基準値 vs. 正常値【 “Normal” の意訳】

基準値
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実験動物の血液学的検査や血液生化学的検査の値が,供給会社が提供している参照値と異なるんですけど,これって異常ですか?

本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.

本記事の内容・血液学的検査や血液生化学的検査の参照値は「正常値」ではなく「基準値」と表現します.

・基準値内の値を「正常値」,基準値外の値を「異常値」と呼ぶこともありますが,統計学的には正しくありません.

フールは元研究者の獣医師で,夢追い人である.

フールの登場

こんにちは.

元研究者のフールです.

皆さんは,「基準値」とか「参照値」という用語を聞いたことがありますか?

「正常値」とか「異常値」という用語はどうでしょうか?

実験ではなく健康診断の結果などで聞いたことがある人も多いと思いますが,実は「正常値」とか「異常値」という用語は最近は使用しません

この記事では,「基準値」についてまとめました.

本記事を読み終えると,実験動物の測定値だけでなく,自身やペットの健康診断などの結果の解釈の理解も進みますよ!

サマリー・基準値とは「集団の95%が含まれる範囲」です.

・基準値内の値を「正常値」,基準値外の値を「異常値」とするのは誤った解釈です.

・”Normal” は,「正常値」ではなく「基準値」と訳した方が良いと思います.

基準値

血液学的検査や血液生化学的検査を含むほとんどの検査結果は,正規分布(左右対称の山型)になります.

基準値とは,この分布から極端に高い数値と低い数値を除いた値です.

フールの登場

正確には「集団の95%が含まれる範囲」です*.

95% ?

フールの登場

正規分布では,「平均値を基準としたときに標準偏差(SD)の範囲にどれだけのデータが存在するか?」が(理論上)決まっています.

フールの登場

そして,「平均値 ± 2SD」の範囲には全体のデータの約95%のデータが入ります.

個体の95%が含まれる範囲を「基準値」という

残りの 5% は?

フールの登場

何故かはわかりませんが,統計学では 5% くらいの確率で起こる事象を「例外」とか「稀」と解釈することが多いです.

ってことは,残りの 5% は異常ですか?

フールの登場

必ずしもそうではありません!

*実験動物の供給会社によっては「平均値 ± SD」を参照値としている場合があり,その場合は「集団の68%が含まれる範囲」となります.

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基準値の解釈の仕方

基準値内の値を「正常値」,基準値外の値を「異常値」と呼ぶこともありますね!

でもこれは統計学の考え方からすると誤った解釈なんです.

前述したように基準値の設定方法は「集団の95%が含まれる範囲」です.

フールの登場

ここから分かることは,「集団の約 5% は基準値から外れる可能性あるよ!」ってことです.

だから,基準値の範囲外の値が検出されたとしても,すぐに異常と判断することはできません.

フールの登場

基準値はあくまでも統計学的な目安でしかありませんから.

実験動物の結果であれば,基準値を参考にしつつ,元気・食欲・被毛の状態・その他の症状などの情報を含めた総合的な判断が必要です.

正常値は個体ごとに異なる

基準値はあくまでも統計学的な目安だと書きました.

それでは「正常値」とはなんでしょうか?

まず,最近では「正常値」とか「正常範囲」という用語は使用しない傾向にあります**.

上述したとおり,基準値から外れた 5% は必ずしも異常ではないからです.

それを踏まえたその上で,「正常値」について説明します.

フールの登場

実は,正常値は個体ごとに異なります.

えっ!?
そしたら,どうやって「正常 or 異常」を判断するの?

フールの登場

定期的な検査データを蓄積し,個体の中の変化の度合いを把握するしかありません.

実験動物の管理では,あまり現実的ではありませんね…

フールの登場

ですね…ただ例外はありますよ!

**ヒトやペットの健康診断の結果報告などでは,分かりやすさを重視するためか「正常値」という表現をすることがまだありますね.

統計学を意識した実験動物の管理

これは私の経験談ですが,実験動物を実験毎に供給会社から購入するよりも,研究施設内で繁殖・維持させていた方が,測定値のバラつきは小さかったです.

輸送や飼育環境の変化などの環境ストレスを減少させたことが要因だろうと勝手に思っていますが,詳細な理由は調べてません.

ただ,これには以下のような課題があります.

  • 実験動物を日々管理する人材の確保が必要(そもそも人材が少ない&人件費↑)
  • 施設毎に定められた各種書類の準備と申請業務が増える

できるなら研究施設内で繁殖・維持させたいという研究者もいるとは思いますが,上記を踏まえて,断念するところが多いのではないでしょうか?

“Normal” の意訳は?

“Normal blood creatinine or normal or mild increase blood …”

英語では上記のような表現を見かけることがあります.

これを DeepL で翻訳すると「血中クレアチニン正常値または血中クレアチニン正常値または軽度増加」となります.

“Normal” は「標準・正常」という意味なので仕方ありません.

フールの登場

でも私は,科学者として,こういった時も「血中クレアチニン基準値」と訳すように努力しています.

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最後までお付き合いいただきありがとうございました.

次回もよろしくお願いいたします.

2022年6月30日 フール

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