培地の色がピンク色になってきた.キレイだけど大丈夫かな?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
細胞培養用の培地は,赤色をしています.
それは,中性付近に変色域を持つpH指示薬,フェノールレッドが入っているからです.
pHを測定するには,pHメーターを使う必要があります.
しかし,pHの測定を無菌的に実施するのは困難です.
だから,pH指示薬を添加して,視覚でpHをモニタリングしているのです.
ところで皆さんは,最初は赤色だった培地が徐々にピンク色に変わったなんて経験はありませんか?
本記事を読めば,その理由が分かりますよ!
サマリー・細胞の代謝産物が蓄積すると培地の色が黄色になります.
・培地中のグルタミンが分解されると培地の色がピンク色になります.
培地の色が黄色になった
以下の理由で培地の色が黄色になることがあります.
① 培地交換の頻度が不適切 ② 細菌のコンタミネーション
細胞または細菌の代謝産物(乳酸)が蓄積すると培地が酸性に傾くからです.
培地交換の頻度が不適切な場合は,徐々に培地の色が変化します.
しかし,細菌のコンタミネーションの場合は,比較的早く黄色に変化します(夕方に継代した場合,翌朝には黄色になってます).
培地の色がピンク色になった
以下の理由で培地の色がピンク色になることがあります.
① 酵母(カビ)のコンタミネーション ② グルタミンの分解 ③ フタの閉め忘れ
酵母(カビ)のコンタミネーション
細菌の場合と異なり,酵母(カビ)がコンタミした場合は,pHが上昇します.
酵母は,取り込んだアミノ酸の一部をアンモニウムイオンとして培地中に放出すると報告されています.
アンモニウムイオンが培地中に蓄積するので,培地がアルカリ化するんですね!
グルタミンの分解
培地中のL-グルタミンというアミノ酸は,非常に不安定で分解されやすいという特徴があります.
L-グルタミンは,4℃で保存した培地で最も安定します.
細胞の継代や培地交換前に培地をボトルごと37℃で温めていませんか?
それ,L-グルタミンの分解を促進しますよ!
培地中のグルタミンが分解されると,アンモニアが遊離します.
そのアンモニアが培地をアルカリ傾向にするため,pH指示薬が反応してピンク色になるのです.
もうお気づきですね.
培地を温めることで,生体内の反応(有害な遊離アンモニアは,グルタミン酸と結合されて グルタミンとなることで無毒化される)と逆のことが起きているのです.
アンモニアは細胞毒性を示しますから,実験系に悪影響を与えるかもしれません.
培地を温めるときは,50 mL遠心管などに使用する分だけ分注して温めましょう.
フタの閉め忘れ
何かしらの原因によって培地中のCO2濃度が下がっている場合もピンク色になります.
最も多いのは,フタの閉め忘れでしょうか?
ほとんどの培地は,5% CO2の条件下で中性となるように調整されています.
フタが緩んでいると,培地中のCO2が大気中へ逃げてしまうので,培地中のCO2濃度が低下します.
CO2ガスボンベの交換をラボメンバーが行っているところでは,交換後の校正を忘れるミスがあります.
その場合も,インキュベータ内のCO2供給がおかしくなるので,ピンク色になることがあります.
~あわせて読みたい~
もっと勉強したい方へ
https://www.sigmaaldrich.com/content/dam/sigma-aldrich/docs/Sigma/Product_Information_Sheet/t075.pdf
MARUYAMA, Yo, et al. Availability of amino acids extends chronological lifespan by suppressing hyper-acidification of the environment in Saccharomyces cerevisiae. PLoS One, 2016, 11.3: e0151894.
以上,培地の色の変化のまとめでした.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年3月30日 フール