
こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
久しぶりにサイト訪問者の方から,リクエストを頂きました.
電気泳動をした(アガロースゲル,1kb DNA Ladder)が,マーカーのバンドがはっきり現れず,マーカーの役割を果たしてくれません.どうしてでしょうか?

ご質問頂きありがとうございました!
ご質問者は,核酸電気泳動のサイズマーカーについてお悩みのようです.
もう少し詳細な条件(使用している染色の種類・ローディングバッファーの種類,泳動条件など)も知りたかったのですが…
それによりトラブルシューティングも変わるので!
ただ,良い機会なので,これまで私が経験した失敗談をまとめることにしました.
本記事では,核酸電気泳動でサイズマーカーのバンドがはっきり現れない原因とそのトラブルシューティングをまとめます!
サイズマーカーのバンドがはっきり現れない原因
私も,DNAの電気泳動でサイズマーカーのバンドがはっきり現れなかったことがあります.
これまでの私の経験から,その原因は以下の4つであることが多いです.
① 電気泳動の失敗 ② バックグラウンドが高すぎる ③ 染色試薬とサイズマーカーの相性 ④ サイズマーカーとローディングバッファーの相性
電気泳動の失敗
以下の2種類があると思います.
① サンプル・サイズマーカーが共に見えない ② サンプルの泳動は上手くいってるけど,サイズマーカーが見えない
①は電気泳動自体が上手くいってませんね.

私は,「電極がパワーサプライと正しく繋がっていなかった」という経験があります(笑).
②は厄介です.
サイズマーカー特異的なので,失敗する要因は複数あります.
例えば,
- 使用量が少なかった
- サイズマーカーが分解していた
などが考えられますね!
それでは,1つずつ説明していきます.
電極がパワーサプライと正しく繋がっていなかった

赤の端子と黒の端子を逆につけていたり,ウェルがプラス電極側にあったりする場合です(笑).
電気泳動自体が上手くいかないので,当然バンドをみることはできません.
機器の取り扱いやゲルの配置を確認してください!
使用量が少なかった
量が少なくて見えていないだけのパターンですね!
使用する染色試薬にもよりますが,バンドとして検出するには100~300 ngの使用が必要です.
サイズマーカ―の説明書には,サイズマーカーの濃度が記載されていると思います.
先ずは,使用量を確認しましょう!
サイズマーカーが分解していた
これは保存方法が不適切だったり,細菌由来のヌクレアーゼがコンタミしたことによる場合です.
サイズマーカーは,商品ごとに保存方法が異なります.
室温保存から凍結保存まで色々ありますので,保存方法が違っていた場合は新しくするのもアリでしょう!
特に細菌由来のヌクレアーゼがコンタミした場合,これはクリティカルな要因となるので気を付けましょう!
サイズマーカーって結構高いんですよ!
バックグラウンドが高すぎる
自家蛍光が強い染色剤(EtBrなど)を利用している場合,さらにアガロースゲルを節約して使いまわしている場合にぶつかる現象です.
バンドが,高いバックグラウンドのせいで隠れてしまっているパターンですね.
ゲルを脱色する,または自家蛍光の低い染色剤を使用することで改善できます.
アガロースゲルを節約して使いまわしている場合は,工夫が必要です.
以前に使用した染色剤が残っていますから,サンプルやサイズマーカーを泳動する前にゲルだけでプレ泳動しましょう!
多くの染色剤はプラスに荷電しているので,プレ泳動により染色剤をゲルの外に追い出すことが可能です.
染色試薬とサイズマーカーの相性
染色剤によっては,先染めプロトコール(ゲル内染色法)で泳動すると変な像になることがあります.
これは,Gel Red・Gel Greenの使用を検討した時の話です.
先染めも可能であると説明書に書いてあったので,先染めプロトコールで泳動しました.
そしたらバンドが歪んだり,バンドがキレイに分離されずスメア状になったりしました(サンプルのバンドは,キレイでした.).
説明書には,DNA量が多いと泳動が乱れるとあったので,使用量を落として検証しました.
すると,バンドを確認することはできましたが,使用量によって移動度が異なるという問題にぶつかりました(プラスに荷電した染色剤は,サンプルやラダーをマイナス側に引っ張ります).
仕方ないので,先染めではなく後染め(泳動後染色法)にしました.
その結果,とてもキレイな像を得ることができました!
現在は,後染め法を採用しています.
長くなりましたが,トラブルシューティングとしては,① 染色剤を変えてみる,② 先染めで泳動している方は後染めを検討するを提案します.
ゲルの下半分だけバンドが見えない
これは,EtBrを使った先染めプロトコールでよく経験しました.
繰り返しになりますが,多くの染色剤はプラスに荷電しています.
だから,ゲルに混ぜた染色剤は核酸とは反対の向きに泳動されます.
長時間泳動すると,ゲル内に染色剤が無い(少ない)領域が形成され,その部分のバンドが不明瞭になります.
染色剤が少ない領域はプラス極側から出来るので,低分子の核酸の検出は影響を受けやすいです.
こちらトラブルシューティングも,後染めを検討です.
サイズマーカーとローディングバッファーの相性
実は,ローディングバッファーには色々な種類があります.
主な違いは,以下の通りです.
- SDSの有無
- イオン強度
- 含まれている色素の種類
- 使用している沈殿試薬の種類
SDSの有無

