培地の成分はご存知ですか?【細胞培養用培地の成分比較】

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EMEM,DMEM,RPMI1640って何が違うんですか?

本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.

 

こんにちは.

博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.

皆さんは,細胞培養でどんな培地を使っていますか?

細胞培養用培地には,様々な種類があります.

なぜなら,色々な培地がある理由は,細胞株ごとに培地の向き不向きがあるからです.

例えば,EMEM・DMEM・RPMI1640・Ham・F12 などがありますが…

もちろん,名前だけが違うなんてことはありません(笑).

ちゃんと,成分が異なります!

では,培地の成分を比べたことありますか?

院生の頃,この質問を後輩にした時,1人も「はい!」と答えた人はいませんでした(笑).

培地の成分って,調べたら面白いんですよ?

そこで本記事では,培地の成分についてまとめました.

私がよく使うEMEM・DMEM・RPMI1640 の成分を比較しています.

本記事を読み終えると,培地の成分の違いが分かり,明日からの実験が少し楽しくなりますよ!

サマリー・培地の成分は,名前は同じでもメーカーごとに異なることがあります.

・培地の成分を知らないと,滅菌方法が分かりません.

・培地の成分を知らないと,余計な出費が出るかもしれません.

名前は同じでも成分組成は異なる

冒頭で「名前だけ違うなんてことはない」と書きました!

でも,名前は同じでも成分組成が異なることはあります

これには2つの意味があります.

① 各メーカーごとに組成が異なる
② 同じメーカーでも商品ごとに組成が異なる

各メーカーごとに組成が異なる

私はよくニッスイの培地とSIGMAの培地を使います.

どちらもEMEMという培地を取り扱っていますが,その成分は若干異なります.

培地成分の比較(ニッスイ vs. シグマ)

※単位は mg/L です.

シグマは,リン酸一水素ナトリウム(無水)の含有量です.

シグマは,L-チロシン二ナトリウム二水和物の含有量です.

シグマは,L-シスチン二塩酸塩の含有量です.

 

培地として,どちらも “EMEM” には変わりありません.

しかし,この成分の違いが実験に影響するかもしれないということは念頭におくべきでしょう.

例えば,諸事情により培地のメーカーを変えるときは注意が必要です.

古いタイプの培地新しいタイプの培地少しずつ混ぜ,新しいタイプへ徐々に適応させることが必要でしょう.

私は,1/4ずつ新しい培地を加えて,5回目の継代時に,新しい培地に全置換するという方法をとっています.

同じメーカーでも商品ごとに組成が異なる

同じメーカーから出ているモノでも,商品ごとに組成が異なる場合があります.

例えば,L-グルタミンや重炭酸ナトリウムが添加されているものされていないものが良い例です.

この違いは,培地を作製時の滅菌方法や調整方法に影響するので,ちゃんとチェックしましょう!

また,平衡塩類がアール塩なのかハンクス塩なのかという違いも培養方法に関わるので注意が必要です.

培地の違いによる成分の違い

それでは本題です.

私がよく使うEMEM・DMEM・RPMI1640 の成分を,以下の視点で比較していきます.

① 無機塩類
② ビタミン類
③ アミノ酸類
④ その他

なお,比較した商品は,イーグルMEM(ニッスイ, 05900)・ダルベッコ変法イーグル培地(ニッスイ, 05919)・RPMI1640培地(ニッスイ, 05918)です.

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無機塩類の比較

培地成分の比較(無機塩類)

DMEMは鉄を含んでいる

無機塩類で特徴的なのは,DMEMが鉄の供給源を含んでいることです.

鉄には様々な機能があります.

例えば,トランスフェリンを介して細胞内に取り込まれた鉄は,細胞による適切な酸素取り込みを促進します.

その結果,増殖関連酵素が活性化します.

実験系によっては,さらに鉄を加えることもあり,そのための試薬も売られています.

RPMIは無機塩類が多い

RPMI1640のカルシウムやマグネシウムは少なめで,リン酸の量が多いのも特徴的ですね.

RPMIは,血液系の浮遊細胞を培養することを目的に開発された培地です.

だから,接着や凝集に関わるカルシウムやマグネシウムが少ないのは理にかなってますね!

リン酸が多いのは,5% CO2 条件下での使用を前提としているからだと考えられます.

鉄のお話

ミトコンドリアは,摂取した食物のエネルギーを体内で利用することのエネルギーATPに変換する機能を担っています.

ミトコンドリアがエネルギー産生の場であることをしっている人は多いですね.

でも,ATP産生を行う電子伝達系では鉄が必要ということは,あまり知られてないような気がします.

さきほど,「鉄には様々な機能があります.」と書きました.

鉄を含まないEMEMでも細胞培養は可能なので,培養細胞レベルなら鉄欠乏でも問題は無いのかもしれません.

しかし,生体となると話は別です.

鉄欠乏→ミトコンドリアでATPが作れない→ATP不足→代謝が低下

簡単に書きましたが,このような現象が全身の細胞で起こっているのかもしれません.

代謝が低下が続くと,倦怠感・肥満などの身体への悪影響も出てくるでしょう.

生物学を日常生活に当てはめて考えると,やっぱり栄養って大切ですね!

アミノ酸類の比較

培地成分の比較(アミノ酸類)

*DMEMは,L-チロシン二ナトリウム二水和物の含有量です.

DMEMはアミノ酸が豊富

アミノ酸類で特徴的なのは,DMEMがEMEMの2倍量のアミノ酸を含んでいることです.

DMEMは,培養細胞の増殖に必要な栄養源が豊富なんです.

元々,ウイルス感染細胞の維持を目的に開発された培地なので.その代わり,EMEMよりも高いですよ(メーカーにもよりますが).

実験で必要な場合はDMEMを使いますが,そうではない場合はEMEMにすると節約できます.

また,DMEMとRPMIには,非必須アミノ酸も豊富に入っています.

ビタミン類の比較

培地成分の比較(ビタミン類)

DMEMはビタミン類も豊富

ビタミン類で特徴的なのは,DMEMがEMEMの4倍量のビタミンを含んでいることです.

ここからもDMEMが,培養細胞の増殖に必要な栄養源が豊富であることが分かります.

繰り返しますが,EMEMよりも高いですよ(笑).

RPMIはイノシトールが豊富

RPMIはイノシトールの量が多いですね.

イノシトールが,血球系細胞の代謝や機能活性化において重要ということを反映してますね.

その他の比較

培地成分の比較(その他)

その他で特徴的なのは,DMEMがピルビン酸を含んでいることです.

ただし,ピルビン酸不含の製品もあるので注意しましょう!

特定の細胞株でピルビン酸が必要であることが知られています.

また,リボフラビンやトリプトファンは,光に露光されると活性酸素を産生するので細胞毒性が生じます.

ピルビン酸には,この光毒性軽減作用も報告されています.

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もっと勉強したい方へ

以下のホームページがオススメです.

JCRB細胞バンク – 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 JCRB細胞バンクのホームページ。
住商ファーマインターナショナル株式会社
住友商事グループの中核事業会社として、医薬品の研究から製造・販売まで、医薬ビジネスを一貫してサポートする住商ファーマインターナショナルのホームページです。
https://www.sigmaaldrich.com/japan.html

以上,細胞培養用培地の成分【まとめ】でした.

最後までお付き合いいただきありがとうございました.

次回もよろしくお願いいたします.

2020年5月7日 フール

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