ゲル電気泳動の通電条件【どの泳動条件が良いの?】
結局,どの通電条件が良いの?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
前々回と前回で,ゲル電気泳動の通電条件について説明してきました.
「結局,どの通電条件が良いの?」というイライラも高まってきたことと思います(笑).
お待たせしました!!
本記事では,ゲル電気泳動の通電条件の使い分けについて,より具体的にまとめています.
ただし,私の経験に基づく【まとめ】なので,絶対ではありません.
サマリー・サブマリン型電気泳動装置では,定電圧設定で行います.
・PAGEは,定電流設定で行うことが多いです.
・ゲルの数が多いときや複数の泳動装置を使用するときは,定電圧設定にします.
通電条件を決める2つの原則
「電流(A)は通電面積に比例する.」
「電圧(V)は電極間の距離に比例する.」
上記は,通電条件を決めるときに重要な原則です.
通電面積とは,ゲルの大きさ・厚さ・枚数・緩衝液の体積のことです.
例えば,ゲルの厚さが2倍なったら,電流を2倍にします.
また,ゲルの枚数が2枚になっても,電流を2倍にします.
電極間の距離とは,泳動距離のことです.
泳動装置が大きくなると,泳動距離も長くなるので,高電圧の電源が必要になります.
サブマリン型電気泳動装置なら【定電圧】
アガロースゲル電気泳動の泳動装置は,サブマリン型ですね.
アガロースゲルを作るときを思い出してみてください.
ゲルの厚さを整えたことありますか?
泳動するときを思い出してみてください.
泳動槽のバッファーの量を毎回そろえていますか?
ゲルの厚さやバッファー量を几帳面にそろえている方もいるかもしれません.
でも,なんとなくの感覚で行っている方が大半ではないでしょうか?
ゲルの厚さや緩衝液の体積は,通電面積に関わります.
通電面積の条件を統一していないので,定電流設定の泳動条件では,測定間再現性が得られない可能性があります.
なお,再現性については,以下の記事でまとめています.
定電圧であれば,通電面積を気にする必要はありませんね!
同じ泳動装置を使い続ける限り,泳動距離も同じなので電極間の距離も気にする必要はありません.
PAGEでは【定電流】
現在のポリアクリルアミドゲルは,たとえお手製のゲルであっても,ゲルの厚さを整えることは簡単になりました.
泳動バッファーの体積も整えることが可能です.
泳動条件が整っているので,時間を節約するという意味でも,定電流での泳動をオススメします.
ただし,前回の記事にまとめたように,発熱の問題があります.
熱の影響でサンプルが拡散・分解・不活性化などが生じることは忘れないようにしましょう.
【定電圧】設定でPAGEをするとき
定電流をオススメしましたが,もちろん,定電圧設定で泳動することもあります.
私は,以下のような場合に定電圧で PAGE を行います.
・ゲルの枚数が2枚以上のとき.
・1台の電源に泳動槽を2~4台つなぐとき.
・高分子側の解像度をキレイにしたいとき.
ゲルの枚数が2枚以上のとき
泳動槽にもよりますが, 4 枚のゲルを一つの泳動槽で処理することができます.
定電流設定では,ゲルの枚数 × 電流値で電流量を変える必要があります.
最初から高電流にする必要があるため,発熱量が大きいことが想定されます.
発熱による悪影響が,より一層高まる可能性があるので,私は定電圧にします.
1台の電源に泳動槽を2-4台つなぐとき
電源内部は並列回路です.
直列回路ではありません.
1 台の電源に複数台の泳動槽をつなぐとき,並列回路では台数 × 電流値で電流量を変える必要があります.
やはり,最初から高電流にする必要があるため,発熱量が大きいことが想定されます.
発熱による悪影響が,より一層高まる可能性があるので,私は定電圧にします.
高分子側の解像度をキレイにしたいとき
定電流では,高分子側の移動が遅く,低分子側の移動が速いです.
よって,定電流設定では,どうしても高分子側の解像度が落ちてしまいます.
目的分子が高分子で,且つ,バンドの濃さを定量する実験系では,私は定電圧にします.
以上,ゲル電気泳動の通電条件の使い分けでした.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年2月13日 フール