代表的なグッドバッファーを紹介します

代表的なグッドバッファー
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代表的なグッドバッファーを紹介します

 

グッドバッファー

グッドバッファーって種類ありすぎです.よく使うのはどれですか?

本記事は,このような疑問にお答えします.

 

こんにちは.

博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.

前回の総論に続いて,本記事はグッドバッファー各論です.

でも,さすがに全部をまとめることはできません(笑).

使ったことがないバッファーもたくさんあるので…

 

サマリー・HEPES 緩衝系は,重炭酸緩衝系の緩衝能を補うことができます.

・RNA の電気泳動で,MOPS バッファーは有用です.

・低分子タンパク質の電気泳動で,MES バッファーは有用です.

代表的なグッドバッファーを紹介します

本記事では,私がよく使うグッドバッファーをご紹介します.

私がよく使うのは次の3種類です.

  • HEPES バッファー
  • MOPS バッファー
  • MES バッファー

HEPESバッファー

HEPES バッファーの特徴は以下の通りです.

前回の記事にまとめた Dr. Good らの基準との照合もしてみましょう.

基本情報

正式名:4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid

分子式:C8H18N2O4S

構造式:

HEPESの構造式

分子量(g/mol):238.3

性質:両性イオン(双性イオン)

働き:分子内のスルホン基から解離したプロトンは,ピペラジン基の4位窒素原子をプロトン化します.コレと脱プロトン化体との間で平衡関係ができるため緩衝能を示します.

HEPESの緩衝能

Dr. Goodらの基準との比較

pKa (25°C): 7.45 – 7.65(

可溶性と細胞膜透過性:水溶性は高く,且つ,細胞透過性は低い(

最小のイオン強度:使用濃度に依存

金属イオンとの相互作用:無視できるレベル(

安定性:光に3時間以上さらすと過酸化水素(H2O2)を産生すると報告されています.暗所または遮光ボトルで保存しましょう.

吸光度:吸光領域は持ちません.しかし,Folin-Chiocalteuフェノール試薬と反応するため,Lowry法によるタンパク質定量には不適です.

準備:100 mmol/L HEPES緩衝液の作り方は以下の通りです.
1.23.83 gのHEPESを700 mLの精製水に溶解します.
2.撹拌しながら1 mol/LのNaOHを滴下して,pHを合わせます.
3.精製水で1000 mLまでメスアップします.

簡単ですね!(

HEPESバッファーの用途

私は,細胞培養用培地(DMEM や RPMI1640)へ,最終濃度が 10-25 mmol/L HEPESとなるように加えています.

細胞培養用培地の緩衝系は,重炭酸緩衝系です.

この場合,空気中の CO2濃度を5~10%に維持しなければなりません

CO2インキュベーターが設置できない場合CO2インキュベーターの外で細胞培養しなければならない実験系では,HEPES緩衝系を利用します.

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MOPSバッファー

MOPS バッファーの特徴は以下の通りです.

前回の記事にまとめた Dr. Good らの基準との照合もしていきましょう.

基本情報

正式名:3-(N-Morpholino) propanesulfonic acid

分子式:C7H15NO4S

構造式:

MOPSの構造式

分子量(g/mol):209.3

性質:両性イオン(双性イオン)

働き:分子内のスルホン基から解離したプロトンは,モルホリン基の1位窒素原子をプロトン化します.コレと脱プロトン化体との間で平衡関係ができるため緩衝能を示します.

MOPSの緩衝能

Dr. Goodらの基準との比較

pKa (25°C): 7.0 – 7.4(

可溶性:水に溶けやすいが,その程度は,HEPESよりは低い(

細胞膜透過性:細胞透過性は低い(

最小のイオン強度:使用濃度に依存

金属イオンとの相互作用:Fe, Mg, Mn, Co, Niと相互作用する(特にFeとの相互作用は強い)という報告があります.

安定性*1:熱に不安定ですので,オートクレーブ滅菌はできません.

吸光度:吸光領域は持ちません.しかし,Folin-Chiocalteuフェノール試薬と反応するため,Lowry法によるタンパク質定量には不適です.

準備:200 mmol/L MOPS緩衝液の作り方は以下の通りです.
1.41.8 gのMOPSを700 mLの精製水に溶解します.
2.撹拌しながら 1 mol/LのNaOHを滴下して,pHを合わせます.
3.精製水で1000 mLまでメスアップします.

