実験室で行う滅菌方法の使い分け【超まとめ】(2)

滅菌方法
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実験室で行う滅菌方法の使い分け【超まとめ】(2)

 

滅菌方法の使い分け

滅菌方法って色々あるけど,使い分けってあるのかな?

本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.

 

こんにちは.

博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.

前回に引き続き,滅菌についてまとめています.

本記事では,火炎滅菌,乾熱滅菌,高圧蒸気滅菌,濾過滅菌をまとめています.

実験室で滅菌処理は,この4つのどれかだと思いますよ.

各々の原理と特徴を知り,滅菌方法を使い分けられるようになりましょう!

 

サマリー・乾熱滅菌は,細菌の内毒素やRNAaseを失活させることができる.

・オートクレーブ滅菌では,細菌の内毒素やRNAaseを失活しない.

・濾過滅菌では,ウイルスを除去することはできない.

火炎滅菌

対象物を直接火炎にさらし,焼却することで滅菌する方法です.

フレーミング(flaming)とも言います.

無菌操作をするときに,試験管や培養瓶(容器)などの口の部分を火炎にさらすというやり方をします.

また細菌培養で使う白金耳を焼却するのも火炎滅菌です.

アルコールランプガスバーナーの炎を使用します.

滅菌対象

上で説明した通りです.

メリット

[1] 簡単です.

[2] 安価です.

[3] 確実な方法です.

デメリット

[1] 火災や火傷の危険があります(消毒用エタノールを火炎の近くに置かないこと).

[2] 滅菌対象物を損傷します.

乾熱滅菌

対象物を乾熱滅菌装置の中に入れ,一定温度を一定時間以上保持する方法です.

温度と時間の目安は以下の通りです.

[1] 140℃・3-5時間

[2] 160℃・2-4時間

[3] 180℃・1時間

[4] 200℃・30分間以上

この条件で,ほとんどの微生物は死滅します*1

また,細菌の内毒素(LPS)RNAaseを失活させることができます(この目的の場合は,250℃・1時間以上の処理を推奨).

*1一部の芽胞形成菌は,300℃・30分間以上で処理しても生残するので注意が必要です.

滅菌対象

ガラス製のピペット・コルベン・試験管,陶磁器(セラミック),金属製品,シリコンゴム製品

メリット

[1] 実験室内では,ほぼ確実な滅菌方法です.

[2] LPSやRNAaseを失活させることができます.

デメリット

[1] 滅菌完了まで時間がかかります.

[2] 合成樹脂製品(プラスチックなど)や酸化されやすい素材には適用できません.

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高圧蒸気滅菌(オートクレーブ滅菌)

内部を高温高圧に維持できる圧力釜のような装置(オートクレーブ)を用いて,飽和水蒸気による加熱を行う方法です.

気圧を常圧(1気圧)から2気圧に上げて水の沸点を上昇させることで,水蒸気の温度を121℃にします.

対象物をこの状態で15分間以上保持することで,滅菌を達成します*2

ただし,LPSやRNAaseを失活させることはできません

また,プリオンを不活化する場合は,134℃(3気圧)・30分間以上の処理が必要です.

*2この条件で変性する試薬などは,条件を115℃(1.7気圧)・30分間以上に変更することがあります.

滅菌対象

水溶液(緩衝液など),培地の基礎成分(ペプトン,肉汁,寒天など),医療器具,ゴム製品,ポリプロピレン製品など

メリット

[1] ほぼ確実な滅菌方法です.

[2] 水分を保持したまま滅菌ができます.

デメリット

[1] 易熱性の成分(タンパク質,ビタミン,抗生物質など)を含む物には適用できません.

[2] カルシウムイオンやマグネシウムイオンを含む物(PBS(+)など)には適用できません.

PBS(+)については,以下の記事をご覧ください.

リン酸緩衝液のお話【PB?それともPBS?】
リン酸緩衝系のバッファーのPBとPBSを区別していますか?二つは似ているけど大きく異なる点があります.それは浸透圧です.”S” の有無で用途は大きく変わりますよ~.

[3] 揮発性物質(炭酸水素ナトリウム 、酢酸、アンモニアなど)を含む物には適用できません.

[4] LPSやRNAaseを不活化目的でも使用できません.

濾過滅菌

液体や気体を微細な孔が開いた濾過膜(フィルター)に通すことで,孔径以上の微生物*3を除去する方法です.

除去する対象が「あらゆる微生物」ではない*3ので,厳密には「滅菌」ではありません.

*3「巨大ウイルス」も存在しますが,一般にウイルスの大きさは 20 ~ 400 nmくらいです.よって,ウイルスはフィルターを通過します

液体の滅菌

タンパク質やビタミンなど易熱性の成分を含む血清や液体培地の滅菌方法です.

孔径の違いによって除去対象が異なります.

・一般的な細菌や真菌を除去したい:450 nm(0.45 μm)のフィルター
・緑膿菌の混入が疑われるサンプル:220 nm(0.22 μm)のフィルター
・マイコプラズマを除去したい:100 nm(0.10 μm)のフィルター

気体の滅菌

大きさが300 nm(0.3 μm)の粒子を99.97%補足できるHEPA*4フィルターや100 nm(0.1 μm)の粒子を99.999%補足できるULPA*5フィルターを使用します.

手術室や無菌室で無菌の空気を得るときに使います.

*4High efficiency particulate airの略です.

*5Ultra low penetration airの略です.

滅菌対象

上で説明した通りです.

メリット

[1] 易熱性の成分を含む液体の滅菌ができます.

[2] 気体の滅菌ができます.

デメリット

[1] フィルターの目詰まりが起きると,フィルターの交換が必要なので非経済的です.

[2] ウイルスは,除去する対象としていません.

 

今回はこの辺りで終わりしましょう.

情報が多すぎたでしょうか(笑).

次回は,放射線滅菌,紫外線滅菌,ガス滅菌を説明します.

最後までお付き合いいただきありがとうございました.

次回もよろしくお願いします.

2019年11月18日 フール

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