実験室で行う滅菌方法の使い分け【超まとめ】(3)

滅菌方法
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実験室で行う滅菌方法の使い分け【超まとめ】(3)

 

滅菌済

色々な「〇〇滅菌済」ってラベルを見るけど,何が違うの?

本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.

 

こんにちは.

博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.

前々回前回に続いて,滅菌についてまとめています.

本記事では,放射線滅菌,電子線滅菌,紫外線滅菌,ガス滅菌を説明します.

実験室内ではあまり馴染みが無いと思った方,明日,注射器などの箱をよく観察してください!

電子線滅菌済」とか「ガンマ線滅菌済」と書かれていると思いますよ.

だから,知っておいて損はないと思います!

 

サマリー・電磁放射線は透過性が高いので,複雑な器具でも分解せずに滅菌できる.

・空中に浮遊した微生物の滅菌には,紫外線滅菌を用いる.

放射線滅菌

電磁放射線のγ線(コバルト60 [60Co]が一般的)を25-35 kGyで数時間照射する方法です.

γ線が物質に照射されると二次的に電子が発生します.

その電子が微生物のDNAやタンパク質の構造を破壊することで滅菌します.

電磁放射線は透過性が高いので,複雑な構造した手術器具なども物理的な破壊をすることなく滅菌を達成できます.

また,残留性もありません.

滅菌対象

注射器・カテーテルなどの手術器具,手術糸,手術用手袋,無菌動物用の飼料など

メリット

[1] 壊れやすい物の滅菌も可能です.

[2] 一度に大量の処理が可能です.

デメリット

[1] 専門家の配置・特殊な装置とその安全管理が必要です.

[2] 大量の放射性元素が必要なので,廃棄物処理についてもセットで考える必要があります.

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電子線滅菌

加速器で直接電子を発生させ、電子そのものを照射する方法です.

「電子そのもの」なので直接的に微生物のDNAやタンパク質の構造を破壊することできます.

だから処理時間も短くできます(数秒から数分で完了します).

電子線も放射線の1つです.

ただ,電磁放射線は光の仲間なのに対して,電子線は粒子の仲間なので分けました.

滅菌対象

医療機器,医薬品,医薬品や化粧品の包装容器など

メリット

[1] γ線と同じ滅菌効果を短時間で達成できる.

[2] 放射性元素を必要としない.

デメリット

[1] 透過能力はγ線に劣る.

[2] 専門家の配置・特殊な装置とその安全管理が必要です.

紫外線滅菌

250-280 nmの紫外線*1を照射する方法です.

DNA中のチミン塩基の重合変性を誘導DNA複製や転写を阻止することで滅菌を達成します.

DNAの修復機構の一つに光活性化があるため,紫外線滅菌は可視光を避けて行います

DNAを持たないタンパク質には効果がありませんので,プリオンの不活化はできません

滅菌条件は,照射照度(W/m2)と照射時間(秒 [s])の積で決まります.

放射照度は,紫外線灯のサイズ・照射器具の形・対象物との距離で変化します.

よって,照射時間を2倍にすれば,照射照度が1/2になっても効果は同じです.

*1「紫外線は,体内でビタミンD合成を促進する効果があります.」という内容を聞いたことがあると思います.滅菌とビタミンD合成の両方が起こる?と混乱するかもしれませんが,それは違います.滅菌で使用する波長は250-280 nmですが,ビタミンDの合成を促進する波長は280-320 nmです.

滅菌対象

広い空間(手術室,無菌室,実験室など)

メリット

[1] 簡単です.

[2] 空中に浮遊した微生物の滅菌が可能です.

デメリット

[1] 直接見たり浴びたりすると目や皮膚に障害がでます.

[2] 照射した部分(物質の表面)しか滅菌できません

ガス滅菌

密閉容器や空間に化学ガスを充満させて,対象物に浸透させることで滅菌する方法です.

一般的な使用ガスは,ホルマリンガス・エチレンオキサイドガス・過酸化水素ガスです.

ホルマリンガス滅菌

スルフヒドリル基(SH基)・アミノ基(NH2基)をアルキル化することで微生物を不活化し,滅菌を達成します.

過マンガン酸カリウム末にホルマリンを加えてガスを発生させ*2,30℃以上・湿度75%以下の条件で3時間以上の処理が必要です.

対象物に残留はしません.

*2ホルマリンの沸点は60℃なので,加熱するだけで気化させることができますが,火災事故の危険があるため通常は加熱しません.

滅菌対象

広い空間(実験室,病室など),動物飼育ケージ,安全キャビネットなど

メリット

[1] 安価です.

[2] 特別な装置は要りません.

デメリット

[1] 刺激臭は強く毒性も強いので,処理中に目や呼吸器粘膜が障害される危険があります.

エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌

カルボキシル基(COOH),スルフヒドリル基(SH基)・アミノ基(NH2基),ヒドロキシル基(OH)をアルキル化することで微生物を不活化し,滅菌を達成します.

対象物を入れたプラスティックバックに EOG を封入し,密閉します.

それを40℃で4時間以上静置すれば滅菌完了です.

残留性があるため,バックを開封後はエアレーターなどで十分に換気する必要があります

滅菌対象

プラスティック製品(遠心管やマイクロプレートなど),布製品など

メリット

[1] 対象物を腐食することが無い.

[2] 全ての微生物に有効です(浸透効率が高いので芽胞も滅菌できる).

デメリット

[1] EOGを封入する特殊な装置と換気装置が必要です.

[2] 時間がかかる.

[3] 引火性および爆発性がある(通常は炭酸ガスとの混合ガスを使用します).

[4] 発がん性が指摘されているので,法律(労働安全衛生法)に基づく措置を講ずべき物質の「第2種物質」となっています.

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過酸化水素ガスプラズマ滅菌(低温プラズマ滅菌,ステラッド滅菌)

高周波マイクロ波が,過酸化水素を電離化(プラズマ化)することで生じるヒドロキシルラジカル(・OH)を使用する滅菌法です.

45℃で2時間程度の処理で滅菌を達成します.

滅菌対象

一部の医療器具(水分や空気を含まない物)

メリット

[1] ホルマリンガスや EOG のような環境負荷がほとんどありません.

デメリット

[1] 高価な特殊な装置が必要です.

[2] ヒドロキシルラジカルの浸透性は,あまりよくありません.

[3] 過酸化水素を吸着するセルロースを含んでいる材質からなる製品(リネン類やガーゼ類など)は滅菌できません.

 

今回も盛り沢山でしたね(笑)

今回は,知っていたら便利な知識という位置づけです.

「実験室の当たり前」という滅菌法でもありませんが,つい流れで作成してしまいました.

参考にしていただければ幸いです.

最後までお付き合いいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願いいたします.

2019年11月19日 フール

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