
「エビデンス(根拠)」の有無がよく注目されるけど,「エビデンス」の信頼度はどうなっているの?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
本記事の内容・「エビデンス(根拠)」の中にも「信頼度が高い/低い」という順位が存在します.

こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
皆さんは,論文等を読む時に根拠(Evidence)のピラミッドを意識していますか?
「〇〇を含む食品を食べると△△効果があることが明らかになりました.」みたいな内容は,新聞等のメディアでよく紹介されます.
しかし,この情報元をたどると「培養細胞」とか「マウス」で得られた結果だということは多々あります.
つまり,単に「××という報告がある」だけでは,その信頼度を担保することはできません.

その報告の質を見極める必要があるんです.
この記事では,論文の質に関わる根拠(Evidence)のピラミッドについてまとめました.
本記事を読み終えると,根拠(Evidence)のピラミッドを意識しながら論文等をよむ癖が身に着きますよ!
サマリー・最も信頼度が高いのは,システマティックレビューです.
・最も信頼度が低いのは,査読を受けていない投稿です.
・In vitro 実験や In vivo 実験の信頼度はあまり高くありません.
「根拠」の信頼度【Evidenceのピラミッド】
研究の種類によって根拠(Evidence)レベルの違いを示すピラミッド型の図形があります.

次のようなモノを見たことはありませんか?
ピラミッドの上層にいくほど「根拠(エビデンス)のレベル」が高いので,信頼度のある報告(論文)であると言えます.

上の図にいくつかの書き込みを加えると,次のようになります.
つまり,次のようなことが言えますね!
- 査読を受けていない報告よりも査読を受けている報告の方が信頼度は高いです.
- 非臨床試験の報告よりも臨床試験の報告の方が信頼度は高いです.

「培養細胞」とか「マウス」で得られた結果ってのは,あまり信頼度が高くないってことです.
これをヒトに当てはめて考えると危険だと思いませんか?
Evidenceのピラミッドの中身
それでは,Evidenceのピラミッドの中身を簡単に見ていきましょう!
第三者の研究者による査読を受けていない調査結果
臨床試験・非臨床試験に関わらず,第三者の研究者による査読を受けていない調査結果は全てココに該当します.
例えば,コールド・スプリング・ハーバー研究所が運営する bioRχiv が提供する論文は「査読されていない」ものです.
読者は論文にコメントを付けることができますが,それは「査読」に代わるものではありません.
In Silico スクリーニング & In Vitro 実験
実験をコンピュータの仮想空間で行って優れた性質を持つ化合物を絞り込む In Silico スクリーニングや候補化合物の生物学的効果を培養細胞レベル確認する In Vitro 実験が該当します.
In Vivo 実験(実験動物を用いた実験)
InVitro の実験結果を受けて,その結果を生体レベルに応用できるかどうかを観察する段階です.
「Vitro と Vivo で結果が真逆になった」みたいな話は,「研究室あるある」ではないでしょうか.
総説・意見・アイディア
In Silico スクリーニング・In Vitro 実験・In Vivo 実験の結果を受けて,執筆者の意見やアイディアをまとめたものです.
ケースレポート(ケースシリーズ)
ここから臨床研究の分類になります.
ケースレポート(ケースシリーズ)は,症例報告(集)とも呼ばれます.
患者・患畜の症状や疾病の徴候・診断・治療・経過観察などに関する詳細な報告を指します.
症例対照研究
疾病・臨床症状の原因を過去に遡って探る後ろ向き研究です.
観察対象の疾病や臨床症状を有する集団とそうではない集団を選び,「仮説」として設定された要因に曝露された割合を比較します.
食中毒の原因食品を探る調査は,症例対象研究の応用ですね.
また,Genome-wide association study (GWAS) は,統計学的に有意な頻度差を示す遺伝子多型を検索する手法ですが,これも症例対照研究の1つです.
コホート研究
共通の特性を持つ集団を一定期間追跡して,その集団の健康状態の変化や疾病の発生割合などを観察する研究です.
各種要因と疾病との関連を明らかにしようとする研究になります.

共通の特性を持つ集団とは,例えば,居住地が同じ地域・職業が同じ・誕生年が同じなどです.
二重盲検ランダム比較試験
ケースレポート・症例対照研究・コホート研究の結果を受けて,実際にヒトレベルで実験をする研究です.
実験研究の中では,最も価値が高い研究になります.
「ヒトで実験」と書くと,非道徳・非倫理的なイメージを持つかもしれません.
ただ,参加者の人権を最優先に考えた環境および条件で実施していますので,ご安心ください.

参加者の人権が無視されるような実験は,基本的には許可されません.
メタ分析
似たような複数の研究報告を収集して,様々な角度からその報告を統合したり比較する分析研究です.
収集する報告は,必ずしも「二重盲検ランダム比較試験」とは限りません.
報告数が少ない場合は,症例対象研究やコホート研究のレベルで実施することもあります.
位置づけは臨床試験ですが,非臨床試験の分野でも実施することは可能です.
システマティックレビュー
系統的レビューと表現する本もあります.
1つの症例に対する様々な報告書(論文など)を批判的に判断したものです.
様々な報告書の中には,学位論文・学会発表のアブストラクト・政府による調査研究報告・現在実施中の臨床試験の中間報告なども含みます.

対象を出版物に限定しないことが特徴です.
メタ分析をココに含む書籍も時々見かけますが,厳密には区別すべきですね!
Evidenceのピラミッドを意識した文献検索
最後に,Evidenceのピラミッドの特定の階層に注目して文献検索をする方法をお示しします.
最も簡単な方法は,NCBI PubMed のフィルタリング機能を使うことです.

検索結果の左側には “ARTICLE TYPE” という項目があります.
そこで臨床試験に該当する階層を抽出することができますよ!
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2021年9月30日 フール