
PCRしたら,目的サイズとは別のバンドも出てきた.どうして?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.

こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
以下は,PCR法について簡単に説明したものです.
PCR法は,DNAをサンプルとした遺伝子検査の1つです.特定のDNA断片だけを選択的に増やすことできます.
実験初心者の多くは,この説明を聞き,PCR法は万能だと思うようです(笑).

確かに,上記の説明は間違っていません.
ただ,これには「適切な反応条件の下で」という言葉が隠れています.
「適切な反応条件」が整っていないと,「テキトーなDNA断片をただ増やすだけ」になります.
その結果,非特異なバンドとして認識されるわけです.
今回は,PCRで非特異なバンドが出る理由(原因)についてまとめました.
サマリー・プライマーのデザインに問題があるかもしれません.
・PCRの反応条件に問題があるかもしれません.
本日の課題
あなたは,以下の実験結果をどのように解釈しますか?
そして,どのようなトラブルシューティングが必要だと思いますか?
図1 遺伝子y*の検出のため,新規プライマーを使ったPCRの結果 S:サイズマーカー レーン1:プライマーのみ(PCR反応なし) レーン2:プライマーのみ(PCR反応あり:cDNAを加えていないPCR反応) レーン3-6:サンプル(RNAを逆転写したcDNA)* レーン7:ポジティブコントロール(遺伝子yを持った組換えプラスミド)* レーン8:ネガティブコントロール(遺伝子yを持たない組換えプラスミド)* ゲル:1.5% アガロースゲル in TAE 泳動:100 V, 25分間 染色:EtBrの後染め
*目的遺伝子yのサイズは,約1500 bp である.
*培養細胞から抽出したトータルRNA 500 ng をインプットとして cDNA 合成を行い,PCR検査には,25 ngのcDNAを使用した.
*PCR検査では,25 ngのプラスミドを使用した.
フールの解説
結果の見方は,全部で5つのステップがありましたね.
前回同様に1つずつみていきましょう.
①初めに見る所のは,サイズマーカーのレーン

全てのサイズマーカーがキレイに泳動されていますね.
ココから,増幅されたPCR産物も同様に泳動されていると考えることができるんでしたね.
②ポジティブコントロールと③ネガティブコントロールを確認
②ポジティブコントロールのバンドが,予想される位置(図1の*を参照)にキレイに検出できています.

これは,本実験のプロトコールが正常にワークしていることの証でした.
③ネガティブコントロールレーンは,残念ながらバンドが1つ出ていますね.
ネガティブコントロールでバンドが検出されないことは,プライマーの非特異的な結合による増幅やクロスコンタミネーションが無いという証でした.

これにより,本実験結果の正確性を保証していたのですが…
加えて,レーン2-8で同様のバンドが検出されています.
これは,ネガティブコントロールだけの問題ではありませんね.
④サンプルとポジティブコントロールを比較
サンプル(レーン 3-6) で確認できたバンドの位置を,ポジティブコントロールのバンドの位置と比較するんでしたね.

サンプルレーンのバンドとポジティブコントロールのバンドの位置が同じですね.
サンプルでは遺伝子yが転写されていたと解釈することができます.
⑤余計なバンドの解釈の仕方
さて,ネガティブコントロールを始め,レーン2-8で見られたバンドについてです.
サイズが,ポジティブコントロールのそれとは違うので,ポジティブコントロールのクロスコンタミネーションではありませんね.
それでは,このバンドの正体は,いったい何でしょうか?

そこでレーン1と2に注目してください!
本実験では,新たにプライマーを合成しています.
そのプライマーがプライマーダイマーを形成するかどうかを検証するために,レーン1と2を用意しています.
レーン1は,プライマーのみを泳動しているレーンです.
レーン2は,プライマーのみでPCR反応を行った産物を泳動しているレーンです.
当たり前ですが,レーン1ではプライマーが検出されています.
レーン2では,プライマーよりもサイズの大きい何かが検出されています.

ココには,サンプルのcDNAは入っていません.
よって,これはプライマー同士が結合したプライマーダイマーであると考えることができます.
レーン3-8で見られたバンドは,レーン2と同じ位置に検出されているので,これらは全てプライマーダイマーであると考えることができます.
トラブルシューティング
プライマーダイマーができる要因は,以下の2つです.
① プライマーデザイン ② アニーリング温度など反応条件
プライマーデザイン
プライマーデザインの問題として,「プライマーに相補配列が多い」場合は,プライマーダイマーが生じやすくなります.
プライマーの相補配列は,3ベース以下となるように設計しましょう.
アニーリング温度など反応条件
反応条件の問題として,以下の2点があります.
(1)アニーリング温度が低い (2)ホットスタート法を採用していない
アニーリング温度が低い
一般にアニール温度は,プライマーの Tm 値から-5℃と言われます.
しかし,余計なバンドやプライマーダイマーが生じている場合は,Tm 値を上げることを検討してください.
ホットスタート法を採用していない
プライマーどうしまたはプライマーと鋳型DNAが低温で結合し,PCRが開始してしまうことがあります.
これをを防ぐ目的で,高温になるまで酵素反応を開始させない工夫をします.

それをホットスタート法といいます.
私の知る限りホットスタート法には,以下の4つがあります.
A. ワックス法 B. 抗体結合耐熱性酵素を用いる方法 C. 高温下で不足しているコンポーネントを追加する方法 D. 加熱処理後に活性化する組換えDNAポリメラーゼを用いる方法
AとCは,ポリメラーゼの種類が限られていた時代に行われていた古典的な方法です.
私も,勉強のために数回しか経験はありません.

「やるな!」と言いませんが,オススメはしません(笑).
近年は,BとDが主流だと思います.
プライマーダイマーがあっても実験結果に影響しない場合
プライマーダイマーがあっても実験結果に影響しない場合があります.
例えば,PCR反応の目的が遺伝子クローニングの場合です.
目的の断片が増幅されれば,それを切り出して精製すれば良いので.
逆に,プライマーダイマーがあって問題となるのは,見栄えが悪くなることでしょう.

近年は,PCRの結果を論文等に載せることが稀なので,あまり問題にはならないでしょうが…
それでも実験の生データは残しておくべきなので,その見栄えが悪いと見返したときに指摘されるかもしれません.
「配列に特異的なプライマーを使っているのに,どうして別のバンドがあるの?」って(笑).
本記事を読んだ方は,回答に困りませんね!
以上,PCRの非特異なバンドのトラブルシューティングでした.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年3月28日 フール