SDSが入っていると都合が悪い場合があります.
例えば,核酸と何かの複合体を電気泳動する時です.
SDSが入ってると複合体が壊れます…

逆に,SDSが入っていないと都合が悪い場合もがあります.
例えば,制限酵素処理産物です.
一部の制限酵素はDNA と強く結合します.
SDSが入っていないと制限酵素とDNAの結合を乖離できず,正しく電気泳動できません.
サイズマーカーは,制限酵素処理で作製している場合が多いです.
だから,SDSが入っていないローディングバッファーでは正しく電気泳動できない可能性があります.

SDSが入っているローディングバッファーで検討してみてください!
イオン強度
泳動緩衝液よりもイオン強度が強いローディングバッファーがあります.
商品ごとに組成が異なるので,取扱説明書をご覧ください!
また「イオン強度が強くなってしまう」ことがあります.
6xと10xを取り違えて希釈率を間違えたとか,泳動緩衝液を節約していて0.25~0.5xで使用している場合です.
イオン強度が強すぎると,バンドがぼやけたりします.
含まれている色素の種類
多くのローディングバッファーには,電気泳動の進行具合を知るための色素が入っていますね.
有名なのは,Bromophenol blue・Xylene cyanol・Orange Gなどでしょうか.
何が違うのかと言うと,見かけの分子量が異なります.
サイズマーカーに限りませんが,分子量と使用量によっては,色素が目的のバンドを隠してしまうことがあるので要注意です.
使用している沈殿試薬の種類
沈殿試薬としてはグリセロールが有名ですが,スクロースやフィコールも使用されます.

正直,私もこれらの使い分けはできてません(笑).
そして,サイズマーカーとの関連は分かりません.
ただ,TBEバッファーで泳動するときは,グリセロール以外に沈殿試薬を使用したローディングバッファーを使用します.
グリセロールは,ホウ酸と相互作用してpHを変化させるかもしれないので.
以上,サイズマーカーのバンドがはっきり現れない原因でした.
本記事が,ご質問者のトラブルシューティングの役に立てば幸いです.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年8月2日 フール
コメント ~リクエストでも良いですよ~
【追記】
ご質問者からお返事があり,実験条件の詳細が送られてきました.
残念ながら,解決できなかったようです…
悔しい!
さて,送って頂いた実験条件の詳細は,以下の通りです.
・DNA分子量マーカー(1 kb DNA Ladder,タカラバイオ,1レーンに 10 μL)
・ローディング溶液(0.25%ブロモフェノールブルー,30%グリセロール,5mM EDTA,pH8.0
・0.7%アガロースゲル(アガロース微粉末,ナカライテスク)
・臭化エチジウム(EtBr)
・泳動バッファー
うーん…
正直,お手上げです(笑).
サイズマーカーを10 μLってのは多過ぎな気がしますが…
これは本格的にトラブルシューティングが必要ですね!
宜しければ,以下の質問にお答えください!
① サイズマーカーは,全く見えないのですか?それとも薄っすら見えるのですか?
② サイズマーカーだけが見えないのですか?サンプルのバンドも見えないのですか?
③ 研究室内の別の人が,そのサイズマーカーを使った場合,上手くいくのですか?
④ 泳動条件の詳細(電圧数,泳動時間,泳動バッファーの種類,先染め or 後染め)を教えてください!
⑤ アガロースゲルを,どのようにして作っているのか教えてください!
⑥ 撮影装置は,問題なく機能していますか?
⑦ 撮影するとき,ゲルを鋳型から外していますか?
ココを介したやり取りとなってしまい恐縮ですが,よろしくお願いいたします!
20200803 フール