本記事の内容・ブロックチェーン技術とDAOの概説
・分散型科学(DeSci)の特徴の概要
・DeSci が科学の課題解決に貢献する可能性を考察

こんにちは.
元研究者のフールです.
以前,P2Pの記事を書きました.

これ以降,仮想通貨やNFTなどの暗号資産についても少しずつ勉強を続けています.
そして,最近,暗号資産の技術が科学分野にも応用されていると知りました!

それが “Decentralized science (DeSci)” で,本語では「分散型科学」とか「ディーサイ」って呼ばれています.
2021年の12月にはNatureに “Call to join the decentralized science movement” というタイトルで “DeSci” に関する寄稿が掲載されました.
また,2023年の4月には “DeSci.Tokyo” という国際会議が東京で開催されています.

関係者の間で注目されている分野であることが想像できますね!
でも,「『分散型科学』って何?」「これまでの科学と何が違うの?」などの疑問はあると思います.

正直,私もよく分かってませんw
この記事ではDeSciについて私が調べたことをまとめてみます.
私なりの理解になりますが,興味ある方はどうぞお付き合いください.
サマリー・DAOとブロックチェーン技術を組み合わせると組織運営の透明性が確保できる
・分散型のアプローチを科学分野に応用した取り組みを分散型科学(DeSci)と呼ぶ
・DeSci では研究者以外のメンバーが研究プロジェクトの意思決定に関与できる
ブロックチェーン技術って何?

そもそもブロックチェーン技術って何なのか?
これが分からないと先に進めないですよね!
ビットコインやイーサなどの仮想通貨およびNFTのことを「暗号資産」と呼びます.
NFTは “Non-fungible token” の略で,日本語では「非代替性トークン」と呼ばれるものです.
- 暗号資産
- 仮想通貨:ビットコイン,イーサ,バイナンスコインなど
- Non-fungible token(NFT,非代替性トークン)

この「暗号資産」の取引データを維持・管理するために使われる技術がブロックチェーン!
細かい仕組みの詳細は非常に難しいので割愛しますが,興味がある方は以下の書籍を読んでみてください!

皆さんに知っておいて欲しいのは「ブロックチェーンで維持・管理されているデータの改ざんは難しい」ということです!
自律分散型組織(DAO)

もう1つ,新しい用語を覚えましょう!
それは「自律分散型組織(DAO)」です.
英語表記の “Decentralized autonomous organization” の略で “DAO” となり,関係者は「ダオ」って呼んでいますね.
特定の誰か(中央管理者)が意思決定をする中央集権的な組織に対する用語で,各々の組織メンバーが意思決定権を持ち自律的に運営される組織がDAOです.
DAOの運営とブロックチェーン
DAOの組織運営とブロックチェーン技術は非常に相性が良いと言われています.

その理由を簡単に説明しますね!
DAOには特定のリーダーが存在しません.
運営方針は,コミュニティメンバーの投票活動で決まります.

“DAO” はコミュニティメンバーに仮想通貨(トークン)を発行するよ!
メンバーはそのトークンを投票活動に使用することでDAOの運営方針や選択などの意思決定に参加できるようになります.
各メンバーの投票活動がブロックチェーン技術で維持・管理されると,そのデータの改ざんは難しくなります.

不正の実行が困難になるので,組織運営の透明性が確保できるんですね!
学術研究や研究開発は中央集権的
多くの研究者は大学・国や自治体の研究所・企業などに所属して研究活動に従事します.

その理由は簡単!
研究を進めるためにはお金とリソースが必要だから.
組織に所属することで,その組織が保有する資産(資金や機器などのリソース)を使いながら研究を進めることができます.
また,科学研究費助成事業(科研費)や産学連携などによる外部資金を獲得する場合もありますね!
いづれにしても,資金の配分やリソースの管理などの権限や意思決定は特定の組織が主導しているので,学術研究や研究開発は中央集権的なアプローチと言えます.
分散型科学(DeSci)とは?
お待たせしました!
ようやく本題の「分散型科学(DeSci)とは何か?」です!

ちゃんとした定義はまだないと思うのですが,私個人としては以下のような表現ができると思います.
現行の中央集権的な手法では解決できない科学の課題に,分散型のアプローチ(ブロックチェーン技術とDAO)を応用することで,その課題解決を試みる取り組み
科学が抱える課題
現行の科学が抱える課題には次のようなものがあります.
- 研究資金の不足
- 研究データを中央管理者が独占
- 研究活動だけでは衣食住の維持が困難
- 科学的な情報の透明性の低さやデータの改ざん
- オープンアクセス化&オープンサイエンスの遅れ
分散型科学(DeSci)で研究を進めるようになると,上記の課題を解決することが可能になるかもしれません.
DeSciによる研究の流れ
分散型科学(DeSci)での研究活動は次のようになります.
- 研究者は任意の領域の研究を支援するDAOに研究テーマを申請
- 内容の審査(研究データの取り扱いなども含む)
- 研究資金を支援するかどうかをジャッジ
- 研究が採択された研究者は研究資金としてトークンを受け取る
- DAOの運営方針に基づいて研究データやIPを管理
コミュニティメンバーが,資金援助する研究プロジェクトを選定したり,研究データや知的財産(IP)を誰がどうするか決める意思決定に参加するのです.
研究者以外のメンバーもプロジェクトの管理に参加可能
DeSciでの研究活動では,研究者以外のメンバーが研究プロジェクトの意思決定に関与できるようになります.
例えば,2021年4月にできた “VitaDAO” は,研究開発データやIPの提供者・資金提供者にVITAトークン(VITA)を配布しています(VITAの保有者=DAOメンバー).
DAOメンバーは,VITAの保有数に応じて,研究開発データおよびIPの商業化を誰が行うか決める権利や特定の研究開発データやIPにアクセスする権利を得ます.

また,希少疾患のコミュニティである “Vibe Bio” は,希少疾患の当事者である患者にトークンを発行しています.
患者は資金援助する研究プロジェクトを選定する意思決定に参加できるので,患者自身がステークホルダーとなっているのです.

研究では飯が食えない問題も解決可能?
ゲノムベンチャー「バリノス(Varinos)」CEOの桜庭喜行さんは,日本では研究とビジネスの間にギャップがあることを指摘しています.

研究活動で生まれたIPを使って研究者が起業し,ビジネスとして成功することができれば,持続可能な研究活動も展開できるかもしれません.

ただ,研究を続けていきたい人やそもそもビジネスに興味がない人もいるのではないでしょうか?
DeSciでは,DAOのメンバーが望めば,DAOがIPを保有して商社や製造業などに流通する仕組みを確立できるかもしれません.
それで得た資金を研究費として研究者に分配するDAOが設立されれば嬉しいですね!
【まとめ】ブロックチェーンとDAOが創る分散型科学
研究活動に分散型アプローチを応用する分散型科学(DeSci)についてまとめてみました.
組織から研究費を獲得する点は現行の科学と変わりませんが,DeSci では研究者以外の者もプロジェクトに参加可能です.
資金援助するプロジェクトをどれにするか,研究データやIPをどうするか,得た資金を研究費として再分配するか等々を運営メンバーの投票活動により決める点で現行の科学とは異なります.
もっと勉強したい方へ
・以下の書籍では最先端のデジタルテクノロジーを分かりやすく解説されています.
・以下の記事では分散型科学の具体例を紹介しています.

・以下の記事では分散型科学の概要や課題を解説しています.

最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2023年12月29日 フール