核酸のアルコール沈殿【エタノール vs. イソプロパノール】

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エタノール沈殿とイソプロパノール沈殿って、どう使い分けてるの?

本記事は,このような疑問にお答えします.

 

こんにちは.

博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.

プラスミド抽出やRNA抽出などでアルコール沈殿法を実施している人は多いです.

それではエタノール沈殿とイソプロパノール沈殿の使い分けをしている人はいますか?

この使い分けは,意外と重要ですよ!

なぜなら,試薬の節約精製後の核酸の質に関わってくるからです.

この記事では,エタノール沈殿とイソプロパノール沈殿の使い分けにまとめています.

本記事を読み終えると,エタ沈とイソプロ沈の使い分けができるようになりますよ.

サマリー・エタノールは,核酸溶液の2倍量以上を必要とするので,ラージスケールの精製には不向きです.

・イソプロパノールは,塩の沈殿量も多いのでリンスを念入りに行う必要があります.

・アルコール沈殿に使用する塩の使い分けも重要です.

アルコール沈殿

核酸のアルコール沈殿法は,核酸分子をアルコールと塩で凝集させて沈殿を得る方法です.

塩析の1つですね.

使用するアルコールの種類によって,エタノール沈殿・イソプロパノール沈殿・ポリエチレングリコール沈殿があります.

各々に長所・短所がありますので,実験系に合わせて使い分ける必要がありますよ

アルコール沈殿の原理

先ず,ナトリウム塩やアンモニウム塩を核酸溶液に加えると思います.

これは,リン酸基の負電荷を中和するためです.

リン酸基の負電荷が残っていると,核酸は,その反発により凝集することができません.

塩を加えることで,塩由来の陽イオンがリン酸基の負電荷を中和するので,核酸分子全体の負電荷が消失します.

次にアルコールを加えます.

ヌクレオチド(塩基・糖・リン酸)のうち,糖とリン酸はアルコールに溶解しにくいです.

よって,核酸全体もアルコールには溶解しません.

そして,反発しなくなった核酸は,ファンデルワールス力により核酸同士で凝集を起こします.

遠心操作により凝集した核酸を沈降させることで,核酸ペレットが得られるのです.

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エタノール沈殿

以下に,エタ沈の特徴をまとめました.

① DNAとRNAのどちらの核酸も沈殿可能
② 核酸溶液の2-3倍量以上は必要

②は重要な使い分けポイントですね.

使用するエタノールの量は,核酸溶液量に比例して多くなります

また,エタノールを加えた後の溶液量も大きくなります.

溶液量が多くなると,核酸の沈降に要する時間が長くなります.

よって,核酸溶液そのものが大量にある場合は,後述するイソプロパノール沈殿の方が良いでしょう.

イソプロパノール沈殿

以下に,イソプロ沈の特徴をまとめました.

① DNAとRNAのどちらの核酸も沈殿可能
② 必要な量は,核酸溶液と等量

核酸溶液と等量のイソプロパノールを加えるだけで良いので,ラージスケールの実験系に向いています.

一方,イソプロパノールは揮発性が低いので核酸ペレットに残存しやすいです.

また,核酸だけでなく,塩類も一緒に沈殿させます

だから,イソプロ沈の後は(室温の)70%エタノールによる洗浄を念入りに行う必要があります

私は,最低2回は洗浄を行っています.

【おまけ】ポリエチレングリコール沈殿

平均分子量が8,000のポリエチレングリコール(PEG8,000)を使う方法もあります.

DNAだけを選択的に沈殿させるので,プラスミド抽出でプラスミドだけを回収する方法として使います.

今ではRNaseを加える方が主流だと思いますが…

アルコール沈殿に使用する塩

以下に,アルコール沈殿に使用する塩をまとめました.

① 酢酸ナトリウム(pH5.2またはpH7.0)
② 酢酸アンモニウム
③ 塩化リチウム
④ 塩化ナトリウム
⑤ 塩化マグネシウム

酢酸ナトリウム(pH5.2またはpH7.0)

最も有名な塩類ではないでしょうか?

3 M酢酸ナトリウムを最終濃度が0.3 Mとなるように加えて使います.

教科書では,pH 5.2はRNA用pH 7.0はDNA用と書かれたりしますが,私はどちらもpH 5.2で行っています.

RNAはDNAよりも水酸基が1つ多くて親水性が高い(凝集しにくい)です.

おそらく,pHを低くすることでプロトン化を促進(沈殿しやすく)しているのでしょう.

脱プロトン化

酢酸アンモニウム

PCR産物の精製で,取り込まれなかったdNTPを除去する目的で使用します.

最終濃度が2 Mになるように酢酸アンモニウムを加えます.

ただし,アンモニウムイオンは,制限酵素(T4ポリヌクレオチドキナーゼなど)の活性を阻害します.

精製後に制限酵素処理を行う場合には不適です.

塩化リチウム

RNAのエタ沈で使用します.

塩化リチウムはエタノールに対して溶解性が高く,共沈しません.

さらに,tRNAや5S RNAなどの低分子量RNA・DNA・多糖類・タンパク質を除去できます.

ただし,塩化物イオンは,逆転写反応や翻訳反応を阻害します.

このような用途に使用する場合は,酢酸ナトリウムの使用をオススメします.

塩化ナトリウム

DNA溶液にSDSが含まれている場合,SDSの析出を防ぐために使用します.

SDSのカリウム塩は難溶性となるため,KCl溶液は不適です.

塩化マグネシウム

100塩基以下の短いDNAを回収したい場合に使用します.

もっと勉強したい人のために

・Russell D. W. and Sambrook J., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 3rd edn, A8.12, 2001.

以上,エタ沈とイソプロ沈の使い分けでした.

最後までお付き合いいただきありがとうございました.

次回もよろしくお願いいたします.

2020年4月22日 フール

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