実験毎にコントロールをおく理由は何ですか?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
先ずは,以下のやりとりをご覧ください。
実験結果はどうでしたか?
先生,上手くいきました。
どう上手くいったのかな?
仮説の通り,測定値が上昇していたんです!
コントロールの値はいくつ?
えっ!?
コントロールの値と比較して,どのくらい上昇しているの?
コントロールは置いてません.
なんで?
皆さんは,実験毎にコントロールを置いていますか?
予備実験や条件検討など,一部の例外を除いて,コントロールは必要です.
なぜなら,実験結果は,いつもコントロールと比較して評価するからです.
この記事では,コントロール(対照実験)の重要性についてまとめました.
本記事を読み終えると,コントロールの重要性に気付き,コントロールの置き忘れがなくなりますよ!
サマリー・実験結果に意味をもたせるには,コントロールとの比較が必要です.
・「コントロール」の呼称は,「対照」「コントロール」「ブランク」など色々あります.
実験の目的
各々の実験には「目的」があります.
実験をやることが目的ではありませんし,そうなってもいけません(笑).
実験の目的は「立てた仮説が正しいかどうか検証すること」です.
そして,その仮説を「検証する」ために,コントロールの存在が重要なのです.
いくつかの例を見てみましょう!
例1:酵素活性の測定
酵素Aの活性を調べるとします.
あなたは,酵素Aの活性が物質Bの影響を受けると考えました.
そして,物質Bは,酵素Aの活性を高めるという仮説を立てました.
酵素Aの活性を測定する方法は,すでに吸光度法として確立されています.
あなたは,吸光度の値を基にして酵素Aの活性を測定し,物質Bとの関係を調べることにしました.
どのような実験デザインを組めば,物質Bの影響を知ることできるでしょうか?
① 物質Bが存在しない時の酵素Aの測定値 ② 物質Bが存在するときの酵素Aの測定値
①と②を比較すれば良いですね!
この場合,①がコントロールとなります.
例2:培養細胞への遺伝子導入
遺伝子Cの働きを調べるとします.
あなたは,遺伝子Cを発現プラスミドにクローニングし,そのプラスミドを培養細胞に導入して,細胞に起こる変化を観察することで遺伝子Cの働きを調べようとしました.
どのような実験デザインを組めば,遺伝子Cの影響を知ることできるでしょうか?
① 遺伝子Cを持つプラスミドをトランスフェクションした細胞 ② 遺伝子Cを持たないプラスミドをトランスフェクションした細胞
①と②を比較すれば良いですね!
この場合,②がコントロールとなります.
例3:PCR法
検体中の遺伝子Dの有無をPCRで確認するとします.
どのような実験デザインを組めば,遺伝子Dの有無を知ることできるでしょうか?
① 検体から抽出したDNAを加えたチューブ ② 遺伝子Dが存在すると分かっているDNAを加えたチューブ ③ 遺伝子Dが存在しないと分かっているDNAを加えたチューブ
①-③を比較する必要がありますね!
この場合,②はポジティブコントロール,③はネガティブコントロールとなります.
詳しくは,以下の記事をご覧ください.
いずれの場合も,測定対象のみの実験結果だけでは何もわかりません.
「コントロールと比べて,どう変化しているのか?」が重要なのです.
コントロールの呼称
「コントロール」の呼称には,色々あります.
ココでは,私が知っている「コントロール」の呼称を集めてみました.
① コントロール ② 対称 ③ mock ④ sham ⑤ ブランク
コントロール
最も普通の言い方ですね.
実験系によっては,必ず陽性となるポジティブコントロール(ポジコン)や必ず陰性となるネガティブコントロール(ネガコン)のように異なる2つのコントロールが出てくることもあります.
対照
コントロールの日本語版ですね.
カタカナで「コントロール」と書くと文字数が多くなるので,全て「対照」に置換して文字数調整をしたことがあります(笑).
「日本人」と「邦人」みたいな関係だと勝手に思っています.
mock
感染症系の実験やトランスフェクション系の実験で見ることがあります.
「感染していない」「トランスフェクションしていない」を意味する時に “mock” と書かれることが多いです.
しかし,時々, “Control” と “mock” の2つが出てくることがあります.
この場合,解釈は難しいのですが…
“Control” は対照の処置を行った群で,”mock” は何もしていない群であることが多いです.
例えば,トランスフェクションの実験では以下の3群を用意することがあります.
① プラスミドをトランスフェクションした細胞 ② コントロールプラスミドをトランスフェクションした細胞 ③ プラスミドをトランスフェクションしない細胞
②が “Control” で,③が “mock” に当たると解釈しています.
実験系でプラスミド以外の要素による影響(今回の場合,トランスフェクション試薬の影響)を確かめることが必要な場合にこのようなデザインを組むことがあります.
sham
動物実験で見ることがあります.
ただ,この “sham” は結構厄介な単語で,使用者(分野)によって解釈が違うことがあります.
何も処置をしていない「未処置」を意味する時に “sham” と書く人もいれば,ネガティブコントロールを意味する時に “sham” と書く人もいます.
“mock” 同様に,実験系で処置以外の要素による影響(例えば,注射針の刺入による影響)を確かめることが必要な場合に “sham” と書き,”Control” と併用する人もいます.
分野による違いなのか,どれかの使い方が誤っているのか,私にはわかりません.
混乱するから,私は好きではありません(笑).
ブランク
主に日本語で使われる言い方です(英語で “Blank” と表記するのは珍しいです).
これは,ネガティブコントロールと同義であることが多いです.
ただ,”mock” や “sham” と同じく,実験系によっては,「コントロール」と併用することもあります.
以上,コントロール(対照実験)の重要性についてまとめました
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年4月30日 フール