
オートクレーブ滅菌するとき,なんで対象物にアルミホイルを被せるの?
本記事は,このような「なぜ?どうして?」にお答えします.

こんにちは.
博士号を取得後,派遣社員として基礎研究に従事しているフールです.
オートクレーブ滅菌するとき,対象物にアルミホイルを被せている方が多いと思います.
それでは,質問です.
なぜ,アルミホイルを被せているのでしょうか?
この質問にちゃんと答えられる人が少ないと知りました.
ちなみに,キムワイプをティッシュと言っていた私の同僚は,「アルミホイルはおまじないだ」と言っていました.
断言します.
理由は色々ありますが,その色々の中に「おまじない」は入っていません(笑).
本記事では,対象物にアルミホイルを被せる理由についてまとめています.
サマリー・アルミホイルを被せる理由は,水滴の混入を防止するため.
・アルミホイルを被せる理由は,キャップの汚染を防止するため.
・アルミホイルを被せる理由は,外装の滅菌状態を維持するため.
オートクレーブ装置と滅菌の原理
オートクレーブとは,内部を高温高圧に維持できる圧力釜のような装置の名称です.
また「オートクレーブする」のように,装置を用いた滅菌処理自体を指すこともあります.
オートクレーブは,気圧と温度を徐々に上昇させます.
気圧を1気圧(常圧)から2気圧に上げることで,水の沸点が上昇します.
これにより,水蒸気の温度は121℃まで上がります.
この高温の水蒸気が,滅菌対象物に直接接触することで対象物は滅菌されるのです.
オートクレーブ滅菌後の対象物は,濡れていると思います.
これは,滅菌対象物に蒸気が直接接触した証拠*1なのです.
*1滅菌対象物は,蒸気に比べたら「冷たい」です.だから,直接接触した蒸気は,対象物表面で冷却されて凝集します.
オートクレーブ滅菌に関しては,以下の記事でもまとめています.

真空ポンプを搭載したオートクレーブ
装置内は「高温の水蒸気」で満たされる必要があります.
だって,空気が残留すると,その部分に水蒸気が接触しない可能性がありますよね!
「高温の水蒸気が,滅菌対象物に直接接触することで対象物は滅菌される」のですから,水蒸気が接触しない部分の滅菌はできません(笑).
空気の残留はオートクレーブ滅菌の天敵なのです.
だから,オートクレーブ装置には,残留空気を排除する機能が付いています.
① 重力加圧脱気法 ② 真空脱気プリバキューム法
①は装置内に蒸気を導入し,加圧&蒸気と空気の重量差を利用して残留空気を排出する方法です.
②は真空ポンプによって装置内の空気を強制排除し,蒸気を供給する方法です.
①と②の違いは,真空ポンプの有無ですね.
①は真空ポンプが無いので「残留空気」の残留がありそうです(笑).
②は真空ポンプが搭載されているので,ポンプが正常に機能している限り「残留空気」の残留は心配無いでしょう.
現在,実験室にあるオートクレーブの多くは,真空脱気プリバキューム式だと思います.
アルミホイルの目的はコンタミの防止
実験系に影響するものが,対象物に混入することをコンタミネーション(通称,コンタミ)と言いますね.
対象物に被せるアルミホイルの目的も,簡単に言えば,コンタミ防止です.
「簡単に」と書いた理由は,いくつかの各論があるからです.
これから説明していきます.
水滴の混入防止
オートクレーブ滅菌後の対象物は濡れています.
最近のオートクレーブには滅菌サイクルに乾燥の工程もついていますが,古い装置にそんなものはありませんでした.
繰り返しますが,滅菌後の対象物は濡れています.
対象物だけでなく,対象物を入れていたカゴなど,装置内の全てが濡れています.
この状態で装置を開閉するとどうなるでしょうか?
扉の内側やカゴに着いた水滴が落下しますね.
扉を開けた瞬間から装置内の滅菌状態は解除されますので,落下した水滴はコンタミの原因になります*2.
無菌操作が必要な物(例:培地)ならば一発でアウトです*3.
また試薬類の場合,調整した濃度がズレてしまいますね*3.
以上のように,乾燥機能が無い装置では水滴の混入を防ぐ目的があります*4.
*2「試薬ビンならキャップがあるじゃん♪」と思いませんか?実は,それでもコンタミは起こります.毛細管現象により,試薬ビンとキャップの隙間から液体は侵入できるのです.アルミホイルは,水滴がキャップの下端に付着することも防ぎます.
*3医療現場等で管理されているオートクレーブとは異なり,ラボ用のオートクレーブでは,様々な人が様々な試薬を滅菌処理しているでしょう.よって,オートクレーブには,試薬由来の色々な成分が蓄積していると考えることができます.色々な成分が含まれた液体が水滴として付着している可能性もあるので,アルミホイルの水滴の混入防止効果は,無菌操作の確保や濃度維持だけに限定されません.
*4乾燥機能がある装置でも,対象物の密度が高いときは,乾燥が不十分なことがあります.その場合でもアルミホイルがあれば大丈夫ですね.
キャップの汚染防止
これは,試薬ビンのフタにアルミホイルを被せている場合です.
アルミホイルと一緒にキャップを外したとき,キャップを実験台の上で下向きに置くことができます.
「ん?」と思った方へ,図を作りました!
被せたアルミホイルが「脚」になるので、キャップが宙に浮いた状態になりますよね.
キャップの下端が汚染された実験台と直接接触しないので,コンタミの防止になります*5.
*5キャップを上向きに置くと,室内の浮遊物によるコンタミの恐れがあります.「脚」として機能しない場合は,アルミホイルを三重にするまたは厚手の物を使用しましょう.
安全キャビネットやクリーンベンチが無い環境でも使える
先ほど「キャップの下端が汚染された実験台と直接接触しないので,コンタミの防止」と書きました.

