マイクロピペットの使い方【知っているようで意外と知らない事】

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マイクロピペットの使い方【知っているようで意外と知らない事】

 

マイクロピペットの二段階プッシュ

マイクロピペットって,どうして二段階のプッシュができるの?

本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.

 

こんにちは.

博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.

今回は,日常的によく使うマイクロピペットの話です.

マイクロピペットは,プッシュロッドを上下させて溶液を吸引したり吐出したりする器具です.

操作も簡単で,誰でも使える便利な器具ですよね.

でも,マイクロピペットの使い方は奥が深いですよ.

分野にもよりますが,マイクロピペットの使用方法には, 5 パターンもあるということはご存知でしょうか?

本記事では,知っているようで意外と知らないマイクロピペットの使い方をまとめました.

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サマリー・吸引・吐出ともに第 1 のストップで止める場合がある.

・吸引は第 1 のストップで止め,吐出は第 2 のストップまで押し込むことがある.

・吸引は第 2 のストップまで押し込み,吐出は第 1 のストップで止めることがある.

マイクロピペットの使い方【第 1 のストップと第 2 のストップ】

マイクロピペットのプッシュロッドは,二段階まで押し込むことができます.

ココでは,第 1 のストップ第 2 のストップと呼ぶことにします.

マイクロピペットの使い方

溶液の吸引パターン

みなさんは溶液を吸引するとき,プッシュロッドをどこまで押し込んでいますか?

一般的な溶液の吸引では,プッシュロッドを第 1 のストップまで押し込み,その状態でチップの先端を溶液に浸けます

そして,ゆっくり*1プッシュロッドを戻しながら,溶液を吸引します.

また,プッシュロッドを第 2 のストップまで押し込んで吸引する方法もあります.

この詳細は,使用方法の項で説明します.

*1急いでプッシュロッドを戻すと,チップ内で溶液が飛散してしまいます.吸引量が不正確になるだけでなく,マイクロピペット本体の汚染の原因にもなります.でも,フィルターチップを使っていれば汚染は防げます.

溶液の吐出パターン

続いて,溶液の吐出パターンです.

吸引が 2 通りですから,溶液の吐出パターンも 2 通りです.

① プッシュロッドの押し込みを第 1 のストップで止める.
② プッシュロッドを第 2 のストップまで押し下げる.

溶液の吐出パターン1

プッシュロッドをゆっくり*2第 1 のストップまで押し下げて溶液を出します.

チップの先端には少量の溶液が残りますがますが,無視します.

溶液の吐出パターン2

プッシュロッドをゆっくり*2第 1 のストップまで押し下げ,さらに第 2 のストップまでプッシュロッドを押し込みます.

チップ内の溶液を全て出すことができます.

*2急いでプッシュロッドを押し込むと,チップ内で溶液が残ることがあります.

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マイクロピペットの使用方法

吸引パターン 2 通りと吐出パターン 2 通りなので,組み合わせは全部で 4 通りですね.

しかし,実際に使うのは 3 通りです.

 3 通りで 5 つの使い方があります.

吸引・吐出ともに第 1 のストップで止める(その1)

最も基本的な使い方です.

特にアルコールなど揮発性の高い液体を扱う際に有効です.

① 溶液の吸引と吐出を数回繰り返します.
② 最後に溶液を吸引し,同じ容器の壁面にチップ先端を付けて,先端の外側に付着した液体を取り除きます.
③ 吐出先の容器の壁面にチップ先端を付けて溶液を吐出します(チップの先端には溶液が残ることがありますが,無視します).

吸引は第 1 のストップで止め,吐出は第 2 のストップまで押し込む

このテクニックは,フォワード法といいます.

こちらも基本的な使い方です.

同じ溶液を複数の容器に連続で分注するときに有効な方法です.

① 溶液を吸引します.
② 吐出先の容器の壁面にチップの先端を付けて,第 1 のストップまで静かに押し下げ、試料を分注します.
③ 約 1 秒後,第 2 のストップまで押し下げ,チップ内部に溶液が残らないようにします.

チップ内や容器の壁に気泡を生じることがあります.

また,溶液が泡立つこともあります.

吸引・吐出ともに第 1 のストップで止める(その2)

同じ溶液を複数の容器に連続で分注する方法の発展系です.

① 溶液を吸引します.
② チップの先端を吐出先の容器の上で静止させます.
③ 溶液を吐出します(チップの先端には溶液が残ることがありますが,無視します).

カラム抽出の洗浄液を連続分注する作業などで適用可能です.

1 本のチップで全ての容器に分注でき,且つ,操作は早いです.

しかし,吸引量および吐出量は不正確になります.

チップの先端を吐出先の壁面につけていないので,(目に見えないレベルで)溶液が周囲に飛散しています.

プラスミド溶液などで適用すると,クロスコンタミネーションの原因になります.

また,界面活性剤を含んだ溶液など泡が生じやすい溶液の場合は,チップ内に気泡が生じることがあります.

気泡が生じたら,チップを新しく変えましょう!

吸引は第 2 のストップまで,吐出は第 1 のストップで止める(その1)

このテクニックは,リバース法といいます.

