
「実験で使えそうな抗体を探しておいて」って先生に言われたんだけど…どうやって探したらイイの?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.

こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
ウェスタンブロット,ELISA,IFA,IHC,FCMなどなど抗体を使う実験系はたくさんあります.
皆さんは,実験で使う抗体をどのように探していますか?

最近,研究室・会社にある抗体しか使ったことがないという人が結構いることに気が付きました!
そこで本記事では,実験で使う抗体の探し方・選び方をまとめました.
後半では,抗体を選ぶときに確認することも触れています.
本記事を読み終えると,あなたの実験に最適な抗体を探すことが出来るようになりますよ!
サマリー・実験で使う抗体は,コスモ・バイオの「抗体百科」で探しましょう!
・抗体を選ぶときは,抗体のクラス・免疫動物・クローナリティなどを確認しましょう!
コスモ・バイオの「抗体百科」
コスモ・バイオの「抗体百科」は,国内最大級の抗体検索サイトです.
私はココで抗体を検索することが多いです.
これから「抗体百科」を使った抗体の検索方法をまとめていきます!

先ずは「抗体百科」にアクセスしましょう!
検索対象
今回の検索対象(欲しい抗体)は,以下の通りです.
① ターゲット:ERK1/2 ② 二次抗体:抗ウサギIgG ③ 実験内容:ウェスタンブロット(WB),IHC
抗体百貨で検索
- ターゲットに “ERK1/2“ と入れます.
- 二次抗体は抗ウサギIgGなので,免疫動物は “Rabbit” にします.
- 実験内容はWBとIHCなので,適用は “WB” と “IHC” を選びます.
入力したら「検索」をクリックします.
検索結果は以下のようになりました.

検索結果が219件…どれを選べばイイの?
抗体の絞り込み
先ずは,データシートおよび画像がある商品を選びましょう!
データシートには,抗体の特徴やその抗体を使った実験プロトコールなどが載っています.
なので,データシートがある商品を優先しましょう!

なお,画像は必須ではありません.
しかし,画像があれば,あなたの実験結果と比較することができます.
なので,画像がある商品を選ぶことをオススメします!
その結果は,以下の通りです.

だいぶ減ったね!

でも,まだ49件もあるよ!
サンプルは?
続いて,「絞込みカラム」を使ってさらに絞り込みます.

先ずは「交差性」を確認しましょう!

今回のサンプルの由来は何ですか?

マウスです!

では,マウスに☑をいれましょう!
とりあえず,2件減りましたね!
余談ですが,今回の場合,47件の全てがヒトと交差するので,この抗体はヒト由来のサンプルにも使えますね!
その他の絞り込み方法
その他の絞り込み方法としては,「精製」や「翻訳後修飾」があります!
今回のターゲットであるERK1/2は,翻訳後修飾として「リン酸化」もあります.
もし,「リン酸化」と「非リン酸化」を区別したい場合にはココも確認しましょう!
また,値段や在庫状況で並べ替えをすることもできますよ!

絞込みカラムとソートを駆使して,目的に合う抗体を選びましょう!
抗体を選ぶときに確認することは?
ここでは,私が抗体を選ぶときに確認していることをまとめました!
私がチェックしている内容は,以下の通りです.
① 抗原名 ② 免疫動物 ③ アイソタイプ ④ クローナリティ ⑤ 交差性 ⑥ 適用 ⑦ 標識 ⑧ 論文での使用状況 ⑨ 保証
抗原名(標的分子名)
“Anti-○○” の “○○” が抗原名(標的分子名)です.
抗体選びで最も大切なところですね!
似たような名前で全然違う分子もあれば,異なる名前だけど同じ分子ってこともあります.
抗体は非常に高価です.
間違って買わないように,あなたが求めている抗体なのかどうかをしっかりと確認しましょう!
免疫動物
ブロッキングに使用する素材や二次抗体を選ぶときに重要な情報です.
免疫動物には,マウス・ラット・ハムスター・モルモット・ウサギ・ヤギ・ヒツジ・ロバ・ニワトリなどがいます.
アイソタイプ
アイソタイプも二次抗体を選ぶときに重要な情報です.
また,アイソタイプコントロール*を置く実験系でも重要になりますね!
抗体のアイソタイプについては,以下の記事でまとめています.

