濃度の単位と絶対量【濃度だけを気にしてませんか?】

濃度と絶対量って何が違うの?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
今回は濃度の話です.
それでは恒例のやりとりを見ていきましょう(笑).

先生,70%エタノールが無くなりました.

分子生物学用ですか?消毒用ですか?
どっちのエタノールですか?

どっちも同じですよね?

違うから「どっち?」と聞いています.
実験室でよく使う濃度は,モル濃度・パーセント濃度・重量濃度・規定度・百万分率がありますが,これらの使い分けは大丈夫ですか?
本記事を読めば,これら濃度の考え方と使い分けが分かりますよ!
サマリー・モルの考え方は,ダースやカートンと似ています.
・分子生物学用エタノールは70 v/v%,消毒用エタノールは 76.9~81.4 v/v%です.
・濃度だけでなく,物質の絶対量も重要です.
濃度の単位
先ずは,濃度の単位であるモル濃度・パーセント濃度・重量濃度・規定度・百万分率を1つずつ確認していきましょう.
モル濃度(Mまたはmol/L)
1 L の溶液中に存在する溶質分子の数(モル)を表します.
1モル濃度(1 Mまたは1 mol/L)は,1 molの溶質が 1 Lの溶液に入っていることを意味します.
「モル」が苦手な人は多いですね.定期テストや受験のために,仕方なく暗記しただけの人は特に(私もそうでしたw).実験で扱う試薬やタンパク質などを構成する分子は,肉眼で確認することができません.そこで,6.02 × 1023個の分子が集まったときを1モルと定めて,分子の数の概念を作りました.
難しいかもしれませんが,考え方はダースやカートンと同じです.
12本の鉛筆orビール瓶が集まると1ダース
タバコは10箱で1カートン
6.02 × 1023個の分子が集まると1モル
パーセント濃度
単位体積の液体中に溶けている溶質の量を表します.
ただし,その精度はそこまで厳密ではありません*1.
*1秤量する時の精度は,0.1 g 程度で大丈夫です.前出のモルの場合は,かなり厳密で0.001 g まで正確に測り取る必要があります.
そして,パーセント濃度には3種類の考え方があります.
① 重量百分率濃度(weight/weight [w/w%]) ② 重量対体積百分率濃度(weight/volume [w/v%]) ③ 体積百分率濃度(volume/volume [v/v%])
以下は,70%エタノールの場合です.
・70 w/w%:100 g の溶液中に70 g のエタノール
・70 w/v%:100 mLの溶液中に70 g のエタノール
・70 v/v%:100 mLの溶液中に70 mLのエタノール(分子生物学用エタノール)
そして,消毒用エタノールの濃度は,日本薬局方で76.9~81.4 v/v%と定められています.
「どっちのエタノールですか?」の意味が分かりましたか?
分子生物学用エタノールよりも消毒用エタノールの方が濃いですね.
なお,何も標記が無いパーセント濃度はw/v%を指します.
重量濃度
単位体積の溶液中に溶けている溶質の重さを表します.
一定の組成を持たない核酸やタンパク質の濃度表記で使います.
モル数は,塩基数やアミノ酸数に依存します.
つまり,塩基の数やアミノ酸の数が変われば,モル数も変わるのです.
全て同じ長さなら問題無いのですが,生物由来のサンプルでそのようなことは非常に稀ですよね.
だから,重量濃度(g/L,mg/L,mg/mLなど)で表します.
ちなみに,10 mg/mLは,1 w/v%と同じですよ.
規定度(N)
最近はモル濃度で表示することが多くなってきたので,あまり見かけませんね.
しかし,昔はよく使ってました!
今でもキットの説明書等で見かけることがあります.
溶液 1 L 中の溶質のグラム当量数*2のことを規定度といいます.
要は,モル濃度に酸またはアルカリの価数を掛けたものです.
単位は,”N” で表記します.
*2化学当量にグラムを付けたものをグラム当量といいます.化学当量には,少なくとも3種類の考え方があり,混乱を招くので現在では使用されていません.
百万分率(ppm)
ppmは,”part per million” の略語で,百万のうちに占める割合を表します.
1 ppm は,百万分の1(1/1000000)の濃度であり,1 mg/L と同じです.
ちなみに,十億分率(ppb)や一兆分率(ppt)もありますよ.
“billion” は注意が必要?
中学生のとき,英語の先生が “billion” は注意が必要と言ってました.
その理由は,アメリカ英語とイギリス英語で意味が違う(アメリカ英語では10億ですが,イギリス英語では1兆を意味する)からだと…
その時は何も考えず,先生の言うことを信じました(笑).
さて,ココで1つ疑問が生じます.
“ppb” はどうなのでしょうか?
アメリカでは十億分率で,イギリスでは一兆分率だったら厄介ですね(笑).
気になったので,英辞郎で “billion” を調べてみました.
1970年代前半まで?
私が中学生だったのは,2000年代(笑).
当時の先生は,たしか40代だったから,その先生が中学生だった時の知識をそのまま教わってますね(笑).
先生の言うことを(いい意味で)疑って自分で調べていれば,もっと早くアップデートできたのに…
不要な知識ほど,よく覚えているものです(笑).
とりあえず,現在では,アメリカ・イギリス関係なく「10億」を意味します.
だから,ppbは”part per billion” の略語で,十億のうちに占める割合を表します.
濃度の古い表記法
私の感覚ですが,50歳以上の人たちの中には “1 mg/mL” を “1 γ” とか “1 γ/λ” と書くことがあります.
“γ” は “μg” で,“λ” は “μL” を意味するので,“1 γ/λ” は “1 μg/μL” = “1 mg/mL” となるのですが…