簡単ですね!(

*1年配の研究員は「オートクレーブをかけ,液体が黄色になったことを確認しろ」という人が多いです.その理由は,Molecular Cloning の初版にありました.当時は「オートクレーブをかける」が当たり前だったようです.第 3 版では,フィルター滅菌になっています.アップデートは大切ですね.

MOPSバッファーの用途

私は,RNAの電気泳動を行うときに,泳動バッファーとして使用しています.

RNA抽出ができているかの簡易チェックは, TAE または TBE バッファーで泳動します.

簡易チェック以外では,ホルムアルデヒドを加えた変性ゲルを作製するため,トリス緩衝系との相性が悪い*2です.

加えて,MOPS バッファーならジエチルピロカーボネート(Diethylpyrocarbonate:DEPC)処理による RNase の不活化も可能*3, 4です.

タンパク質の電気泳動を行うときに,泳動バッファーとしても使用しています.標的タンパク質の分子量が180 kDa以上の場合に使用することが多いです.

*2トリスは,第 1 級アミンです.そして,アルデヒド類は,第 1 級アミンと相互作用します.つまり,変性ゲルをトリス緩衝系で作製すると,トリスの緩衝能が損なわれます.
*3繰り返しますが,トリスは第 1 級アミンです.そして,DEPC は第 1 級アミンと反応します.よって,トリス緩衝液に DEPC を添加して RNase-free 化することはできません.
*4 DPEC を分解するためにはオートクレーブ処理が必要です.あれ?熱に不安定なんだよね...安心してください!少しくらい黄色くなっても緩衝能は維持されます.Molecular Cloning の第 3 版にも次のように書いてあります.
"The buffer yellows with age if it is exposed to light or is autoclaved. 
Straw-colored buffer works well, but daker buffer does not."

MESバッファー

MES バッファーの特徴は以下の通りです.

前回の記事にまとめた Dr. Good らの基準との照合もしております.

基本情報

正式名:2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid

分子式:C6H13NO4S

構造式:

MESの構造式

分子量(g/mol):195.2

性質:両性イオン(双性イオン)

働き:分子内のスルホン基から解離したプロトンは,モルホリン基の1位窒素原子をプロトン化します.コレと脱プロトン化体との間で平衡関係ができるため緩衝能を示します.

MESの緩衝能

Dr. Goodらの基準との比較

pKa (25°C): 5.9 – 6.3

可溶性:水に溶けるが,その程度はHEPESやMOPSよりは低い

細胞膜透過性:細胞透過性は低い(

最小のイオン強度:使用濃度に依存

金属イオンとの相互作用:Fe, Mg, Mn, Cu, Niと相互作用する(特に鉄との相互作用は強い)という報告もありますが,錯体を形成する金属イオンは少ないです.

安定性:特筆すべきことはありません.(

吸光度:吸光領域は持ちません.

準備:200 mmol/L MES緩衝液の作り方は以下の通りです.
1.42.65 gのMESを700 mLの精製水に溶解します.
2.撹拌しながら 1 mol/LのNaOHを滴下して,pHを合わせます.
3.精製水で1000 mLまでメスアップします.

簡単ですね!(

MESバッファーの用途

私は,タンパク質の電気泳動を行うときに,泳動バッファーとして使用しています.

標的タンパク質の分子量が160 kDa以下(特に25 kDa未満)の場合に使用することが多いです.

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もっと勉強したい方へ

・ZIGLER, J. S., et al. Analysis of the cytotoxic effects of light-exposed HEPES-containing culture medium. In Vitro Cellular & Developmental Biology, 1985, 21.5: 282-287.

・Russell D. W. and Sambrook J., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 3rd edn, 7.31-7.34 and A1.18, 2001.


・FERREIRA, Carlos MH, et al. (Un) suitability of the use of pH buffers in biological, biochemical and environmental studies and their interaction with metal ions–a review. Rsc Advances, 2015, 5.39: 30989-31003.

 

以上,HEPESバッファー・MOPSバッファー・MESバッファーの特徴と用途をまとめました.

用途に関しては,ココに記した内容以外の使い方も多数あるので,興味がある方は調べてみてください!

私も,新しい使い方をしたら随時追記していきます.

最後までお付き合いいただきありがとうございました.

次回もよろしくお願いいたします.

2019年12月27日 フール