*ネガティブコントロールには,アイソタイプが同じだけど目的分子を認識しない抗体(アイソタイプコントロール)を使用するのが基本です!
F(ab)化した抗体もある
脾臓・リンパ節・末梢血由来のサンプルは,Fc 受容体を持つ細胞(MΦ,リンパ球,NK細胞)が多量に存在します.
普通の1次または2次抗体を使用すると,抗体の Fc 部分がFc 受容体に結合してしまい,非特異な反応の原因となります!
このような場合は,F(ab)またはF(abʻ)2フラグメント抗体を選びましょう!
クローナリティ
モノクローナル抗体 (monoclonal antibody [mAb])なのか,それともポリクローナル抗体(polyclonal antibody [pAb])なのか?
これは抗体の感度や特異度に関わる重要な情報です!
以下に,mAbとpAbの違いをまとめました.
mAb | |
動物種 | マウス・ラット・ウサギ・ニワトリ・ヒト |
由来 | 培養細胞(ハイブリドーマ) |
アイソタイプ | 1種類のみ |
エピトープ | 単一のエピトープに反応する |
特異性 | pAbよりも特異性は高い |
再現性 | ハイブリドーマが維持されている限り,同じ抗体が得られる |
その他1 | 認識エピトープは1つ → 固定等で抗原が変性すると抗体の結合力が低下 |
その他2 | 標識加工やFc領域の除去処理などに弱い |
注意点
mAbの購入では,以下の点も確認しましょう!
クローン
同じ抗原分子に対するモノクローナル抗体でもクローンが異なる場合があります.
クローンが異なる場合,同じ抗原分子の異なるエピトープを認識します.
また,クローンによって適用が異なる場合もあります.
精製方法
精製の有無も確認しましょう!
中には培養上清そのままの商品もあります.
精製抗体の方が,非精製抗体よりも非特異な反応が少ないと考えられています.
一般的な抗体の精製方法は,以下の3点です.
・抗原アフィニティクロマトグラフィー ・イオン交換クロマトグラフィー ・Protein A/Gを用いた精製
続いて,pAbの特徴です.
pAb | |
動物種 | マウス・ラット・モルモット・ウサギ・ヤギ・ヒツジ・ニワトリなど |
由来 | 免疫動物の血清 |
アイソタイプ | 2種類以上の抗体が混在している |
エピトープ | 複数のエピトープに反応する |
特異性 | 複数のエピトープを認識する抗体が混在するので,特異性は低い |
再現性 | 由来が免疫動物の血清なので,ロット差が生じる |
その他1 | 2種類以上の抗体が混在 → 固定等で変性した抗原でも結合できる |
その他2 | 標識加工やFc領域の除去処理などに強い |
注意点
pAbの購入では,以下の点も確認しましょう!
精製方法
mAb同様に,精製の有無は重要です.
精製抗体の方が,非精製抗体よりも非特異な反応が少ないと考えられているので.
中には血清そのままの商品もあります.
- IgGなのか?それともIgMなのか?
- IgGサブクラスまで精製しているのか?
- 抗原アフィニティクロマトグラフィーのよる精製はされているのか?
交差性
例えば,マウス由来の抗原Aで免疫した場合,得られた抗体がマウスの抗原Aに結合できるのは当たり前です.
得られた抗体がマウス以外の動物の抗原Aに結合できる場合があります.
この抗体を「交差性がある」抗体と呼びます.
だから,実験で用いる動物種に交差性があるかを確認しましょう!.
1種類の動物種にだけ反応する抗体なのか?
それとも複数種と反応する交差性のある抗体なのか?
実験系によっては,非常に重要な情報になります.
野生動物などは対象外
ただ,メーカー側も全部を調べているわけではありません.
昔,野生動物のサンプルを使ったELISAやWBをやりました.
当然,メーカーも野生動物の抗原に交差するかまでは確認しません(笑).
こういう場合は,データシートとにらめっこしていても分からないので,試すしかありません.
適用
その抗体は,あなたの目的の実験系に使えるのでしょうか?

