探索的研究と検証的研究【HARKingはダメ,ゼッタイ】

先生から「探索的研究と検証的研究の違いを理解しましょう」って言われました.どういう意味ですか?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
皆さんは,探索的研究と検証的研究の違いをご存知ですか?
実は,研究・実験には2つのステージがあります.
- 基本的な情報や実験データが存在しない中で行う研究
- これまでの経過から仮説を設定して行う研究
そして,この違いを理解していないために研究倫理違反となる可能性もあります!
この記事では「探索的研究と検証的研究の違い」と研究倫理違反である “HARKing” をまとめます.
本記事を読み終えると,探索的研究と検証的研究の違いが分かるようになりますよ!
サマリー・探索的研究は,仮説を設定せずに進める研究です.
・検証的研究は,仮説を設定して,それが正しいかどうかを検証する研究です.
・探索的研究と検証的研究のスイッチは,研究テクニックではなく,研究倫理に反する行為です.
探索的研究と検証的研究
冒頭でも書きましたが,研究には大きく分けて2つのステージがあります.
- 基本的な情報や実験データが存在しない中で行う研究
- これまでの経過から仮説を設定して行う研究
前者は探索的研究と呼ばれており,後者は検証的研究と呼ばれています.
探索的研究
研究開始の時点では,仮説を設定していない研究方法です.
得られた実験データを見て,規則性・関連性などを見出し,新たな仮説を設定することを目的としています.
例えば,次のような場合が探索的研究にあたります.
- 化合物のライブラリーからウイルスの感染効率を下げる物質を探す.
- ある疾患の進行を抑える予防因子を検索する.
- 化合物の投与量を振り,有効濃度を探る.
- 動物実験のモデル動物を確立する.
研究内容にもよりますが,イメージとしては…

「〇〇だったらイイな~」

「△△だったら面白いよね」
って感じの研究です.
仮説のようにも感じますが,この場合,科学的な根拠に基づいたものではありません.
検証的研究
研究開始の時点で,明確な仮説が存在する研究方法です.
ココでいう「仮説」は,科学的な根拠に基づいて設定されるものです.
その仮説が正しいか否かを検証する実験を行うので,検証的研究と呼びます.
例えば,次のような場合が検証的研究にあたります.
- 物質Aは「ウイルスの感染効率を下げる」と仮説を立て,物質Aの機能を検証する.
- 因子Bは「疾患Cの進行を抑える」と仮説を立て,因子Bの影響を検証する.
こちらも研究内容によりますが,イメージとしては…

「きっと××になるはずだ!」
って感じの研究です.
HARKing
研究開始時点では仮説は設定されていなかったのに,研究発表をする時点ではあたかも仮説を設定していたかのような報告をする研究があります.
探索的研究としてスタートしたのに,いつの間にか検証的研究にスイッチしていたということです.
この行為は問題ですよ!
この行為は “Hypothesizing after the results are known [HARKing]” と呼ばれる研究倫理違反なんです.

どうして,HARKingはダメなんですか?

イイ質問ですね!
“HARKing” の問題点は次の通りです.
- 申請書に嘘を書いたことになる(審査委員会を騙したことになる)
- 研究の再現性が担保されない
申請書に嘘がある
研究・実験を始める前には,各種法令やガイドラインに従って,適切な申請が必要です.
「申請する段階では探索的研究の旨を記載したのに,実際は検証的研究だった」はどう思いますか?

なんか…詐欺みたいですね.
審査委員会は申請書を見て,探索的研究として各種法令やガイドラインに抵触する問題が無いから研究の承認をしているはずです.
検証的研究としては検討していません.
だから,探索的研究から検証的研究にスイッチすることは,申請書に嘘を書いたことになるんです(審査委員会を騙したことになります).
研究の再現性が担保されない
一般的な検証的な研究の流れは次の通りです.
- 仮説を設定する.
- 統計解析の方法を考える.
- 実験する(データを収集する).
- 結果をまとめる(統計解析を含む).
- 考察する.
しかし,探索的研究から検証的研究にスイッチすると次のようになります.
- 実験する(データを収集する)
- データを観察して,規則性・関連性を探る.
- 新たな仮説を提示する.
- その仮説があたかも最初からあったかのように設定する.
- 結果をまとめる(統計解析を含む).
- 考察する
良い結果が出ると分かって進めているので,適切な統計解析の方法を検討するステップがありません.
これは統計的に誤ったアプローチをする “p-hacking” という研究倫理違反です.
「先行研究では『有意差がある』と報告されているけど,自分たちでやってみたら有意差が認められない」の原因の1つになります.
再現性が取れないのは問題ですよね!
悪質な例もある
“HARKing” という言葉自体も認知されていませんし, “HARKing” が研究倫理違反になると知っている人も多くはありません.
無意識のうちに,探索的研究から検証的研究にスイッチしている人も多いです.
ただ,中には悪質な “HARKing” も存在します.
- 任期や卒業など期限が迫っているものに焦りを感じている場合

ヤバい…もう少しで任期が切れる…次のポストを探すには業績が必要だ…新たに申請書を出して審査結果を待つ時間も惜しい!

卒業まであと1年だけど,早く論文を書かないと卒業はできても博士号は取れないよ!今出ている結果を見なおして,仮説を再検討しよう!
探索的研究と検証的研究のスイッチは,研究室運営のコツやテクニックと考えている人もいます…
そんなことはありませんので,皆さんも気を付けましょう!
- 学会等で好印象なイメージを与えたいという見栄っぱりな人

「きっと××になるはずだ!」って流れで検証したように見せた方がインパクトある!
無意識のうちにスイッチしてしまうのも問題ですが,上記のような例はゼッタイにやってはいけません!
もっと勉強したい方へ
- Kerr NL. HARKing: Hypothesizing after the results are known. Personality and social psychology review. 1998 Aug;2(3):196-217.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2021年4月17日 フール