安キャビの内部なら生物学的にクリーンなんだから,蓋をおいても問題ないやろ.
って思った方もいると思います(笑).
その通りです.
安全キャビネットやクリーンベンチがある環境ならば.
これは安全キャビネットやクリーンベンチが普及していない時代または安全キャビネットやクリーンベンチが無い環境での話ですね.
ガスバーナーやアルミホイル等で,簡易の無菌操作エリア設計し,細胞培養などの無菌操作をやることがあります.
例えば,こんな時です↓
- 学生実習で人数分の安全キャビネットやクリーンベンチを用意できない時
- 安全キャビネットやクリーンベンチが混雑していて空かない時
- フィールドワークで野外サンプルの初代培養をする時
無菌操作エリアは非常に狭く,キャップなど余計な物はできる限りを置きたくないのです.
だから,上述のような対応をとることがあります.
使用直前まで対象物の外装の滅菌状態を維持
チップ箱やチューブ箱などでは,箱全体をアルミホイルで包むことがあります.
クリーンベンチや安全キャビネット内でのみ使用する物の場合は,できる限り汚染されたものを持ち込みたくないと考えるのが普通だと思います.
外装の滅菌状態を維持したまま,クリーンベンチ内に持ち込みができるようにアルミホイルで包み,持ち込む直前にアルミホイルを外すという方法がとられます*6, 7.
*6チップ箱がプラスチック製品の場合は,クリーンベンチ内の紫外線滅菌で劣化してしまいます.紫外線滅菌したアルミホイルを別で用意し,ベンチ内に置いておきましょう.使用後は,そのアルミホイルで保護してから紫外線滅菌すれば問題ありません.
*7試薬ビンの場合でも,この考え方は応用できます.ビンのキャップにアルミホイルを被せておくことで,滅菌処理後,直接手を触れることなくキャップを締めることができるからです.
アルミホイルの被せ方
ただ,アルミホイルを被せるだけですが,少し工夫が必要です.
なぜなら,アルミホイルをきつく巻きすぎると滅菌対象物の中に水蒸気が入っていかないので.
上手な被せ方は,キャップの下端よりも少し長めに巻き,余った部分のホイルがラッパ状に広がるようにした状態にすることです.
アルミホイルの表裏
時々,アルミホイルの表面を外側と内側のどちらにするべきかと聞かれます.
答えは,「どちらでも良い」です.
あえて言えば,表側(光沢がある側)を外側にしましょう.
滅菌完了後はその光沢が失われるので,滅菌前と滅菌済を識別できます.
節約のためにアルミホイルを繰り返し使う研究室では,何の役にも立たない雑学ですね(笑).
もっと勉強したい方へ
・DION, Marcel; PARKER, Wayne. Steam sterilization principles. Pharmaceutical Engineering, 2013, 33.6: 1-8.
・野中矩仁,『プラスチック材料の耐候性』, 繊維と工業, 1984, Vol.40, No.7, 493-503
いかがでしたか?
アルミホイルは「おまじない」では無かったでしょう(笑).
明日からオートクレーブ滅菌する時は,アルミホイルの役割もしっかり考えながら被せてくださいね!
最後までお付き合いいただきありがとうございました.
次回もよろしくお願いいたします.
2019年11月28日 フール