライセート) レーン7:ポジティブコントロール(人工合成のyy) レーン8:ネガティブコントロール(yyが非発現細胞のライセート) 1次抗体:抗yyマウスモノクローナル抗体 2次抗体:抗マウス‐HRP標識抗体
*目的タンパク質 yy のサイズは,80-90 kDa である.
フールの解説
前回同様に,1つずつみていきましょう!
初めに見る所のは,サイズマーカーのレーン
今回のサイズマーカーはいかがでしょうか?
おやおや,サイズマーカーのバンドの見え方が一様ではありませんね.
250-75 kDa のバンドにムラが確認できます.
何か問題がありそうですね.
ポジティブコントロールとネガティブコントロールを確認
②ポジティブコントロールのバンドは,予想される位置(図1の*を参照)に検出できています.
本実験のプロトコールは正常にワークしているようです.
ただ,何かが流れ出た様に滲んでいますね.
こちらも何か問題がありそうです.
③ネガティブコントロールレーンには,何も出ていませんね.
抗体の非特異的な結合や偽陽性は無さそうなので,本実験の結果は正確であると言えそうです.
サンプルとポジティブコントロールを比較
それでは,サンプルのレーンを見ていきましょう.
レーン1-6で確認できたバンドの位置を,ポジティブコントロールのバンドの位置と比較するんでしたね.
これは困りました.
ポジティブコントロールのバンドが滲んでいるため,正確な位置を決定できません.
ポジティブコントロールと同じ位置にバンドが出ることで判定するのが基本なので,今回のようなバンドの滲みは,正確な判定を妨げています.
さらに,サイズマーカーで見られたようなムラがあるバンド(④)や虫食いのように一部が抜けたバンド(⑤)も見られます.
いったい何が起きているのでしょうか?
原因は?
今回のようなバンドの「ムラ」・「抜け」・「滲み」は,転写時にゲル,メンブレン,ろ紙の密着が不十分な場合に起こります.
特に使用するバッファーの量が少ないセミドライ式で起こりやすいエラーです.
よくある原因は,ゲルとメンブレンの間に気泡を含んだ状態で転写を開始してしまうことです.
泡は,ゲルとメンブレンの間に空気の層を作ります.
この空気層がバンドの位置と重なると,空気中をタンパク質が移動することは出来ないので,「抜け」たバンドが出てきます.
フールのトラブルシューティング
私が提案するトラブルシューティングは,以下の通りです.
転写開始前にゲル,メンブレン,ろ紙をしっかりと密着させ,気泡を完全に排除しましょう.
転写装置にもよりますが,付属の専用のローラーがあります.それで確実に気泡を取り除きましょう.もし専用のローラーが無ければ,ラップまたはアルミホイルの芯が代用できます.その場合,芯を直接当てる色々問題があるので,ラップ越しに行ってください.
力加減に注意してください.力いっぱいにローラーをかけるとゲルの破損につながります.
あとがき
冒頭で「調子に乗り始めた頃」と書きましたが,それは「慣れ」により作業が「雑」になり始めたということです.
最初は,皆,不安要素が色々あるので丁寧にやります.
しかし,経験を積み,一通りの作業を1人で出来るようになると無意識の内に「一人前」感覚が芽生えるのです.
そこに落とし穴があります.
怖いですね~(笑).
最後までお付き合いいただき,ありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2019年11月4日 フール