実験室での事故を防ぐ【事故の背景にあるもの】

器具を洗浄していた時にコルベンを割っちゃって,ガラス片で指を切りそうになっちゃった…危なかった~
本記事は,このような事故を防ぐ方法をまとめています.
こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
先月は,私の職場で色々な事故がありました.
幸い,いずれも大きな事故にはならずに済んだので事故未遂といった方が正確ですが.
人間はミスをする生き物なので事故が起きてしまうこともあるでしょう.
それでも,事故の詳細を聞くと…

えっそんなことで事故が?
って思うことが多々ありました.
皆さんは,研究室または職場単位で事故を防ぐために何か工夫をしていますか?
大学では,年度初めに事故を防ぐための安全講習がありますね!
では,それを真面目に受けていますか?(笑)
正直,私も今ほど真剣に受けとめたことはありません(笑).
だから,私も博士課程時代に受けた講習の内容を改めて復習しました.
この記事では,実験室での事故の背景にある要因やミスを誘発する心理的な側面などについてまとめようと思います.
本記事を読み終えると,実験室での事故を防ぐために必要な対策を講じることができるようになりますよ!
サマリー・事故や災害には至らなかったけど,一歩間違えれば事故につながった現象をヒヤリハットと言います.
・事故の背景にある要因を4つ(人,環境,機械,マネジメント)に分類することがあります.
・研究室の写真を見て,その状況からどんな事故が起こり得るかを予知する訓練があります.
ヒヤリハットとハインリッヒの法則
ヒヤリハット(ヒヤリハット事象)という言葉を聞いたことはありますか?
これは,事故や災害には至らなかったけど,一歩間違えれば事故につながった(事故の一歩手前)現象です.
冒頭の女の子の体験がちょうど良い例ですね!
まさに「危なかった」事象そのものです.
ハインリッヒの法則
安全技師だったハインリッヒは,過去の事故の統計を分析しました.
そして,「1件の大きな事故の背後には,29件の軽微の事故・労災があり,さらには300件のヒヤリハットがある」というハインリッヒの法則を導き出しました.
この比率がどれだけ正確かはわかりません.
ただ,ヒヤリハットが多発する環境では,大きな事故の可能性が同時に高まっているということは伝わると思います.
逆に言えば,「まさか?」「そんなことで?」と日頃のヒヤリハットを軽んじていると事故・災害を防ぐことは難しいということですね!
ヒヤリハットの共有
研究員や学生が体験したヒヤリハットを研究室全体で共有することを検討してみませんか?

自分の失敗を公にしたくないよ~

恥ずかしいことではありませんよ!それを蔑むヒトは放っておきましょう!

皆が「明日は我が身」だと思って耳を傾けて,研究室全体の安全性を向上させることが大切なんです!
事故の背景にある4M
これは研究室に限ったことではありませんが,事故の背景にある要因として4Mを考えることがあります.
4Mとは,以下の4つです.
- Man(人)
- Media(環境)
- Machine(機械)
- Management(管理)
これまでに起きた事故を分析する際に,この4つの観点から背景を整理することで,その本質を捉えやすくすることができるでしょう.
例えば,次のような感じです.
- Man:勘違いをしていた,先入観があった,考え事をしていた etc.
- Media:地震があった,マニュアルが存在しなかった etc.
- Machine:機器の一部機能していなかった,設備が老朽化していた etc.
- Management:予算の削減に伴う人手不足があった etc.
うっかりミスを誘発する心理
ヒヤリハットや事故の原因がうっかりミス(ケアレスミス)ってことはよくある話です.
どうして,うっかりミスをしてしまうのでしょうか?
ここではそんなうっかりミスを誘発する心理についてまとめます.
ただ,私が学生の頃に受けた心理学の内容です.
最新の内容ではありませんので,ご了承ください.
正常性バイアス
日本人は,最初から安全であることに慣れている人が多いですね!
そのような環境にいる人は,軽微な異常を「異常」だと認識せずに正常として判断することが報告されています.
これを正常性バイアスと言います.
正常性バイアスは,過度な緊張状態になることを防ぐための本能的な防衛手段なので,起きてしまうのは仕方ないと言えるでしょう.
「注意する」に注意
うっかりミスを起こさないように,注意して行動すると思います.
でも実は,その「注意する」には3つの特徴があるんです!
- 持続的な注意
- 選択的な注意
- 分割的な注意
持続的な注意
「注意する」ことは,その対象がどんなに興味があることであっても,20~30分ほどしか持続しない.
選択的な注意
関心のあるものや必要なものだけを選択して処理する.
分割的な注意
状況に応じて,注意力を配分するが,それにも限界がある.
視覚の盲点
ヒトは,見たいものを見たいように見る傾向がありますよね!
この傾向が強すぎると,周辺情報からのバイアスがかかり,状況の見え方が変わってしまうんです.
聴覚の落とし穴
ヒトは,自身が期待しているように音を聞いてしまうことがあります.
病院や飲食店などで順番待ちをしていると,似たような名前が呼ばれた際に自分だと思い込んで行動してしまったことはありませんか?
これは「自身が期待しているように音を聞いてしまう」の良い例ですね!
ゲシュタルトの法則
近いものや似ているものをグループ化して,無意識の内に物事を「まとまり」として認識してしまうことをゲシュタルトの法則と言います.
ゲシュタルトの法則を無視してマニュアルや掲示物を作成すると,その効力は低下すると言われています.
こじつけ解釈(認知的不協和)
受け取った情報同士で矛盾があると不安になりませんか?
ヒトは,その矛盾を自分なりに納得できるように考えて,自身を安心させる傾向があります.
これをこじつけ解釈(認知的不協和)と呼びます.
危険予知トレーニング
最後に「危険予知トレーニング」をまとめます.
危険予知トレーニングとは,研究室の写真やイラストを見て,その状況からどんな事故が起こり得るかを予知するトレーニングです.
危険を察知する能力を磨くトレーニングと言えますね!
危険予知トレーニングとして「4ラウンド・KYT」という方法が有名です.
KYTは,危険予知トレーニング(Kiken Yochi Training)の略です.
決して,空気よめない(空気よまない)の “KY” ではありませんよ(笑).
4ラウンド・KYT
4ラウンド・KYTでは,グループで1枚の絵を見て次の4つのラウンドを実施します.
- 危険を予想し見つけ出す
- 危険ポイントを選定する
- 具体的な対策を立案する
- グループで行動目標の設定する
危険を予想して見つけ出す
絵(写真)を見て,その中にどんな危険が予想されるかをグループで話し合います.
大切なことは,この段階で出された「危険」案をいたずらに否定しないことです.
危険ポイントを選定する
挙げられた「危険」案のうち,重要と考える危険をピックアップします.
さらに最も重要な危険を2つ選定します.
具体的な対策を立案する
最も重要な危険ポイントについて,それを解決するための対策をそれぞれ考えます.
具体的な対策を考えること大切です.
グループで行動目標の設定する
立案した対策を絞り込んでいき,それを重点実施項目とします.
そして,重点実施項目を実践するためにグループ(研究室)の行動目標を設定します.
最後にグループメンバー全員で指差しをしながら重点実施項目と行動目標を唱和して確認します.
以上,実験室での事故を防ぐ方法でした.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年12月1日 フール