細胞ライセートの作製方法と使い分け【まとめ】

セルライセートの作製方法
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細胞ライセートの作製方法と使い分け【まとめ】

 

セルライセートの作り方って色々あるんですね.使い分けってあるんですか?

本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.

 

こんにちは.

博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.

皆さんは,セルライセートをどのように調整していますか?

 

細胞にライセートバッファーを加えています!

 

そのライセートバッファーの組成は何ですか?

 

ライセートバッファーって1種類じゃないの?

 

実は,「細胞溶解=ライセートバッファーを使う」だと思っている人は多いです.

そして,ライセートバッファーも1種類だけだと思っている方も多いです.

プラスミド抽出やタンパク質抽出の実験系では,サンプル(細菌・培養細胞・組織など)および目的物質とその局在(細胞質・細胞膜・細胞壁・核・培養上清など)に応じて,細胞の破砕方法を使い分ける必要があります.

そこで本記事では,セルライセートの作製方法と使い分けをまとめました!

本記事を読み終えると,抽出実験で適切なセルライセートを作ることができるようになりますよ!

 

サマリー・細胞膜・核・細胞質など細胞の特定画分を調製する方法があります.

・細胞が完全に破壊する方法があります.

・ヌクレアーゼやプロテアーゼの活性阻害も忘れてはいけません.

細胞の破砕方法【総論】

細胞の破砕方法には,大きく分けて2つの方法があります.

① マイルドな条件で細胞を破砕する方法
② 強力な条件で破壊する方法

マイルドな条件で細胞を破砕する方法

比較的簡単に実施できる方法です.

培養細胞・血球細胞・細菌などのサンプルでよく使用します.

また,細胞膜・核・細胞質など細胞の特定画分を調製する方法としても有用です.

強力な条件で破壊する方法

動物組織の破砕・細胞壁を持つ植物組織の破砕で使用する方法です.

この方法は,細胞を完全に破砕することができます.

また,破砕中に熱が発生することもあるので,サンプルの熱による変性も防ぐ必要があります.

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マイルドな条件で細胞を破砕する方法

マイルドな条件で細胞を破砕する方法には,以下の4つの方法があります.

① 凍結融解法
② 酵素消化法
③ 浸透圧ショック法
④ 界面活性剤を使用する方法

凍結融解法

細胞懸濁液の急速な凍結・融解を繰り返す方法です.

急速な凍結は,細胞内に氷晶形成を誘導します.

この氷晶が細胞膜を破壊するので,融解すると細胞が破壊されています.

細胞懸濁液の量によりますが,少量なら-80℃の冷凍庫で,大量なら液体窒素を使うのが良いでしょう.

ライセート調整では,最低でも3回は凍結融解を繰り返しましょう!

メリット

  • 操作が簡単です.

デメリット

  • 最低3回は繰り返すので,時間がかかります.
  • タンパク質が失活することがある.

酵素消化法

細胞壁を有する細胞を破砕する方法です.

細胞壁は,生物ごとに組成が異なります.

だから,それぞれの細胞に特異的な酵素を使用する必要があります.

  • 細菌:リゾチーム
  • 植物:セルラーゼ・ぺクチナーゼ
  • 酵母:リチケース・ザイモリエース

メリット

  • 難溶性の細胞壁を破壊することができます.

デメリット

  • 酵素自体がタンパク質なので,タンパク質精製の場合は酵素も夾雑物になります.
  • 少量スケールと大量スケールでは,しばしば処理条件が一致しません.

浸透圧ショック法

細胞を低張溶液に懸濁することで,細胞を膨脹させて破壊する方法です.

使用する低張液は,滅菌水・50 mM グルコース溶液・塩化アンモニウム溶液などがあります.

メリット

  • 操作が簡単です.
  • 細胞小器官の破壊は最小限なので,ヌクレアーゼやプロテアーゼの影響が少ないです.

デメリット

  • 浸透圧ショック法のみでは,十分なライセートを作ることはできません.

界面活性剤を使用する方法

界面活性剤を添加して,疎水性の高いタンパク質の溶解性を高める方法です.

界面活性剤は,非イオン性・イオン性・両イオン性に分類されます.

詳細は以下の記事でまとめています.

緩衝液に添加する界面活性剤の役割【バッファー各論】

メリット

  • 膜タンパク質や難溶性タンパク質の溶解を可能にします.

デメリット

  • 界面活性剤の特徴を踏まえた使い分けが必要です.
  • 界面活性剤の種類や濃度によっては,タンパク質や核酸の構造を破壊するため,プロテアーゼやヌクレアーゼの影響を受けやすくなります.
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強力な条件で破壊する方法

強力な条件で細胞を破砕する方法には,以下の3つの方法があります.

① 超音波処理法
② 乳鉢による破砕
③ ホモジェナイザーによる破砕

超音波処理法

パルス状の超音波を用いて,細胞または細かくした組織を撹拌し溶解する方法です.

