メンブレン上にシミ【ウェスタンブロットの失敗】
メンブレンにシミがあるんだけど,なんで?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
ウェスタンブロットで,メンブレン上にシミが出たことはありませんか?
バンドはキレイに出たけど,メンブレンがキレイではない.
残念ですよね.
論文や報告書に載せる結果は,いかなる疑念の抱くことができないくらいキレイにしたいものです.
本記事では,メンブレン上のシミの対策についてまとめています!
サマリー・シミが原因で,実験データを疑う人もいます.
・島状のシミとスポット状のシミは,その原因が異なります.
・慣れにより作業が雑なときに遭遇するトラブルです.
本日の課題
あなたは以下の実験結果をどのように解釈しますか?
そして,どのようなトラブルシューティングが必要だと思いますか?
図4 WBによるタンパク質nn*の検出 S:サイズマーカー レーン1-6:サンプル(培養細胞のライセート) レーン7:ポジティブコントロール(nn発現細胞のライセート) レーン8:ネガティブコントロール(nnが非発現細胞のライセート) 1次抗体:抗nnマウスモノクローナル抗体 2次抗体:抗マウス‐HRP標識抗体 検出方法:化学発光法(Chemiluminescence)
*目的タンパク質nnのサイズは80 kDaである.
フールの解説
これまで同様に,以下の流れは割愛します.
- サイズマーカーの確認
- ポジティブコントロールの確認
- ネガティブコントロールの確認
- ポジティブコントロールのバンドとサンプルのバンドの比較
確認したい方は,以下の記事をご確認ください.
さて、本日のお題である「メンブレン上のシミ」です.
メンブレンの上下に島状のシミが出ていますね.
また,メンブレンの数か所にスポット状のシミも出ていますね.
結果には問題ないが…
実験の結果自体には問題ないでしょう!
しかし,この様なシミ(汚れ)が出ていると妙な「いちゃもん」つける人がでてきます.
例えば,以下のようなことです.
- 得られたバンドもシミなのでは?
- このシミが結果に影響していない証拠は?
面倒くさいですよね!
ただ,ウェスタンブロットはデータのねつ造も簡単にできる実験系です.
だから,少しでも疑念が生じるような結果は受け入れることが出来ないのも事実なのです.
結果を見た人が,何も言わずに結果だけを受け入れるくらいキレイな像を取りましょう!
原因は?
さて,このようなシミが出現してしまうのは何故でしょうか?
メンブレン上下にある島状のシミとメンブレンに散らばっているスポット状のシミは,原因が異なります.
それぞれ,分けて考えましょう!
島状のシミ
原因は3つあります.
・十分な振とうが出来ていない ・抗体溶液量が少ない ・洗浄操作が雑
十分な振とうができていない or 抗体溶液量が少ない.
↓
メンブレンに抗体溶液が一様に行き渡らない.
↓
メンブレンの各所において接触する抗体量にムラが生じる.
↓
抗体溶液が長く滞在していた部分は,抗体の非特異的な結合も起こりやすい.
↓
その部分のバックグラウンドが高くなる.
洗浄操作が雑になっても同じ
洗浄操作が雑
↓
メンブレンに未反応の抗体が残存する.
↓
メンブレン上に残存した抗体は,非特異な結合をした抗体と同じ.
↓
その部分のバックグラウンドが高くなる.
スポット状のシミ
考えられる原因は2つです.
・ブロッキング剤の溶解が不十分 ・二次抗体が凝集していた
粉末状のブロッキング剤を調整する際に,その溶解が不十分な場合に,スポット状のシミができます.
スキムミルクをブロッキング剤として利用するときに,よく起こります.
また,使用する抗体(特に二次抗体)に凝集がおこる場合があります.
抗体の凝集は,凍結融解の繰り返しやドライアイスの近くに保存することで起こりやすくなります.
凝集した抗体もスポット状のシミの原因です.
トラブルシューティング
私は,提案するトラブルシューティングは,以下の通りです.
① 抗体希釈液の増量
抗体量は変えず,希釈液の量を増やし抗体溶液量を増加させます.
ただ,あまりにも液量を増やし過ぎると,抗体と抗原の反応効率が落ちてしまいます…
増量もほどほどに!
② シーソー式や水平式の振とう器の使用
メンブレン全体に抗体溶液が行き渡るように,シーソー式や水平式の振とう器の使用しましょう!
③十分に溶解したブロッキング剤を使用しましょう.
不溶物がある場合は,溶液のチューブを軽く遠心してから分注しましょう!
遠心後の上清を使えば,不要物が反応用トレイに入るのを防ぐことができますね!
④二次抗体が凝集していないことを確認しましょう.
凝集物がある場合も,溶液のチューブを軽く遠心してから分注しましょう!
③と同じく,凝集物が反応用トレイに入るのを防ぐことができます.
あとがき
以前,「慣れ」により作業が「雑」になり始めたときに遭遇するバンドの記事を書きました.
実は,今回のシミも「慣れ」により作業が「雑」になり始めたときに遭遇するトラブルなんです.
慣れてくると操作が機械的になりやすく,ちょっとした変化に気付かずに実験を進めがちです.
加えて,バンドばかりに注目するあまり,普段はメンブレン上のシミや汚れを気にすることはないかもしれません.
そして,ある日,指導教官や先輩から言われます.
このシミは何かな?
ってね(笑).
気を付けましょうね.
もっと勉強したい方へ
・MURPHY, Brian M., et al. Protein instability following transport or storage on dry ice. Nature methods, 2013, 10.4: 278.
・SZENCZI, Arpad, et al. The effect of solvent environment on the conformation and stability of human polyclonal IgG in solution. Biologicals, 2006, 34.1: 5-14..
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年1月11日 フール