サンプルや試薬の保存方法【超まとめ】

サンプル保存の適切な温度は?
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サンプルの保存方法

サンプルごとに保存方法がバラバラ…なんで?

本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.

 

こんにちは.

博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.

皆さんは,サンプルの保存,ちゃんとできていますか?

なぜ,その保存方法なのか,説明できますか?

ここで,ある研究室でのやり取りをちょっと覗いてみましょう!

この前の実験で抽出したDNAとRNAはどこに保存しましたか?

共に-20℃の冷凍庫に保存してあります!

ん!?共に?

ハイ!先生が「冷凍しておいて」と言っていたので。

そっか…

何かダメでしたか?

皆さんも,似たような経験はありませんか?

先生や先輩に言われたからという理由だけで,何も考えずに保存していませんか?

本記事では,そんなサンプルの保存方法についてまとめています.

サマリー・サンプルの保存方法は,室温保存,冷蔵保存,冷凍保存の3種類がある.

・冷凍保存には,-20℃,-80℃,-196℃(液体窒素)の3パターンがある.

・貴重なサンプルは,不測の事態に備えて,バックアップも用意する.

室温保存

室温って具体的に何度ですか?

22-25℃を指すことが一般的です.

ただし,季節地域によって様々*1ですので,注意が必要です.

*1東北より以北では,冬季の室内温度が10℃以下になることも珍しくありません.溶液によっては室温であっても溶質が析出することもあるので室内でも注意が必要です.

保存対象

酸またはアルカリ溶液,滅菌したバッファー,滅菌した細菌培養用の培地など

冷蔵保存(2-8℃)

この温度帯では,微生物の増殖速度低下酵素反応の速度低下が起こります.

保存対象

細胞培養用の培地*2未滅菌のバッファー,精製タンパク質*3,ゲノムDNAの保存*4

*2L-グルタミンは,他のアミノ酸とは異なり溶液中で不安定で分解されやすいです.血清を添加した培地なら尚更です.L-グルタミンは4℃で最も安定します.

*3精製タンパク質の保存方法は,安定化剤の有無やその種類により様々です.同じタンパク質でも製品ごとに異なることもあるので,詳細は購入時に添付されているデータシートで確認してください.

*4細長い分子であるゲノムDNAは,凍結融解を繰り返す度に物理的に壊れます.氷晶形成の際に,氷の間のDNAがすり潰されるからです.室温では,もし無菌的な保存ができなかった場合に,細菌が増殖します.結果,細菌由来のDNaseで分解されてしまうので,そのリスクを少しでも下げるために冷蔵保存します.

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冷凍保存(-20℃)

この温度では,化学反応微生物の増殖ほとんど起こりません

またバッファーなどの塩類を含む液体は,この温度でも完全には凍りません

保存対象

精製タンパク質*3,細菌*5,培養細胞*6, 11, 13,遺伝子実験用の酵素*7,プラスミドDNAやPCRで増幅したDNA*8

*520-25%のグリセロール溶液として保存します.頻繁に使う場合,数日ならは-20℃で保存可能です.長期保存をする場合は-80℃で保存します.

*6培養細胞の保存では,ゆっくり凍らせることが大切です.いきなり-80℃や-196℃で保存するとそれができないので,一時保存(目安は1-2時間)という意味でココに書きました.

*7酵素類の大半は,50%グリセロール溶液を含んだ溶媒中にあるので,-20℃でも凍りません.

*8ゲノムDNAと異なり,環状または短いフラグメント状なので,凍結融解による分解の心配はほとんどありません.細菌由来のDNA分解酵素の影響も-20℃では無視できます.

冷凍保存(-80℃)

この温度では,バッファーなどの塩類を含む液体も完全に凍ります

保存対象

RNA*9,1本鎖DNA*10,抗体,細菌*11,細胞*6, 11, 13

*9RNAは非常に不安定で分解されやすいです.RNA分子のブラウン運動で起こるRNA切断RNAase(汗や唾液中に大量に含まれているし,空気中を浮遊する微生物も持っている)による分解が原因です.ただRNaseの活性は低温では低いので,ブラウン運動の抑制も兼ねて-80℃で保存します.

*10-20℃でも良いが,DNA分子のブラウン運動で起こるDNA切断の影響を最小限に抑えるために,-80℃での保存をオススメする.

*11-20℃で1-2時間冷却した後は,-80℃で一晩保存します.-80℃で保存し続けても構わないですが,保存期間の上限は1年です.その後は,徐々に生存率は低下することを忘れずに.

冷凍保存(-196℃)

この温度*12では,全ての液体が完全に凍ります

保存対象

細胞*6, 11, 13

*12液体窒素の代わりに,有機溶媒とドライアイスを混ぜる方法もあります.例えば,メタノールとドライアイス,アセトンとドライアイスなどです.ただ,温度は液体窒素の方が低いです.またメタノールは劇物で,アセトンは危険物4類の第1石油類に該当し,取扱いの注意だけでなく使用量・管理量の記録が求められる面倒な物質です.オススメはしません

*13-80℃で一晩保存した後は,液体窒素に移します.液体窒素なら,保存期間の上限はなくほぼ半永久的に保存可能である.

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ワーキングサンプル,バックアップサンプルの重要性

無視できる程度とは言え,凍結融解を繰り返せば,サンプルは劣化していきます.

そして,それを好まない研究者もいます

また,停電や冷凍庫の故障など不足の事態に備えておくことも大切です.

ココからは,それらの対策についてご紹介します.

少量に小分けして(50-100 μL/tube)保存

抗体や精製タンパク質などは,とても高価です.「また買えば良いか」と安易に考えることはできません.

なので,小分けにした内の一つをワーキングサンプルとして使用する方法をオススメします.

凍結融解の回数を記録すれば,何回まで使用可能だったかもわかります.

この方法は,凍結保存に限らず,全て試薬に応用できます

例えば,コンタミネーション対策です.

コンタミネーションで試薬を全量廃棄するのと,小分けにした内の一つを廃棄するのでは,どちらが経済的でしょうか?

1回で使い切るサイズに小分けして(5-50 μL/tube)保存

「少量に小分けする」の応用です.

全てこちらに切り替えることができるなら,その方が良いでしょう.

ただ,問題はあります.

保管スペースの確保が必要です.

小分けすればするほど,保存場所を多く必要とします.

場所に余裕がないのであれば,「少量に小分けする」で十分です.

ストックは,2本以上作製して異なる保存方法を用意

細胞・細菌・プラスミドなどの中には,代えの利かない貴重なサンプルの場合があります.

どんなに正しい方法で保存していても,停電や冷凍庫の故障などが起きれば,そのサンプルの品質は保証できません.

そこで私がオススメするのは,最低でも2本以上のストックを作り,片方は冷凍庫で冷凍保存,他方は液体窒素で冷凍保存という具合に異なる保存方法を用意することです.

この場合,停電や冷凍庫の故障が起きても,液体窒素のサンプルは無事ですし,逆に液体窒素が枯渇してしまっても,冷凍庫のサンプルは無事となります.

ただ, 施設によっては液体窒素が使えない施設もあるでしょう.

その場合は仕方がないので,電源が異なる2つの冷凍庫に別々に保存する方法をとれば,一応のバックアップは確保できます.

以上,サンプルや試薬の保存方法【超まとめ】でした.

この記事が皆さんの「なぜ?」「どうして?」の答えになれば幸いです.

最後までお付き合いいただきありがとうございました.

次回もよろしくお願いいたします.

2019年11月10日 フール

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