こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
趣味で研究を展開できる,純粋に好奇心を追求できる,そんな「自分だけの研究施設」を作るには,いくらぐらい必要なのでしょうか?
それを考えるために,日々の実験業務にかかる費用を考えています!
本記事では,遺伝子クローニングにかかる費用を計算*してみました.
あなたは,遺伝子クローニングに,どのくらい費用がかかると思いますか?
*ココで使用している数値は,定価・希望小売価格・オープン価格・参考小売価格のどれかです.私の職場が実際に支払っている価格ではありません.
サマリー・約1,000円が,PCRの1回のお値段です.
・約360円が,PCR産物の精製にかかる費用です.
・約7,100円が,クローニングとトランスフォーメーションにかかる費用です.
・約1,400円が,コロニーPCRの1回分のお値段です.
・約2,400円が,ミニプレップとシークエンスにかかる費用です.
遺伝子クローニングのプロトコール
私が行っている遺伝子クローニングのプロトコールは,以下通りです.
- RNA抽出キットの説明書に従ってRNAを抽出する
- RNA濃度を測定する
- cDNA合成キットの説明書に従ってcDNA合成を行う
- PCRキットの説明書に従ってPCRをかける
- 電気泳動で目的サイズの断片が増幅されているか確認する
- 増幅産物を切り出す
- 増幅産物を精製する
- 精製物を遺伝子クローニングキットでクローニングする
- クローニング産物を大腸菌にトランスフォーメーションする
- 大腸菌のコロニーが生えたことを確認する
- コロニーPCRでクローニング産物の有無を確認する
- クローニング産物をもった大腸菌を少量培養する
- ミニプレップ(プラスミド抽出)する
- シークエンスでクローニング産物の配列を確認する
「遺伝子クローニング」と一言で済むことですが,実際はかなりのステップがありますね!
色々なキットも使っているので,費用もそれなりにかかりそうですね…
遺伝子クローニングにかかる費用
上記プロトコールで,私が使用する材料とその費用*は以下の通りです.
RNA抽出およびcDNA合成に掛かる費用に関しては,前回の記事をご覧ください.
それでは本題です.
先ずは最後に1回のPCRにかかるお値段です↓
材料など | 販売価格(¥) | 1回あたりの費用(¥) |
PCRキット | 30,000 | 150 |
アガロース | 26,000 | 260 |
TAE | 26,500 | 53 |
ローディングバッファー | 12,000 | 1.2 |
サイズマーカー | 17,000 | 170 |
染色剤 | 26,000 | 130 |
小計 | 137,500 | 764.2 |
チップ・ピペット類 | 15,700 | 114.5 |
チューブ類 | 26,400 | 26.4 |
小計 | 42,100 | 140.85 |
合計 | 179,600 | 905 |
合計(税込) | 197,560 | 995.56 |
PCRの1回分のお値段は,約1,000円ということが分かりました!
続いて,切り出し精製にかかる費用です↓
材料など | 販売価格(¥) | 1回あたりの費用(¥) |
精製キット | 14,000 | 280 |
チューブ類 | 4,200 | 4.2 |
チップ・ピペット類 | 28,200 | 40.93 |
合計 | 46,400 | 325 |
合計(税込) | 51,040 | 357.6 |
PCR産物の精製にかかる費用は,約360円でした.
次に,クローニングとトランスフォーメーションに掛かるお値段です↓
材料など | 販売価格(¥) | 1回あたりの費用(¥) |
クローニングキット | 38,300 | 3,830 |
チューブ類 | 26,400 | 26.4 |
チップ・ピペット類 | 28,200 | 32.9 |
合計 | 92,900 | 3,889 |
合計(税込) | 102,190 | 4,278.2 |
材料など | 販売価格(¥) | 1回あたりの費用(¥) |
コンピテントセル | 21,000 | 2,100 |
LBプレート | 3,900 | 390 |
LB(粉末) | 9,000 | 0.72 |
チューブ類 | 4,200 | 4.2 |
チップ・ピペット類 | 28,200 | 32.9 |
コンラージ棒 | 21,250 | 21.25 |
合計 | 87,550 | 2,549.07 |
合計(税込) | 96,305 | 2,803.98 |
クローニング自体にかかる費用は約4,300円で,それを大腸菌にトランスフォーメーションするお値段は約2,800円でした.
