なぜ,細胞培養でCO2インキュベーターを使うんですか?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.
こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
動物の細胞培養では,例外はありますが,37℃・5% CO2インキュベーターを使います.
なぜ,CO2インキュベーターなのでしょうか?
単なる37℃のインキュベーターではダメな理由はなんでしょうか?
本記事では,細胞培養でCO2インキュベーターを使う理由をまとめました.
サマリー・生体は,体液のpHを正常範囲に維持するために種々の緩衝系を有している.
・血液のpHを正常な範囲に維持する主要な緩衝系は,HCO3–/CO2緩衝系である.
・細胞培養は,HCO3–/CO2緩衝系を利用して,培地中のpHを一定の範囲に維持している.
生体に存在する緩衝系
健常人の動脈血のpHは7.37-7.42です.
そして,生体は,pHを正常範囲に維持するメカニズムをもっています.
本記事では,その詳細はまとめません.
詳細は生理学や生化学などの専門書を参考にしてください.
ココでは,代表的な生体の緩衝系だけをお示しします.
細胞外の緩衝系 ① 炭酸水素イオン/二酸化炭素(HCO3-/CO2)緩衝系 ② リン酸一水素イオン/リン酸二水素イオン(HPO42-/H2PO4-)緩衝系
細胞内緩衝系 ③ 有機リン酸(ATP, ADP, AMPなど) ④ ヘモグロビン
呼吸の代償作用
腎の代償作用
細胞培養用の培地は炭酸水素イオン/二酸化炭素緩衝液
動物細胞の培養で使う培地には,以下のものを含んでいます.
1. 血清 2. グルコース 3. アミノ酸 4. ビタミン類 5. 各種イオン・その他栄養素
これは,血液の組成に近い組成となっています.
そして,細胞培養でもpHを正常範囲に維持するメカニズムが必要です.
血液の緩衝系が炭酸水素イオン/二酸化炭素(HCO3-/CO2)緩衝系なので,それにならって炭酸水素イオン/二酸化炭素(HCO3-/CO2)緩衝系が使われるようになりました.
培地を使う直前に,炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を加えていると思います(市販品の場合,すでに入っていることが多いです).
これは,培地を炭酸水素イオン/二酸化炭素緩衝液にするために加えています.
炭酸水素イオン/二酸化炭素緩衝液で起きていること
炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)から供給されたHCO3–は,細胞の代謝で生じた酸(H+)と結合し,二酸化炭素(CO2)と水(H2O)になります.
緩衝系の存在によって,酸(H+)は二酸化炭素(CO2)に形を変えました.
二酸化炭素(CO2)は揮発性の酸なので,培地の外へ気化して出ていきます.
単なる37℃のインキュベーターではダメな理由
もし,インキュベーター内部にCO2が無ければ,緩衝液中のCO2が減っていきます(物質は濃度が高い方から低い方へ移動するので).
緩衝液中のCO2が減ると,炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)の量が相対的に多くなるので,培地は塩基性側に偏ってしまいます.
単なるインキュベーターでは,pHを正常範囲に維持するメカニズムがくずれてしまいますね.
5% CO2 37℃のインキュベーターの利用
インキュベーター内部にCO2を充満させると,緩衝液中のCO2と大気中のCO2が平衡になります.
よって,緩衝液中のCO2が減ることなく,pHを正常範囲に維持するメカニズムは機能し続けるわけです.
CO2 インキュベーターが利用できないとき
それでは,CO2 インキュベーターが設置できない場合やCO2 インキュベーターの外で細胞培養しなければならない実験系では,どうすれば良いでしょうか?
そういう時は,HEPES緩衝系を利用します.
私は,細胞培養用培地へ,最終濃度が10-25 mmol/L HEPESとなるように加えています.
以上,細胞培養でCO2インキュベーターを使う理由でした.
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2020年3月22日 フール