
ISOとかGLPって何ですか?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.

こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
皆さんは,ISO(アイエスオー)規格をご存知でしょうか?
日本工業規格(Japanese Industrial Standards,[JIS])・GxP規制・HACCPなどはいかがでしょうか?
これらは品質管理の背景にあるルールみたいなものです.

もちろん,実験室に限定した内容だけではありません.
しかし,実験室や実験手技に関連する内容もたくさんありますし,「研究室の運営にも応用できるのでは?」と思うことがたくさんあります.
そこで,この記事では,品質管理基準【実験室編】について簡単にまとめました.
サマリー・ISOは,世界標準の価値観を共有するための規格です.
・JISは,日本の規格です.
・GxPは,主に製薬業界で用いられる規格です.
・HACCPは,食品業界で用いられる規格です.
ISO(アイエスオー)
「ISO(アイエスオー)」は,国際標準化機構(International organization for standardization,[ISO])が作成する国際規格を指します.
「国際標準化」という文字通り,世界各地または各社会においてバラバラだった認識や作業の違いを「世界共通の認識」または「世界共通の作業」として統一し,それを保証する機関です.
各国・各社会は,この国際規格に合わせた製品開発や組織運営をすることで,同じ価値観を共有することができます.

これは,実験や実験室に特化したものではありません.
しかし,実験室で使う製品には関連するものがあります.
例えば,遠心機などの機器に「××(会社名)は,ISO〇〇を取得しています.」というシールが貼られているのを見たことはありませんか?
これは,その機器またはそれを製造・販売する会社が,「世界標準を採用しています」という意味です.
ISOには色々な規格があるので,どういった規格の「世界標準」を採用しているかは知らべてみないと分かりません.
以下に,実験・研究に関連するISO・IEC*を並べてみました.
① ISO 9000シリーズ ② ISO 10933 ③ ISO 15189 ④ ISO/IEC 17020 ⑤ ISO/IEC 17025 ⑥ ISO 19011
*ISOは電気産業および電子技術産業を除く全産業分野に関する国際規格の作成を行っています.電気産業および電子技術産業に関しては,国際電気標準会議(International electrotechnical commission,[IEC])が国際規格の作成を行っています.なぜ,電気産業および電子技術産業だけが別なのかは分かりません.
マネジメントシステムに関する規格もある

ここで挙げた各規格を説明できるほど,まだ私も勉強しきれてません(笑).
でも,「検査の種類に応じた技術能力」に関する規格だけでなく「品質マネジメントシステム」に関する規格もあるのは面白いと思いました.
実験室・研究室の運営は,研究業務ではなくマネジメント業務です.
そして,マネジメント能力は,恩師や先輩のやり方を学生として体験しながら暗黙的に学ぶだけでは身に付かないと思います(少なくとも私には無理でした 笑).
近い将来,ISO9000シリーズを取得した実験室・研究室が大学にも出てくるかもしれませんね!
日本工業規格(JIS)
日本工業規格(JIS)は,産業標準化法(旧:工業標準化法)に基づいて制定される国家規格です.
JISが国内の工業全般を標準化することで,経済・社会活動の利便性の確保,生産の効率化,公正性の確保,技術進歩の促進,安全や健康の保持,環境の保全などが達成されると期待されています.

実験(実験室)関連のJISは,JIS KまたはJIS Zがあります.
JIS Kは,化学分析全般について,用語から分析方法までの標準化がされています.
JIS Zでは,測定方法・有効数字の考え方・誤差などデータの取り扱い方法についての標準化がされています.

弊ブログの記事も,JIS Zを参考にしながら執筆したものがあります!


GxP規制
医薬品等の製品に対して,その安全性や信頼性を確保するために,製品の開発から製造までの各段階を対象に制定された基準の総称です.
GxPとは,”Good x Practice” を略したものです.
“x” には,臨床試験(Clinical)を意味する “C” や非臨床試験(Laboratory)を意味する “L” を入れ,GCPやGLPという名称となります.
GxPには,以下のようなものがあります.
① GMP - Manufacturing:医薬品・医薬部外品の製造管理・品質管理の基準 ② GQP - Quality:医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器の品質管理の基準 ③ GVP - Vigilance:医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器の製造販売後安全管理の基準 ④ GLP - Laboratory:医薬品・医療機器の非臨床試験の実施基準 ⑤ GCP - Clinical:医薬品・医療機器の臨床試験の実施基準
「医薬品・医薬部外品の」とあるように,特に製薬業界にて用いられることが多いですね.
HACCP
HACCPは,”Hazard analysis and critical control point” の略で,「ハサップ」もしくは「ハセップ」と呼ばれています.
HACCPは,1960年代にアメリカで宇宙食の安全性を確保するために開発された食品の衛生管理手法です.
食品の安全性の確認は,最終製品の抜取り検査(微生物の培養検査など)がメインでした.
しかし,最終製品の検査だけでは,危険な食品が市場に出て食中毒を引き起こす可能性を排除することができませんでした.
「宇宙食の安全性を確保するために開発された食品の衛生管理手法」と書きましたが,もし宇宙で食中毒が起きたらどうしますか?

地上のように,すぐに病院に行くことはできませんよね!
だから,食中毒を引き起こす可能性を限りなく少なくするための衛生管理手法が求められたのです.
HACCPでは,原料の入荷から製造・出荷までのすべての工程において,あらかじめ危害を予測し,その危害を防止(予防・消滅・許容レベルまでの減少)するための “Critical control point” (重要管理点)を特定します.
そのポイントを継続的に監視・記録(モニタリング)し,異常が認められたらすぐに対策を取り解決するシステムです.
早期に異常を発見することで不良製品の出荷を未然に防ぐことができますね!
また,原料や製品の移動過程の記録や管理といったトレーサビリティシステムも導入されています.

原因究明ができる状態にしてあることも,HACCPの魅力の1つです.
現在,このHACCPは世界中の食品企業が採用しています.
食品安全の世界標準規格であるISO 22000は,このHACCPがベースとなっています.
LabCCP(ラボセップ)
この考え方は,食品安全に限らず,実験室にも応用できるのではないでしょうか?
試薬やキットの購入から実験結果の報告までのすべての工程において,あらかじめ危害を予測します.
例えば,試薬の管理の仕方・廃棄の仕方・遺伝子組換え生物の扱い方・報告書の書き方・グラフの作り方などにおける危害(失敗)です.
それを防止するための重要管理点を特定したLaboratory HACCP(LabCCP:ラボセップって呼びましょう!)みたいなものがあれば,実験室・研究室の運営も変わるかもしれませんね!

日本の未来を担うPI候補の方,誰でも良いのでやってくれませんか?(笑)
以上,品質管理基準【実験室編】でした.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年5月31日 フール