
先生が「市販抗体はヒト用しかないから,その抗体が犬にも使えるのか確認して」だって…どうすれば良いの?
本記事は,このような疑問にお答えします.
本記事の内容・ヒトやマウス以外の動物に対する研究用抗体は少ない
・「市販のヒト用抗体がその他の動物に使用可能か?」を証明する方法がある

こんにちは.
元研究者のフールです.
皆さんは,ヒトやマウス用の抗体を別の動物(例えば,犬・猫・フェレット・鶏・コウモリなど)で使用したことはありますか?
多くの市販抗体はヒト・マウスを対象としています.

需要が少ないせいか,その他の動物に対する研究用抗体は非常に少ないですね.
でも,研究対象が犬・猫・鶏・コウモリなどの動物でも抗体を使用した研究は盛んです.
そして,市販抗体を使用している研究では,ヒトやマウス用の抗体がその他の動物でも使えるのかを検討しています.
どのようにしているのか気になりませんか?
この記事では,「市販のヒト用抗体がその他の動物に使用可能か?」を証明する方法についてまとめました.
本記事を読み終えると,抗体を使った研究の幅が拡がりかもしれませんよ!
サマリー・強制発現法,ノックアウト法,ペプチド競合アッセイ法のどれかでヒト用抗体がその他の動物に使用可能かを証明します.
ヒト用抗体は犬や猫にも使える?
病態解析の研究を分子レベルで行う場合,最初に考えるのは「対象とする分子(タンパク質)が病態に関与しているのか?」ですね!

そのタンパク質が発現しているのか?

健康な個体と病気の個体でタンパク質の発現の有無(または程度)や局在は変化するのか?
などを評価したくなります.
そして,PCR法やハイブリダイゼーション法でmRNAを検出したり,ELISA法・WB法・IHC法などでタンパク質を検出したりして,「対象とする分子が病態に関与しているのか?」を証明していきます.
PCR法やハイブリダイゼーション法は,塩基配列が明らかとなっていればプライマーやプローブを合成するだけで実験を進めることができます(酵素の種類や反応プロトコールの調整の検討は必要です).

でも,ELISA法・WB法・IHC法などのタンパク質レベルの実験は,すこし手間がかかります.
なぜなら,市販抗体の大半はヒト・サル・マウスを対象としたもので,その他の動物(例えば,牛・豚・犬・猫・フェレット・鶏・コウモリ)に対する研究用抗体は少ないからです.
研究対象がヒトやマウスならば問題はありません.
しかし,私のように獣医学を学んだ者や生物学・農学を学んだ者が研究者となると,犬・猫・その他の動物が対象になることも珍しくありません.
その場合,「市販されているヒト用抗体は,その他の動物(例えば,犬や猫)に使用可能か?」を証明しなければ,その抗体を実験に使用することはできません.

この予備実験が成立して初めてタンパク質を検出する実験系ができあがるので,タンパク質レベルの実験はとても大変です.
犬や猫にも使える市販抗体の証明方法
それでは,どうやってヒト用抗体が犬や猫などの動物に使用可能かを証明するのでしょうか?
私が行ったことがあるのは,以下の3つ方法です.
- 強制発現法
- ノックアウト法
- ペプチド競合アッセイ法
強制発現法
対象分子が発現していない培養細胞に犬や猫などの動物の分子を強制発現させる方法です.
強制発現の前後で抗体の反応の有無が変化すれば,その抗体が犬や猫などの動物にも交差反応すると考えることができます.
ノックアウト法
対象分子を発現している犬や猫などの培養細胞で,ターゲット分子をコードする遺伝子を破壊する方法です.
ノックアウトの前後で抗体の反応の有無が変化すれば,その抗体が犬や猫などの動物にも交差反応すると考えることができます.
ペプチド競合アッセイ法
抗体が認識する抗原部位が明らかとなっている場合に使用可能な方法です.
抗原認識部位の対象動物における相同配列ペプチドを合成し,検討対象の抗体と事前に反応させます.
ペプチドと反応後の抗体のシグナルが消失(または減弱)することを確認できれば,その抗体が対象動物の抗原認識部位と交差することを証明できます.
最終手段は抗体の自作
上記の方法を検討しても実験に使用可能な抗体が見つからない場合は,抗体を自作するしかありません.
最近ではオリジナル抗体を作製するサービスも色々あるので,研究費を確保できているのであれば利用するのもアリだと思います.
でも,対象分子によって「抗体を作製しやすい・しにくい」みたいなノウハウが各種サービスにありますので,その辺りをしっかり吟味した方が良いでしょう!
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2023年6月8日 フール