実験試薬やサンプルをこぼしてしまったら,具体的にはどうすれば良いの?
本記事は,このような疑問にお答えします.
本記事の内容・実験室で使う試薬やサンプルを過って散布してしまった時に,実験者がとるべき対応をまとめました.
こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
実験室は,危険と常に隣り合わせの環境です.
危険な試薬を使うこともあれば,感染性物質や放射性物質を扱う場合もあるでしょう.
不注意からそれらをこぼしてしまったら,実験者はどのような対応をとるべきなのでしょうか?
今回は,「もし実験で使う試薬やサンプルをこぼしてしまったらどうすれば良いのか?」についてまとめました*1.
*1本記事は,焦らずに落ち着いて対応できる訓練になればと思って作成しています.決して,独断または内密に処理するためではないことをご理解ください.
サマリー・汚染物は何かを特定する.
・実験室が汚染されただけか,実験者とその衣服も汚染されたのか確認する.
・分からない場合は,先生や上司の指示を仰ぐ.
薬品をこぼした場合
化学薬品をこぼした場合,衣服を汚染した場合と周辺を汚染した場合で対応が異なります.
衣服を汚染した場合
- 試薬が染み込み,皮膚に接する前に,速やかに脱衣します*2.
- バケツに多量の水道水を汲み,その中で洗います.
- 試薬が酸性の場合は希アンモニア水で,塩基性の場合は希酢酸水で中和します.
- 指導教官や上司に顛末を報告します.
- 水洗後,クリーニングに出します.
*2皮膚に付着した・眼に入った場合は,緊急シャワーや洗眼器を使用してください.
周辺環境を汚染した場合
- こぼした量が少量の場合,キムタオル等で試薬を拭き取ります(必ず手袋を着用してください).
- 多量の水で洗い,雑巾等で拭き取ります.
- こぼした量が多量の場合,先ず指導教官や上司に報告して指示を仰いでください.
サンプル(培養液など)をこぼした場合
培養液などのサンプルをこぼした場合,衣服を汚染した場合と周辺を汚染した場合で対応が異なります.
衣服を汚染した場合
- 液体が染み込み,皮膚に接する前に,速やかに脱衣します*2.
- 0.5%次亜塩素酸ソーダ液*3で拭き,5-10分後,水道水ですすぎます.
- 指導教官や上司に顛末を報告します.
- 白衣をクリーニング等のために外へ持ち出す場合は,滅菌処理が必要になります.オートクレーブ滅菌または紫外線暴露処理を行いましょう.
*3市販されている5-6%の塩素系漂白剤を使用する場合,500 mLの水(ペットボトル1本分)に,5 mL(ペットボトルのキャップ1杯)の塩素系漂白剤を入れます.ただし,調理器具・ドアノブ等の消毒で使用する濃度(0.02%)よりも濃いので,取り扱いには注意が必要です.
周辺環境を汚染した場合
- キムタオル等で拭き取ります(必ず手袋を着用してください)*4.
- 0.5%次亜塩素酸ソーダ液*3もしくは70%アルコールなどの消毒液で不活化します.
- 指導教官や上司に顛末を報告します.
*4菌液やウイルス液など感染性の培養液をこぼした時は,直ちに0.5%次亜塩素酸ソーダ液で濡れた雑巾等で拭き取ってください.
放射性物質(RI試薬)をこぼした場合
RI試薬をこぼした場合,衣服を汚染した場合と周辺を汚染した場合で対応が異なります.
衣服を汚染した場合
- 試薬が染み込み,皮膚に接する前に,速やかに脱衣します*2.
- 測定器を用いてRI汚染の有無を確認します.
- 汚染が認められなければ一般のクリーニングに出して大丈夫です.
- 汚染が確認された場合,衣服やスリッパなどは、ビニール袋に入れて減衰を待つもしくは専用の洗濯機で洗濯します(半減期が長いRI試薬の場合,廃棄物として処理することも検討してください).
- 指導教官や上司に顛末を報告します.
周辺環境を汚染した場合
- キムタオル等で拭き取り,水および中性洗剤で拭き取る作業を繰り返す(必ず手袋を着用してください).
- 床は,洗剤が残留すると転倒事故の原因になるので,キレート剤または除染剤などで除染してください.
- 除染後はサーベイメーターで汚染の有無を確認してください.
- 指導教官や上司に顛末を報告します.
廃液の扱いにも注意が必要
衣類や周辺からの汚染除去に気を取られるあまり,洗浄で使用した水を過った方法で処理してしまう危険もあります.
洗浄で使用した水の処理は,原則として実験廃液の処理方法に従ってください.
間違っても水道に直接垂れ流すことはないようにしましょう!
以上,実験室の汚染物の除去手順でした.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年3月20日 フール