リアルタイムPCR(qPCR)の結果の見方【実験データの見方】

qPCRの結果の見方が分からないよ~
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
リアルタイムPCR法も,PCR法と同じくDNAをサンプルとした遺伝子検査の1つです.
特定のDNA断片だけを選択的に増やすことができ,且つ,その増加をリアルタイムでモニタリングできる実験手法です.
テレビや新聞で話題となったPCRは,このリアルタイムPCR法のことです.
もともとは,「 1 サイクルのPCR反応で増幅産物が 2 倍に増える」という考え方を基に,サンプル中に存在する標的DNA量を定量する目的で開発されました.

だから,リアルタイムPCRのことを定量PCR(quantitative PCR: qPCR)とも呼びます.
ただ,現在では,陽性/陰性を判定する定性解析でも使用されています.
詳細は省きますが,qPCR法では反応終了後の増幅産物の確認作業がありません.
その時間(40-90分くらい)を節約できるので,その分だけ迅速に結果を得ることができるのです.
本記事では,qPCR法のデータの見方をまとめました.
どのようなデータが成功したもので,どのようなデータが失敗したものなのでしょうか?
同じPCRでもPCR法のそれとは全く異なるものなので,先ずは,実験データの解釈の仕方を学んでいきましょう.
サマリー・最初に融解曲線(解離曲線)を見る.
・次に増幅曲線を見る.
・最後に検量線を確認する.
【本日の課題】リアルタイムPCR(qPCR)の結果
あなたは,以下の実験結果をどのように解釈しますか?
そして,どのようなトラブルシューティングが必要だと思いますか?
図2 遺伝子z*の定量 目的:プライマーの検定 方法:遺伝子zの量が既知のサンプルを10倍段階希釈してqPCRを行い,検量線を作成した. 検出方法:インターカレーター法 プロトコール:初期変性>PCR反応(40サイクル)>融解曲線分析
*目的遺伝子zの標的領域は,109 bp である.
【フールの解説】リアルタイムPCR(qPCR)の結果の見方
目的や解析方法によって,ステップ数は異なります.
今回の目的(プライマーの検討)の場合,全部で 3 つのステップがあります.
それでは,1つずつ確認していきましょう.
①初めに見る所のは,融解曲線
融解曲線の確認は,プライマーダイマーなどの副産物の有無を知る最も簡便な方法です.
簡単ではありますが,PCRの反応特異性を確認するための非常に重要なステップです.
プライマーダイマーなどの副産物がある場合は,以下のようになります.
赤線は,増幅産物のピーク以外に別のピークがでていますね.

おそらくこれはプライマーダイマーによるものです.
緑線にもプライマーダイマーと考えられるピークがありますね.
さらに増幅産物のピークの位置が少しズレています.
これは,目的遺伝子以外の増幅産物があることを示唆しています.

副産物が確認されたプライマーは,qPCR法では不適なので使えません.
次は増幅曲線を確認する
続いて,増幅曲線を見ていきましょう!
ちなみに,この図は片対数(y軸が対数)表示ですが,設定によっては,以下のような表示も可能です.
どっちの表示でも構いませんが,どちらも同じことを意味する図であることは忘れないでください.

「形が違うから,異なる図」ではありませんよ~
さて,増幅曲線で確認することは,以下の4つです.
① ベースライン ② 閾値(Threshold line) ③ Threshold cycle(Ct)値 ④ 増幅曲線の形と間隔
ベースライン
ベースライン(①)は,PCR反応の初期サイクルにおけるシグナルレベルのことです.
ベースラインは,反応中に生じるのノイズまたはバックグラウンドと同じ類です.
多くの場合,機器が自動で判定して排除してくれますが,手動で設定しなおすこともあります.
閾値(Threshold line)
閾値(Threshold line, ②)は,設定したベースラインよりも有意に増加していると認められるシグナルレベルことです.
この値を超えたシグナルは,ノイズやバックグラウンドではないと判断します.
閾値の設定を誤ると,増幅シグナルがベースラインと区別できず,正確な定量ができなくなります.
機器が自動で判定して設定してくれます(図中の 0.396795 が閾値です)が,手動で設定しなおすこともあります.
Threshold cycle(Ct)値
Threshold cycle(Ct, ③)値は,増幅シグナルが閾値と交差する時のサイクル数です.
ちなみに,装置はCt値を自動で記述してくれます.

得られた曲線を目視しながらCt値を確認する必要はありません(笑).
また,Ct値は,標的遺伝子の量に反比例するということを忘れないで下さい.
サンプル中の標的遺伝子の量が少ないほど,Ct値は大きくなります.
ベースラインが変わると,閾値が変わります.
そして,閾値が変わるとCt値も変わります.

ココまでお話した 3 つの重要性がイメージできたでしょうか?
増幅曲線の形と間隔
シグナルが指数関数的に増えている間(④),増幅曲線は滑らかでしょうか?
この部分が汚い(ギザギザがあるなど)の場合は,反応チューブ(またはウェル)に気泡が入るなどサンプル調製に問題があった可能性があります.
各希釈系列の増幅曲線は,互いに等間隔でしょうか?(⑤)
この間隔がズレている場合,希釈系列の作製に問題があります.
最後に検量線を確認
遺伝子zの量が既知のサンプルを段階希釈して使用しているので,反応効率を評価するための検量線を作成することができます.
10倍段階希釈物の各コピー数をx軸に,それに対応するCt 値をy軸にプロットしています.
装置にもよりますが,ココから増幅効率・検量線の傾き・相関係数を確認することができます.
一般的に「良い」とされる検量線は,増幅効率が90-110%の間で,相関係数が0.990以上です.
参考までに,あまりよくない検量線の例をお示しします.
トラブルシューティング&まとめ
今回は,とてもキレイな結果でした.
よって,特別必要なトラブルシューティングはありません.
本記事では,qPCRのデータ解釈の基本的な流れを解説しました.

今後は,いわゆる「失敗」や「トラブル」と表現される事例も取り上げていこうと思います.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年3月7日 フール