超音波プローブから発するエネルギーが,極小の気泡を発生・破裂させることで,細胞に衝撃を与え破砕します.

メリット

  • 溶解効果が高いです.
  • DNAもせん断することができるので,粘性を抑えることができます.

デメリット

  • 処理中は熱が発生しやすいです.サンプル温度の上昇はタンパク質変性の原因です.サンプルを氷中で冷却し,且つ,短時間の処理を繰り返し行うようにしましょう!
  • 少量スケール(多くても 100 mLまで)にしか使えません.

乳鉢による破砕

乳鉢と乳棒を使用して磨り潰す古典的な方法です.

組織や細胞を液体窒素で凍結し,粉状になるまで磨り潰します.

植物細胞の破壊で有用です.

メリット

  • 特別な機械は要りません.

デメリット

  • 調整者の手技の影響が強く,再現性の確保が難しいです.

ホモジェナイザーによる破砕

組織を機械的に破砕する器具(ホモジェナイザー)を使用する方法です.

4種類のホモジェナイザーがあります.

① フレンチプレス:細菌や真菌の破砕に使うことが多い
② テーパー型ホモジェナイザー:硬い組織の破砕に使うことが多い
③ ポッター型ホモジェナイザー:柔らかい組織の破砕に使うことが多い
④ ダウンス型ホモジェナイザー:細胞ペレットの破砕に使うことが多い

メリット

  • 大量のサンプル調整が可能です.
  • 細胞小器官の破壊は最小限なので,ヌクレアーゼやプロテアーゼの影響が少ないです.

デメリット

  • 専用の機器・装置は必要です.
  • 装置や細胞の種類により抽出できるライセートの質が変わるので,条件検討が必要です.

セルライセートバッファー

最後にセルライセートバッファーの組成についてまとめます.

論文や会話では「ライセートバッファー」の一言で片づけられることが多いですが,その組成は非常に多岐にわたります.

私は,ウェスタンブロット法または免疫沈降法のためにセルライセートを調整することが多いので,ココではその組成をご紹介します.

ウェスタンブロット法で使用するライセートバッファー

以下は,私がSDS-PAGEからWBという流れの実験で,よく使うバッファーです.

TNE250バッファー*

1000 mL最終濃度
50 mM Tris-HCl, pH 7.650 mL50 mM
2M NaCl125 mL250 mM
NP-4010 mL1%
250 mM EDTA4 mL1 mM
蒸留水811 mL

RIPAバッファー(1)*

1000 mL最終濃度
1M Tris-HCl, pH 7.650 mL50 mM
2M NaCl75 mL150 mM
NP-4010 mL1%
デオキシコール酸ナトリウム5 g0.50%
10% SDS10 mL0.10%
250 mM EDTA4 mL1 mM
蒸留水871 mL

TNE250バッファーでは上手くいかなったときに,RIPAバッファーを使います.

イオン性の界面活性剤が入っているので,目的タンパク質の検出感度が上がります.

RIPAバッファー(2)*

1000 mL最終濃度
1M Tris-HCl, pH 7.650 mL50 mM
2M NaCl75 mL150 mM
TritonX-10010 mL1%
デオキシコール酸ナトリウム5 g0.50%
10% SDS10 mL0.10%
250 mM EDTA4 mL1 mM
蒸留水871 mL

使用する非イオン性界面活性剤をTritonX-100に変えています.

文献調査等で,「TritonX-100の方が良さそう」と事前に分かっている時に使用します.

*プロテアーゼインヒビター・フォスファターゼインヒビター・還元剤を使用直前に加えています.

免疫沈降法で使用するライセートバッファー

以下は,私が免疫沈降の実験で,よく使うバッファーです.

TNE150バッファー**

1000 mL最終濃度
50 mM Tris-HCl, pH 7.650 mL50 mM
2M NaCl75 mL150 mM
NP-4010 mL1%
250 mM EDTA4 mL1 mM
蒸留水811 mL

イオン強度が高い溶液は,静電的な相互作用力で形成されている凝集体の解離を促進するので,Na+の濃度を落としたTNEバッファーを使います.

RIPAバッファー(3)**

1000 mL最終濃度
1M Tris-HCl, pH 7.650 mL50 mM
2M NaCl75 mL150 mM
NP-4010 mL1%
デオキシコール酸ナトリウム2.5 g0.25%
250 mM EDTA4 mL1 mM
蒸留水861 mL

イオン性界面活性剤は,タンパク質の内部およびタンパク質の分子間の非共有結合を断ちます.

強力なイオン性界面活性剤であるSDSは,免疫沈降には向かないと考えるので入れていません.

デオキシコール酸ナトリウムの有無に関しては,賛否が分かれるところだと思います.

**プロテアーゼインヒビターを使用直前に加えています.

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以上,セルライセートの作製方法と使い分けのまとめでした.

最後までお付き合いいただきありがとうございました.

次回もよろしくお願いいたします.

2020年6月7日 フール