分かりにくい!!!
どうしてギリシャ文字で表現されていたのか?
私もよく分かりません!
濃度の単位とその換算【まとめ】
パーセント濃度・重量濃度・百万分率は,換算が可能です.
ココで,簡単にまとめます.
【サンプルが固体の場合】
1 % = 10000 ppm = 10000 mg/kg または 0.0001 % = 1 ppm = 1 mg/kg
【サンプルが液体の場合】
1 % = 10000 ppm = 10000 mg/L または 0.0001 % = 1 ppm = 1 mg/L
物質の絶対量は?
実験で使う試薬やタンパク質などは,その濃度ばかりを意識しがちです.
では,実際に反応に関わっている物質の量はどのくらいなのでしょうか?
濃度と使用量が分かれば簡単に計算できますよ.
Q1.抗体の使用量
10 mg/mL の抗体原液を 5 μL 取り,10 mL の抗体希釈液で希釈しました.
どのくらいの抗体が,この10 mL 中に含まれるでしょうか?
【解説】
10 mg/mL = 10 μg/μL なので,5 μL は50 μg(50 μg/5μL)ですね.
だから,10 mL の抗体希釈液中には,50 μg の抗体が存在します.
Q2.プライマーの使用量
注文していたプライマーが届きました.
現在,100 μM のプライマー溶液となっています.
これから行う PCR 反応では,10倍希釈したプライマー溶液を1.5 μL 使います.
チューブ内には,どのくらいのプライマーが存在するでしょうか?
【解説】
10倍希釈しているので,10 μM のプライマー溶液となりました.
10 μM = 10 μmol/Lです.
10 μmol/L = 10 μmol/1000000 μL = 10 pmol/μL なので,15 pmol/1.5 μL です.
チューブ内には,15 pmol のプライマーが存在します.
Q3.6 Nの塩酸
ELISAキットの説明書に,反応停止液は 6 N の塩酸とありました.
モル濃度や重量百分率濃度は,どのくらいなのでしょうか?
【解説】
モル濃度に酸またはアルカリの価数を掛けたものが規定度でしたね.
だから,6 Nの塩酸は 6 mol/Lの塩酸ですね!
市販の塩酸の濃度は,約35 w/w%で,その比重は1.179です.
よって,1 Lの塩酸の中には,350 mL × 1.179 g/mL ÷ 36.46 g/mol = 11.32 molのHClが溶けていることになります.
11.32 mol ÷ 6 mol = 1.89 倍 なので,35 w/w% ÷ 1.89 = 18.5 w/w%です.
つまり,6 N の塩酸は,6 mol/Lの塩酸であり,約18.5 w/w%の塩酸ということになります.
あとがき【私は「濃度」が嫌いでした】
私は,小学校の食塩水の問題で,すでに「濃度」に抵抗がありました.
だから,この手の話は苦手でした.
でも,一度理解すると試薬調整なども楽しくなることに気付きました.
加えて,実験ノートに使用濃度と絶対量を併記することで,実験条件がより明確になりました.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2019年11月21日 フール