今度は,コロニーPCRに掛かる費用を考えてみましょう↓
材料など | 販売価格(¥) | 1回あたりの費用(¥) |
PCRキット | 9,000 | 113 |
アガロース | 26,000 | 260 |
TAE | 26,500 | 53 |
ローディングバッファー | 12,000 | 1.2 |
サイズマーカー | 17,000 | 170 |
染色剤 | 26,000 | 130 |
LBプレート | 3,900 | 390 |
Nuclease free water | 62 | 0.0155 |
小計 | 120,462 | 1,117 |
チップ・ピペット類 | 15,700 | 114.5 |
チューブ類 | 26,400 | 26.4 |
つまようじ | 215 | 0.43 |
小計 | 42,315 | 141.28 |
合計 | 162,777 | 1,258 |
合計(税込) | 179,054.70 | 1,384.35 |
コロニーPCRにかかる費用は,約1,400円でした.
最後に,ミニプレップとシークエンスに掛かるお値段です↓
材料など | 販売価格(¥) | 1回あたりの費用(¥) |
抽出キット | 18,000 | 360 |
LB(粉末) | 9,000 | 0.72 |
蒸留水 | 62 | 10.85 |
抗生物質 | 3500 | 70 |
小計 | 30,562 | 442 |
チップ・ピペット類 | 15,700 | 114.5 |
チューブ類 | 48,700 | 93.2 |
つまようじ | 215 | 0.43 |
小計 | 64,615 | 208.08 |
合計 | 95,177 | 650 |
合計(税込) | 104,694.70 | 714.62 |
材料など | 販売価格(¥) | 1回あたりの費用(¥) |
シークエンスキット | 5,050,000 | 1,010 |
99.5%エタノール | 2,260 | 316.4 |
ホルムアミド | 7,000 | 5.6 |
0.5 M EDTA | 12,000 | 0.006 |
3 M 酢酸ナトリウム(pH5.2) | 8,000 | 0.16 |
Nuclease free water | 62 | 0.016 |
小計 | 5,079,322 | 1,332 |
チップ・ピペット類 | 15,700 | 114.5 |
チューブ類 | 26,400 | 26.4 |
つまようじ | 215 | 0.43 |
小計 | 42,315 | 141 |
合計 | 5,121,637 | 1,473 |
合計(税込) | 5,633,800.7 | 1,620.81 |
ミニプレップにかかる費用は約720円で,抽出したプラスミドのシークエンス費用は約1,620円でした.
以上より,遺伝子クローニングにかかる費用は,約14,600円*くらいだと推測できます(RNA抽出やcDNA合成にかかる費用も含みます).
結構なお値段ですね(笑).
これは1サンプル分ですから,標的遺伝子が増えてサンプル数が増えるほど,その費用も増えるってことですね…
*濃度測定に掛かる費用(機器代・チップ代など)やプライマー代は含んでいません.
遺伝子クローニングにかかる費用【1か月分】
次に遺伝子クローニングかかる費用を1か月あたりに換算します.
でも,遺伝子クローニングなんて頻繁にはやりません(笑).
だから仮のお話とします.
もし私が,1か月で4回の遺伝子クローニングを行ったら,どのくらいかかるのでしょうか?
単純計算で,14,600 × 4 ≒ 58,300円
ただ,サンプルとなるRNAは同一の物を使用すると考えた場合,お値段は少し安くなって約51,100円です.
考慮すべきその他の費用
遺伝子クローニングかかる費用を計算してきました.
ただ,材料だけそろえても実験はできません.
実験装置を整える必要があります.
今回の計算には,ピペッター・遠心機・泳動装置・シークエンス機器・パソコンなどの機器類の費用を考慮していません.
毎度のことですが,これらは,1回分という計算ができないので除外しています.
1度そろえれば長期使用可能なので,初期費用という計算になるのでしょう.
いつか,機器類に関して計算してみようと考えています.
ただ,シークエンス機器は1000万円越えだと聞いたことがあるので,あんまり考えたくありません(笑).
遺伝子クローニングかかる費用【まとめ】
実験にかかる費用として,遺伝子クローニングかかる費用を計算してみました.
1回のクローニング作業で15,000円も使っていましたね.
全て1回で上手くいった場合のお値段ですので,もしココにプライマーの複数設計やPCRの条件検討などを加わった場合は,もっと高くなりますね!
いままでは労力だけを考えてました.
でも今回,お金と労力をかけてクローニングしていることがわかりました.
お金と労力をかけてクローニングした遺伝子の機能が…
これだとモチベーションは下がり放しです(笑).
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年9月14日 フール