界面活性剤など粘性の強い溶液を吸引するときに有効な方法です.

粘性がある液体を正確に吸引することは難しいですよね.

同じ第 1 のストップで吸引していても,採取者によって採れる量はまちまちです.

また粘度が非常に強い液体では,チップの先端が細すぎて吸引すら出来ないこともあります.

これらの問題をクリアするために,チップの先端を少し切り口を広くしてから吸引します.

お察しの通り,チップを切ったら,計量はより不正確になります.

だから,正確に吸引するのではなく,正確に吐出する必要があります.

プッシュロッドを第 2 のストップまで押し込んで吸引すると,当然,吸引量は増えます.

粘性のある液体をピペットで吸引する

しかし,吐出を第 1 のストップで止めることで,吐出量を正確にコントロールできます.

この理屈は,次の通りです.

粘性の液体は,チップ内壁に液体が付着しやすい.

「付着する=チップ内に残る」なので,目的量を確保できない.

第 2 のストップまで押し込んで「余分に吸引」することで,チップ内壁に粘性の液体が付着することによるロスを補う.

また,空気が排出されにくくなるため,泡立ちも起こりにくい.

粘性のある液体をピペットで吐出する

チップ先端にかなりの量の溶液が残ります.

勿体ないですが,廃棄してください.

吸引は第 2 のストップまで,吐出は第 1 のストップで止める(その2)

このテクニックは,リピート法といいます.

同一容量で繰り返し分注する作業がある実験系で役に立つ方法です.

私は,qPCR のサンプルをマイクロプレートに分注するときに使っています.

① プッシュロッドを第 2 のストップまで押し込んで溶液を吸引します.
② 吐出先の容器の壁面にチップの先端を付けて,第 1 のストップまで静かに押し下げて設定量の試料を分注します.
③ チップ内部に残った溶液は分注しない.
④ その状態でプッシュロッドを引き上げて再度溶液を吸引します.
⑤ ②-④を繰り返すことで同一容量を繰り返し分注できます.
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その他の注意事項

最後に,重要だけれど意外と知られていない注意事項をお伝えします.

① 容積をダイヤルで設定する時,目的の値より大きい値まで回してから,目的の値に合わせる.
② 使用後は,設定容量を最大値まで戻す.
③ 揮発性の強酸溶液を吸ってはダメ.
④ プレリンスは必須です.

容積を設定するときの注意点

目盛りが動かない状態でもダイヤルが動く幅(いわゆる”遊び幅”)があります.

そして,目盛りの大きい方に回した位置から小さい方に向かってダイヤルを回して目盛りを合わせたときに,設定値がその値に合うように作られています.

だから,容量設定を増加させる場合,希望する値からさらに 1/2 ~ 1/3 くらい回転させて希望する値に戻しましょう!

ちなみに,これはマイクロピペットに特異的な仕組みではありません.

例えば,トースターのゼンマイ式タイマーのダイヤルも同じです.

「 5 分未満に設定する時は, 5 分以上まで回してから目的の時間に合わせてください.」

と説明書に書いてるのを見たことはありませんか?

使用後の取り扱い

マイクロピペットの精度を維持し,その寿命を延ばしたいのであれば,使用後は目盛を最大値に戻すことをオススメします.

本体内部のスプリングに負荷がかかった状態で放置するのは良くありません.

とはいえ, 2-3 日程度の放置なら問題はありませんよ.

長期休暇に入る前書類仕事が多くなり実験をしなくなる前には,目盛を最大値に戻すということを忘れずに!

揮発性の強酸溶液の取り扱い

揮発性が高い酸性溶液(例:36%の塩酸溶液など)は,ピペット内部を腐食する原因になります.

本体が劣化するとマイクロピペットの精度も落ちる可能性があるため,揮発性の強酸溶液は吸わないでください.

チップのプレリンス

BSA などタンパク質を含む溶液を吸引すると,チップ内壁に液体が残ることがあります.

お察しの通り,これでは分注量が正確ではありません.

だから,チップ内壁に液体が残らないように工夫する必要があります.

操作自体は簡単で,プレリンス(液体を 1 度吸引して,容器に戻す)をするだけです.

プレリンスの有無だけで,分注量の正確さが変わります.

揮発性のある液体

揮発性のある液体を吸う場合は別の工夫が必要です.

なぜなら,揮発性の液体は吸った直後から液体が気化して体積は大きくなるので,チップ先端から液体が漏れるからです.

そこで,液体が気化しにくい環境を作ります.

液体を吸引する前に,液体容器の上方で吸引・吐出を数回繰り返します.

私はこれを「エアーピペッティング」と呼んでいます(笑).

エアーピペッティングをすると,チップ内部が気化した液体で飽和します.

その状態で溶液を吸引すると液体が気化しにくくなるので,チップ先端から液体が漏れるのを防ぐことができますよ!

これは「気体のプレリンス」とも言えるのかな(笑).

 

以上,知っているようで意外と知らないマイクロピペットの使い方でした!

最後までお付き合いいただきありがとうございました.

次回もよろしくお願いいたします.

2020年2月2日 フール