中和抗体とその保有率【98%が意味すること】

中和抗体の有無と再感染
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中和抗体とその保有率【98%が意味すること】

 

「新型コロナウイルスに感染して回復した人の98%が,半年後も中和抗体を保有していた」ってニュースで見たけど,これってすごいことなの?

本記事は,このような疑問にお答えします.

 

こんにちは.

博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.

「新型コロナウイルス感染症から回復した人の98%が,半年後も中和抗体を保有していた」という報告が,横浜市立大学から発表されましたね!

海外の研究報告では「感染後数カ月で中和抗体は減少する」という報告があったので,厄介な感染症だなと感じていました.

しかし,日本人は少々違うようです.

これにも「何らからの原因(ファクターX)」が関与しているのかな(笑).

ところで,中和抗体ってどんな抗体なのでしょうか?

その保有率が98%って何を意味するのでしょうか?

こういった情報については,メディアもあまり説明していない印象です.

この記事では,過去に感染症の研究もしていたフールが,中和抗体の意義についてまとめます.

本記事を読み終えると,「中和抗体」が分かるようになりますよ!

 

サマリー・中和抗体はウイルスに結合して,ウイルスと細胞の接触を防ぎます.

・中和抗体を誘導できるワクチンが開発されれば嬉しいです.

中和抗体とは?

新型コロナウイルス感染症から回復した人の98%が,半年後も中和抗体を保有していた

この報道を見たとき,

 

おっ!すごいな!

 

と私は思いました.

なぜなら,中和抗体は「ウイルスに結合してその感染力を奪う」抗体だからです.

これからその詳細を説明しますね!

中和抗体が無い場合

中和抗体が無い場合は,次の図のようになります.

中和抗体が無い場合

ウイルスと細胞の接触を阻むものがありません

だから,ウイルスは細胞内に侵入し,増えてしまいます.

そして,最終的には細胞を破壊して細胞外へ放出されます.

放出されたウイルスは別の細胞に感染して,同様のサイクルを繰り返します.

中和抗体がある場合

一方,中和抗体がある場合は次の図のようになります.

中和抗体が有る場合

中和抗体はウイルスに結合して,ウイルスと細胞の接触を防ぎます

だから,ウイルスは細胞内に侵入できません.

よって,ウイルスの数も増えませんし,細胞も破壊されません.

この間にウイルスは,免疫細胞によって除去されます.

中和抗体の調べ方

対象とするウイルスによって各論はたくさんありますが,中和抗体の調べ方は,大きく2通りの方法があります.

  • 血清を希釈する方法
  • ウイルス液を希釈する方法

ここでは,前者の「血清を希釈する方法」を説明します.

血清希釈による中和試験

血液から血清を分離します.

そして,その血清を2倍階段希釈していきます.

血清希釈による中和試験

次に,希釈した血清を一定量のウイルス液と混ぜます.

血清希釈による中和試験のやり方

混合物中では,血清中の中和抗体がウイルス粒子に結合しています.

図が予想以上に小さくなってしまいました…

すみません.

最後に,その混合物を培養細胞に接種します.

血清希釈による中和試験のプロトコール

希釈倍率は低く中和抗体の含量は多い場合,中和抗体は全てのウイルスに結合して,ウイルスの細胞への侵入を防ぎます

だから,その希釈倍率では細胞破壊は観察されません.

一方,希釈倍率は高く中和抗体の含量が少ない場合,中和抗体は一部のウイルスにしか結合できず,ウイルスの細胞への侵入を防ぐことができません

だから,その希釈倍率では細胞破壊が観察されます.

こちらも予想以上に図が小さくなってしまいました…

すみません.

中和抗体価

上記のようにして,細胞破壊が観察されない血清の最大希釈倍率を求めます.

その倍率が中和抗体の力価(中和抗体価)となります.

例えば,256倍まで細胞破壊は観察されず,512倍で細胞破壊が観察された場合,中和抗体価は256倍となります.

発表された研究結果には,次のようなこともありました.

中等症・重症だった方が,軽症だった場合に比べて,中和抗体の活性がより強い傾向にある

これは,中等症・重症だった方の中和抗体価が大きいってことです.

一般的には,256~512倍以上の中和抗体価があると再感染の可能性は低いと判断されます.

ただ,新型コロナウイルスの場合の基準はまだよく分かりません.

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シャルル・ニコルの法則

ワクチン接種で抗体陽性率を75%以上に保つと,病原体が侵入しても,散発的な発生はするが,流行はしない.

これを「シャルル・ニコルの法則」と言います.

今回は「ワクチン接種」を「ウイルス感染」に置き換えて考えます.

すると新型コロナウイルス感染症の元患者の98%が抗体陽性だったと考えることができます.

「75%以上」なので,現時点では,この集団で新型コロナウイルス感染症が再び流行する可能性は低いと考えることができます.

非常に小規模な集団ですが…

対象は「集団」

大切なことは,シャルル・ニコルの法則の対象は「集団」であり「個人」ではないことです.

個人レベルでは感染する人が出ても,それが集団全体に拡がる可能性は低いという意味です.

新型コロナウイルス感染症から回復した人が,再び感染しないという意味ではありません

個人レベルに安易に落とし込むのは止めましょうね!

ワクチン開発にも期待

今回の報告では,代表研究者の山中先生は次のように言っていました.

自然感染とワクチンによる免疫は必ずしも同一ではないが,ワクチン開発に一定の期待が持てる結果になった.

もし,今回の傾向がワクチン接種でも当てはまるなら,

つまり,

「ワクチン接種を受けた人の98%が,半年後も中和抗体を保有していた」という結果をもたらすなら,最高ですよね!

注射嫌いな私でもちゃんとワクチン接種を受けようと思います(笑).

でも感染を予防するワクチンって非常に稀です.

正直に言えば,私はあまり期待はしていません.

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以上,中和抗体とその保有率【98%が意味すること】でした.

最後までお付き合いいただきありがとうございました.

次回もよろしくお願いいたします.

2020年12月6日 フール

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