高いお金を払って購入したはいいけど,結局使えませんでした.
ってことにならないように必ずチェックしましょう!
標識
最近では,1次抗体が直接標識されている商品も多いですね!
1次抗体・2次抗体のどちらを購入するにしても,あなたが計画している実験系に適した標識(酵素・蛍光標識など)を選びましょう!
以下に,主な標識と適用をまとめました!
標識 | 適用 |
酵素標識 | ELISA,ウエスタンブロット,免疫染色 |
蛍光標識 | フローサイトメトリー,免疫蛍光染色,ウエスタンブロット |
ビオチン | フローサイトメトリー,免疫蛍光染色,免疫組織染色 |
金コロイド | 免疫電顕,イムノクロマトグラフィー法 |
磁気ビーズ | 免疫沈降法 |
論文等での使用状況
抗体百貨から商品の詳細ページに飛ぶと,”Reviews” または “Publications” という項目があることが多いです.
ココに何かしらの記載があれば,信頼性がより高くなりますね!
また,Google scholar で,抗体の名前や商品のIDを検索するのも有効ですよ!
保証
これを確認する人は多くはありません.
しかし,販売業者からの保証(返金など)の有無は,予算が限られた研究者にとって重要な情報です.
しっかり確認しましょう!
2次抗体の選び方
基本的な選び方は上述した通りですが,2次抗体特異的な選び方もあるのでご紹介します!
- 抗IgG
- 抗 F(ab)
- 抗イムノグロブリン
- Pre-absorbed(血清吸着済み)抗体

皆さんは,上記の違いがわかりますか?
抗イムノグロブリンまたは抗 F(ab)の2次抗体は,抗体のアイソタイプ(クラス)に関係なく反応してしまいます( H 鎖・L 鎖も関係なく反応してしまいます).
使い方を間違えると非特異な反応の原因になります.
「pAbは2種類以上のアイソタイプが混在している」と書きました.
未精製の1次抗体(クラスの確認を行っていないpAb)を使用したときには,抗イムノグロブリンまたは抗F(ab)の2次抗体が有用ですね!
一方,抗IgGはアイソタイプ(クラス)特異的な抗体です.
IgGと分かっている1次抗体を使用した場合に使用できますよ!
Pre-absorbed(血清吸着済み)抗体
ある種の動物由来の血清と反応させて,その血清と反応する抗体画分を除去した製品を「Pre-absorbed(血清吸着済み)抗体」と言います.
私は,抗ウサギIgGの2次抗体をマウス由来のサンプル*使用するとき,マウス血清吸着済みの2次抗体を使うようにしています.
経験上,抗ウサギIgGの2次抗体がマウスのIgGに交差することを知っているので.
*サンプルが脳や精巣の場合は,血液‐脳関門・血液‐精巣関門があるので,内在性の抗体の影響は少ないです.だから,血清吸着済み抗体は必須ではありません.
Pre-adsorbed 抗体
“Pre-adsorbed” と表記する商品もあります.
でも,意味は “Pre-absorbed” と同じです.

単語の使い分けはあるのかもしれませんが…私には分かりません(笑).
抗体を選んで買うという作業は,結構大変な作業なんです!
苦労して,高いお金を払って,でも結局使えなかった…は悲しすぎますよね.
本記事が抗体を初めて購入する人の一助となれば幸いです.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年6月29日 フール